221話 双子吸血姫は闇に微笑む その２
数十名の部下を引き連れて、上階に向かう幹部の青年は、ふと足を止める。
「如何なさいました？」
「静かに」
その真剣な眼差しに、語りかけた部下の一人が息を呑み、静まり返る。
そして、次に発せられた一言によって、騒めきが満ちた。
「何者だ？」
そこは地下２３階。
先行した幹部もいるとの情報が入っている現状にて、青年幹部のその言葉はあり得ないものだった。
いつもなら、全員が冗談だとでも判断を下す……
しかし、彼から発せられる殺気。
彼が纏う、眼を見張る程に膨大な魔力と闘気は、冗談でも何でもない事を理解するには十分だった。
重い緊張が舞い降る。
青年から発せられる威圧は時を追う毎に増して行き、背後に控える部下達の頬から一筋の汗が滴り落ちたその時……
「…け……れ、だ…かだす…くれ！」
前方から微かに響いて来る声。
途切れ途切れで聞き取れずとも、近づいて来る声に緊張感が一気に膨れ上がり……
「「「「っ！！」」」」
青年を筆頭に、ソレを目にした全員が息を呑んだ。
「レーン殿？」
先程までの威圧は綺麗に霧散し、青年は腰の剣に手を掛けたまま唖然と呟く。
ふらつきながら姿を現したのは同僚……魔教団幹部レーン。
しかし、その姿は彼らが知るものとはかけ離れていた。
片方の腕は二の腕から先が無く、全身の至る所から微かな血を流す。
そして何より……その容貌全てが干からびていた。
そもそも、全身に負っている負傷と比べて出血量が明らかに少ない。
まるで、全身の血液が無くなってしまったかの様に……
「一体何が……」
バァッン！！
何が起きたのか分からなかった。
ただ、そんな音が聞こえると同時にレーンの上半身が消えた。
いや、正確には壁にぶつかって飛び散っているので消えた訳では無い。
だか、この場にいる彼らにとってそんな事はどうでもよかった。
魔教団幹部、レーンが殺された……その事実だけを唖然と眺める。
「逃げちゃ、ダメですよー」
「もう死んでますよ？」
この様な凄惨な光景には似つかわ無い、可愛らしい少女達の声が通路の奥。
見通せない暗闇の先から鳴り響く。
ドチャッ
上半身を失ったレーンの下半身が僅かな血を撒き散らしにら地面に倒れる。
その音を背景に、闇に浮かぶ２対の赤い宝石。
その宝石は、コツコツと言う足音と共に徐々に近づき、その全貌を明らかにする。
姿を現したのは、可憐な声に違わぬ２人の少女。
幼いながらも、何処か凛とした高貴さを感じさせる美少女。
そんな美少女の登場に、こんな状況にあっても欲情し、一瞬恐怖が薄れる。
「どうやら、この人間達で最後の様ですね」
目の前にはレーンの下半身が内臓を撒き散らしながら倒れ込み。
壁には爆散した上半身の肉片がへばりつく。
そんな幾多もの戦場を知る歴戦の猛者達ですら目を憚る凄惨な現場に、楽しげな可愛らしい少女の声。
単にその光景は異様と言えた。
「最後だと？
他の幹部や、兵士達はどうした！？」
若く、青い青年幹部は焦りと苛立ちから声を荒げる。
猛烈な覇気と共に発せられたその言葉の圧は、壁を軋ませ、亀裂を入れる。
背後に控える兵士達が軽い悲鳴を漏らす中、２人の少女は……尚も楽しげにニッコリと微笑みを浮かべた。
「他の人達なら今頃、皆んなの餌になっていると思いますよ？」
「は？」
「ふふ、ご紹介が遅れました。
私は秘密結社ナイトメアが獣狼軍団が軍団長の１人、リーナと申します」
「同じく、獣狼軍団・団長のミーナです」
「今頃、皆さんのお仲間達はベヒーモス達のお腹の中です」
「なん、だと……」
ナイトメア・獣狼軍団それは彼らにとっては恐怖の象徴。
先日の深淵の試練攻略作戦の際に、僅か半刻足らずで魔教団・５０万もの第一軍団を文字通り壊滅に追い込んだ謎の軍団。
その恐ろしき軍団を率いるのがこの少女達……
彼らは、その事実を許容出来ずに一瞬、されど一瞬だけ思考が止まった……
「あ、ぇ？」
ゴト
唖然とする青年幹部の首が地面に転がった。
「安心して下さい。
直ぐにお仲間の元へ送って差し上げますので」
先程から変わらず、ニッコリと微笑みを浮かべた２人の美少女の姿を最後に、青年幹部の意識は途絶えた。幹部と言う指揮官・精神的支柱を失った魔教団の僅かな生き残りは瞬時に恐怖に支配された。
周辺諸国で最大の規模を誇る魔教団の大拠点が、壊滅するのは謎の敵に……
リーナとミーナに攻め込まれて、僅か１時間の事だった。
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