189話 幼女神の試練 〝無慈悲〟
天幕が所狭しと設営された魔教団の深淵の試練攻略軍の本部。
地上に於ける拠点でもあるそこは今、大量の土煙が巻き上がり、天に舞った土がパラパラと降り注ぐ。
所狭しと設営されていた天幕は見る影も無く。
突発的な災害にでも見舞われた様な凄惨な有り様を前に、場に似つかわしく無い声が響く。
「おぉ〜流石はグラウスさん!
なかなか奇襲による初手で敵の拠点を吹き飛ばすこの手腕。
大賢者の名は伊達で無いって事ですね!」
真っ白な大きな耳をピコピコと揺らし、メイド服に身を包んだシアは感心した様子で笑み浮かべる。
「いえいえ、儂などまだまだシア様やノア様の足元にすら及びませぬ。
それに皆様方と出会い、魔導の深淵を覗く以前の儂ならばこうはいかなかったでしょう」
「しかし、この僅かな時間でこれ程の力をおつけになったのは貴方ご自身の努力の結果。
ナイトメアの皆にも見習わせたい程です」
グラウスはニヤリと笑みを浮かべ、自身の立派な白髭を撫で下ろし。
ノアは口元を手で隠しつつ優雅に微笑む。
「む、無慈悲だ……」
そんな3人とは対照的に、十剣の1人、六ノ剣であるネロは眼前の光景に頬を引きつらせながらポツリと呟く。
声にこそ出さないものの他の十剣メンバー達もネロと同じ様に若干引いた様子で、あるいは、呆れた様な様子で苦笑いを浮かべる。
深淵の試練に侵攻した50万の軍勢とは別に、本部に残っていた最高幹部率いる約5千程の直属部隊。
魔教団に侵略・併合され、取り込まれた者達や野蛮な盗賊の様な者達とは違い、魔神王を信仰する純粋な魔教団のみで結成された最精鋭。
最高品質の武具を持ち、人体実験の末に開発された魔法を操る。
設営された拠点には巨大な城壁が築かれ、大国の首都を守るものと遜色無い程の結界が張り巡らされる。
しかしして、それらは一切、何の役に立つ事なく。
精鋭部隊自慢の魔法を発動する暇すら無く、無に帰した。
無慈悲である。
「馬鹿者めっ!」
「ぐえっ!?」
グラウスの持つ等身大の杖で後頭部を強打されたネロは間抜けな声を上げる。
「突然何するんですか、グラウス様っ!!」
前のめりに倒れそうになりながらも、何とか耐えたネロは後頭部を摩りながら恨めしそうな視線でグラウス睨む。
「ここは戦場なのだ、無慈悲も何もありはしない。
殺らねば此方が殺られるのだ。
確かに貴様らは強い、今まで特に苦戦した事も無い程に。
しかし、だからこそ気を引き締めねばならん。
今回の敵は今までの敵とは一味も二味も違うのだと言う事を自覚するのだ」
真剣な面持ちで告げられるグラウスの言葉。
長年、帝国を守り、幾度と無く帝国の危機を救って来た大賢者に十剣達は敬礼でもって答える。
「「「「はっ!」」」」
「うむ、戦場では死は常に隣にある事を忘れるで無いぞ」
尤も、例え死んだとしてもルーミエル様や眷属の方々によって生き返る事になるであろうが。
十剣の敬礼に頷きつつ、内心でそう呟きながら土煙が舞う前方を静かに見据え……手に持つ杖で地面を軽く叩く。
「しかし、儂もまだまだ未熟じゃわい。
数人仕留めきれなんだか」
グラウスによって生み出された突風が土煙を吹き飛ばし、その視界を顕にする。
所々、土が溶解しガラスになった荒野に佇む5人の姿。
グラウスの放った魔法。
かつてルーミエル達を前にして放った魔法は以前よりも威力を増し、小さき太陽の如き灼熱を顕現させる。
その灼熱を浴びて、さも当然の様に佇む5人の実力は言うに及ばず。
その実力は一騎打ちなら十剣ですら苦戦を免れ無い……しかし……
「お嬢様が言ってたのってあの黒い髪の子供ですよね?
う〜ん、今の皆さんがあの子と戦いながら他の4人の相手をするのはちょっと……」
「確かに、少し厳しいかも知れませんね。
仕方ありません、他の4人は私とシアで片付けるとしましょう」
最強幼女の……ルーミエルの眷属であるメイド姉妹に目を付けられてしまった。
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