Ⅰ-18:出国審査
「だいたいキミ、そんなにちっちゃいのにBランクだなんて、多くのCランクのおじちゃんとかが見たら泣くぞ?」
(……ちっちゃくて悪かったね!)
たぶんいっぱい食べればその分大きくなると思うぞ、カビだし。
「お、喋った。……そりゃ、連合入れるんならそうか。でも、他の三人に見劣りしちゃうからって組合員証の偽造はダメだぞ、査証出して」
(だーかーらー、私もBランクだって言ってるでしょう! 逆に査証なんてもらえないって!)
殴りたい。けど、殴ったら確実にお縄だ。三人にも迷惑が掛かってしまう。
……でも、逆の立場だとしよう。
例えば、自分が窓口の人だとして、明らかにふさわしくないような身分証で入ろうとしたら……
うん、一回止めるな。絶対。それで、上の人呼んで別室で詳しくチェックしてもらう。
それに、船の中なんて動く密室に危険因子を持ち込むなんて言語道断だ。
そう考えるとこの審査員の対応も必ずしも間違っているとは言い切れない。
やっぱりトシフの意見すら押し切ってテタニの杖の先に引っ付いたままの方がよかったんじゃないかな。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
「とにかく、ウィコット皇国への査証がないなら出国させることはできないし、あの三人も密航幇助で……」
「その必要は無いだろう? ウィコット皇国へは、Cランク以上なら査証はいらないはずだが?」
困っていた私を見かねたのか、後ろに並んでいたお姉さんが助け舟を出してくれた。
うん、でも今回に関してはこの審査員悪くないと思うよ。
私は別に詳しく調べてもらっても構わないし。
っていうかあの三人なんでとっとと先行っちゃったんだ。助けてくれたっていいのに……
そう思った頃、ようやく私が遅いと気づいたのだろう、三人が戻ってきた。
「お~い、サーシャ。なんかトラブルでもあったのか?」
(遅いわ! 現在進行形で、出国不許可になりかけているんだよ)
「出国不許可って、一体何したらそうなるんだ……」
何もしてないわ。
強いて言えば、この審査員がかなりフェイルセーフな判断をしたことくらい。
むしろ輸送業なのだから、そのくらい緊張感持ってもらった方が個人的に信頼できる。
そう思って審査員の方を見れば――ゴブリン特有の緑色の顔が、さらに青くなっていた。
よく見ると、彼は機械に私のものではない組合員証を乗せて、端末をじいっと見つめていた。
「え、え、ロセさんって、あの、蒼の方舟の……?」
「……巷ではそう呼ばれているらしいな。ところで、その子の組合員証、返してやったらどうだ?」
すると彼は私の組合員証を機械に通して何か操作をして、私に差し出しながら「失礼しましたぁ! サーシャ様!」と平謝り。
うん、この短時間で何があった?
「全く、あいつにも職員の教育がなってないって言っておかなければな。ほら、キミもハルマティーダに行くんだろう?」
(すみません、なんか、助けていただいたみたいで……)
「気にしないでいい。ただ、組合員証の偽造などという怪しい言葉が聞こえてきたから気になっただけだ」
私は彼女にお辞儀をし(たつもりになっ)て、三人に合流する。
「サーシャ。お前とんでもない奴に助けられたな」
(とんでもない奴、って……)
「おいおい、ロセさんなんて今じゃあ町行く人なら半分は知ってる大有名人だぞ?」
え? そうなの?
振り返れば、確かに乗船受付の奥から多くの人がのぞき込もうとしているのを、職員が必死に止めているのが見える。
あぁ、アイドル的な何かですか。
で、当のロセさんは……
「……奇遇だな、トシフ。それに、ローレンスにテタニまで。君たちも、こっちに来ていたのかい?」
……なぜか、普通に三人と話をしていた。
大有名人とか言っておきながら、あなたたちも知り合いだったんですかい!
「いやいや、僕達もカチュアの森の調査に行ってただけで、まだ拠点はオウォッキャンですよ」
「それよりロセさん、風のうわさで聞きましたよ! Sランクに認定されたんだって? アタシも、負けないように頑張ります」
(いやちょっと待って! 情報過多でいろいろ追いつかないんだけど)
少し情報を整理させてほしい。つまり、この人は三人の知り合いで、Sランクで……?
「ん? キミは、さっきの子か。トシフの知り合いだったんだな。はじめまして、私はロセ。巷では蒼の方舟と呼ばれているらしいな」
(ど、どうも初めまして。私はサーシャ、カチュアの森から来た魔導埃黴です)
そして、私は体を伸ばして、彼女と握手をした。




