シオンの心情
義弟のシオンくんは弟というより従者より?
義弟くんは勉強面ではセシリアよりも勤勉で火、闇の2属性持ちです。
今後は仲良くなっていくにつれ「姉さん」と呼ぶようになる流れにします。
今はセシリア嬢と呼んでいます。
僕は生まれた時から両親のあやつり人形だった。
幼い頃から他の貴族の子息に遅れを取らないように、と色々な勉強をさせられた。
出来ない時は食事も与えられない。
両親と直接話すことは少なく、常に屋敷の人間に行動を監視されていた。
僕は火と闇属性の魔法が使えるため、気を抜くと相手の悪意が聞こえてくる。
両親からの愛情は感じられず。むしろ何か1つできないと無能扱い、厄介払いされる。
聞こえないようにするには魔力が足りなくて、次第に相手の悪意をなくす方が簡単だと気づいた。
僕は自分を守るために、
望まれる言葉を吐き、望まれる行動をした。
そこに僕の意思は必要なかった。
幸いにして僕の容姿は良いらしく、家に来る客人に母上はよく僕を自慢していた。
でも、別に「僕」をみて自慢しているわけじゃない。
優秀で、見目麗しい、自慢の息子。という僕の意思の無い偶像の様なものを自慢しているだけ。
客人が帰ると飽きたとでもいうようにすぐに退室を促され、言葉少なく「ご苦労様。もう行って良いわよ。」
と言われる。
だからだろうか。僕に全く無関心で家庭教師に全てを任せる父や僕の偶像を自慢するばかりの母上には全くと言って良いほど好意もなければ嫌悪もなかった。
思えば、生まれたときからずっと周りに何かを強要されて来た為、どこに行ってもそれなりに求められる自分を演じることができる。
自分に意思があるのか、もはや自分でもわからなくなっていた。
6歳になったある日、転機が訪れた。
冬季に南方へ旅行に行っていた両親が、馬車での移動中に野党に襲われて死んだのだという。
涙は出なかった。
近しい親戚の何人かが葬式に参加していた。
伯爵貴族とはいえ、6歳の僕にはまだ領地運営はできない。
領地もそれなりに大きい為、媚びる様に僕の助けを買ってでる親切を装った貴族が群がって来た。
『ここはひとつ後継人になって伯爵家の財産を…』
『こんなガキ、騙すのは簡単だ。ひとついい人のように振舞って伯爵家の代行の書類を手に入れれば…』
そこで、僕は伯爵家当主の身分を持ったまま、葬式に参列されていた公爵様に相談を持ちかけたのだ。
公爵様からは悪意を感じなかったからだ。
まあ自分より身分の低い家の財産なんて、しかも公爵で宰相でもあるカーライル様にはいらないものだろう。
伯爵家の領地を献上する代わりに、公爵家の庇護下に入り、学びの機会を与えてもらう。
僕は、得意の天使の笑顔で話を持ちかけた。
結果、公爵様は僕の庇護を認めてくださった。
僕を今から5年後に、公爵家の養子として引き取り、公爵家の一員にして下さるとまで言ってくれた。
渡りに船な話である。すぐに引き受けた。
そのかわり、条件として5年間は自分の娘の従者をしてほしい、と言って。
僕の一歳年上の公爵家の御令嬢。
そういえば母に連れられてよく行ったお茶会でもあまりに屋敷から出ない為、病気なのではないか、人前に出せない様な酷い容貌をしているのではないか、などと色々な噂が流れていた。
しかし、何があろうとあと5年で僕の望みが叶う。
5年くらいどんなに気難しく、不器量なお嬢様であっても、耐え切って、公爵家の一員になる。
そんなことを考えながら「喜んでお請けします。」
とすぐに返事をした。
その後、色々な手続きの後にひと月ほどしてお嬢様の誕生日の夜に屋敷に呼ばれたものの、お嬢様は誕生パーティーで疲れてしまい、早くに休んでしまったと聞かされた。
そのためその夜は公爵家の一室で休ませてもらい、挨拶は次の日ということになった。
ーーーーーー
次の日
カーライル様から
「朝、城に行く前に書斎で顔合わせをしよう。娘を紹介するから準備して書斎に来てくれ」
と言われ、朝早くから書斎で待機していた。
10分ほどすると、お嬢様と思わしき方が入ってこられた。
ー コンコン
「おはようございますお父様。セシリアです。」
「セシリア、入っておいで。」
入ってきた少女は、美しい銀髪と紫紺の瞳を持った絶世の美少女だった。
色々な最悪のパターンを考えていたが逆になぜこの美少女は屋敷から出ないのだろうか。
もしかして、ものすごく性格が悪くて手がつけられないお嬢様だったりするのだろうか?
色々と考えていて、公爵様とお嬢様の話を気もそぞろに聞き流してしまっていた。
気がつくと、公爵様からの僕の紹介は終わった様で、お嬢様は考え込む様な顔をして「うーん…」と言っている。
今こそ話しかけるタイミングだろう。
意を決して、いつものように笑顔の仮面を貼り付けて相手に気に入られるように、挨拶をした。
「はじめまして、セシリアお嬢様。僕はシオンと申します。今は家名はありません。本日からよろしくお願いします。」
僕が名を名乗ると、輝くような笑顔で、セシリア嬢はこう言った。
「ええ。はじめまして。こちらこそ、よろしくね。従者といっても建前上だけなのだし、家の中では私のことはお嬢様ってつけないで呼んでくれていいわ」
「ありがとう…ございます。」
正直にいうと困惑した。今からは従者で、将来的に公爵家の一員になるとはいえ、元は分家筋の、年齢も1つ下の僕。
こんな風に僕に好意的なのはなぜだろうか?
僕の仮面の笑顔が通じたのだとすればもっと他の貴族の令嬢達のように顔を赤らめて僕に関心を示すはず。
それか、ただ物を見るように母上のように淡々と話すだけ
それとも、単純に僕に興味がないのか?
予想外の反応にどう返していいのかわからず、沈黙してしまうと、公爵様が話に入ってきた。
そのままの流れでセシリア嬢への誕生日プレゼントが渡され、公爵家さまのプレゼントが馬だということで、全員で中庭に移動した。
公爵さまに続き、庭の馬小屋に行くと、周りの黒馬から比べて一回り小さい白馬がいた。
…白い毛並みに藍色の瞳。周りの成馬より一回りも小さいのに、怖気付かず、堂々とした佇まい。
「可愛い…!!!」
「どうだ!綺麗だろう?まだ仔馬ではあるが子供のセシリアなら余裕で乗れるだろう!馬術を教えてくれる知り合いがいるから今度講師として屋敷に呼ぼう!」
「ありがとうお父様!とっても嬉しい!」
輝くような笑顔で、まるで宝物を見つめるようにキラキラした瞳で彼女はその馬を見ていた。
その馬の名を考え、頬を赤らめながら「シロ」と名付けた。
僕はその時、馬に対してただ「羨ましい」
と思った。
僕の両親が僕に名をつけた時はどんな顔をしていたのだろう?
想像に難くない。おそらくあの無感動で自分が一番の両親は、決められた家の歴史に従ってその中から順当に選んで名付けたのだろう。
こんなにも自分存在を見てほしいと、認めさせたいと思ったのは初めてだった。
どうしたら、この馬のようにセシリア嬢の関心を引いて大事にされるのだろうか。
じっと馬を見つめていると、不思議に思ったのかお嬢様が声をかけてきた。
「シオン?どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません。」
嫉妬の目で馬を見ていたのを気付かれたか、と思ったがセシリア嬢はまるで気にしていないようだった。
そして、彼女は再び馬に近づいて頭を撫でる。シロは少し頭を下げて暴れることなくじっとしている。
「いい子ね。シロ。これからよろしくね。」
「ヒヒーン!」
馬は、彼女の考えた自分の名を受け入れて、嬉しそうに尻尾を振り嘶いた。
…今後、僕はセシリア嬢の従者であり義弟だ。この馬よりも共にいる時間は長い。時間をかけて僕に関心を持ってもらえるように、あの輝くような笑顔を独り占めにしたい。
貴女の1番大切な存在になりたい。
馬を嬉しそうに撫でているセシリア嬢に声をかけて屋敷に戻るよう促す
「セシリア様、…行きましょう。」
「ええ、ごめんなさいね。行きましょ」
そのあと、背中から馬の視線を感じたが、彼女が自分についてきてくれたことで馬のことはどうでもよくなり、これからどうやって会話するか、気に入られようか、ということで頭がいっぱいになっていたのだった。
シオンくんは自分を見てくれる存在を長年求めていて、自分という偶像ではなくセシリアには自分自身を知ってほしい、認めてほしいという自己承認欲求が強くなっていきます。
つまりメンヘラです。