166話 乱入者です
「取り敢えず…コレール、彼等の保護を」
「既に手配済みです」
「流石ですね」
僕が言うまでもなく本部へと連絡をとって人員を呼ぶこの手際の良さ。
仕事が出来て、強くて、容姿端麗、ナイトメア1のモテ男は伊達ではありませんね。
「さて、ルナン王、何か間違いがありますか?」
「んんっ! んんぅん!!」
唸りながら身体を捻ってのたうち回る……ミミズみたいですね。
何言ってるのか全くわかりませんし、まぁわかりたくも無いですけど、仕方ありませんね。
「動くと死にますよ」
何やらこちらを物凄く睨んでくるルナン王に指を向けると、ピタリと動きが止まりました。
まぁ、実際は動いても間違って殺してしまうなんてミスは絶対にしませんけどね。
指先から〝滅光魔法〟を放ち、ルナン王の口を塞いでいた猿轡を消滅される。
〝無限収納〟に収納するって選択肢もありましたけど……ルナン王が使った猿轡なんてぶっちゃけキモイですからね。
過去の事と彼が魔教団幹部と言う事で拒絶反応が凄まじいです。
「お前は…一体何者なのだ?」
「アヴァリス、少しおろして下さい」
何者かと聞かれて、抱っこされていては格好がつきませんからね。
「ルナン王、以前に言いましたよね?」
そこで一度言葉を区切り、螺旋を描きながら僕を包み込む銀光。
前と一緒ですけど……まぁ別にいいでしょう。
「俺を追放なんてした事、後悔しないようにして下さいって」
「……お、お前は」
「ええ、異世界から召喚され、すぐさま追放された元勇者です。
お久しぶりですね」
そして訪れる静寂。
まぁそりゃ、びっくりしますねよ。
何せ、彼等にしてみれば死んだハズの人間が目の前に現れたって事ですし、この反応も当然ですね。
追放なんて言っておきながら、実質死刑ですからねアレ。
「とは言え、これはもう昔の姿で、この姿が本当の僕の姿ですけどね」
うん、やっぱり幻影とは言え偽りの姿は落ち着きませんね。
この姿が一番です。
「それでどうですか? 僕を追放した事、後悔しましたか?」
「っ……!!」
どうやら相当、後悔してくれた様ですね。
わかっていながらわざと聞くなんて、僕も性格が悪い。
けどまぁ、拉致られた上に手ぶらで追放されたんですし、この程度の意趣返しは許して欲しいですね。
「ま、待って欲しい!
あ、貴女は追放された勇者殿なのでしょうか?」
「ん? ええ、ですからそう言ってますよ?
あっ、でも元ですからね」
すると突然ハワード公爵が膝から崩れ落ちました。
えっと、これってどう言う事ですか? なんか悪い事しましたっけ?
ぼ、僕悪くないですよね?
「あ、あの……」
「よかった……貴殿は既に死んだとばかり」
「そ、そうですか。
でも、生きてますよ?」
助けを求めてアヴァリスに視線を送るも、ニコニコしているだけで手助けはしてくれない。
オルグイユも、メルヴィーも……フェルなんて眠たそうに欠伸してますし。
うぅ……後で皆んなお説教です!
「私は、陛下や宰相殿を止める事ができなかった。
ちょうど帝国との小競り合いで私は前線に……帰ってきた時には既に全てが終わっていました。
今更こんな事をしても何の意味も無いのでしょう、しかし、それでも……本当に申し訳ありませんでした」
「えっ?」
何これ? 何でこの人いきなり土下座してるんですか?
意味がわかりません! 一体僕にどうしろとっ!?
「えっと、僕の事に対しては別に構いません。
ですが、貴方達が行った召喚によって数十人の吸血鬼が魔力確保の為の生贄にされました」
吸血鬼はその性質上、血液に多くの魔力が含まれていますからね。
このお城に漂っている記憶の残滓……
「それは決して許されない。
魔教団でない貴方をどうこうはしませんが、それを許容してしまった罪は無くならない。
その事は忘れないで下さい」
「はい……とても償える罪では無く、許して頂けるとは思いません。
ですが、少しでも罪滅ぼしができるよう、この国を変えていきたいと思います」
「貴様っ! 何を勝手な事を言っている!!
アレサレム王国の、この国の王はこの私だぞっ!! 吸血鬼など、所詮は我ら至高の生命体である人間の所有物なのだ。
何故、それがわからないっ!?」
「不愉快ですね。
お前は少し黙ってて下さい」
僕の意を汲んでくれたフェーニルの騎士達が再び猿轡をつけようと、もがくルナン王に近づき……
『ルナン、君の言う通りだよ。
全く、吸血鬼なんて血を啜る卑しい下等生物だと言うのにね』
突然、重力が増したような重圧と共に辺り一帯にそんな声が響き渡り、のたうち回っていたルナン王が黒い魔法陣に包まれる。
乱入者ですね……
『悪いけどルナンは返して貰うよ。
ディベル……最高幹部の1人が行方不明でね、魔教団も手が足りていないんだ』
「ルナンを捕らえろっ!!」
ウェスル帝の声が早いか、十剣達が最速を持ってルナン王に迫るも……一瞬届かず、黒い魔法陣が輝き、ルナン王の姿が掻き消える。
『しかし対魔教団同盟とは、面白い事を考えたモノだね。
まさか宝玉を使って負けるなんて想定外だよ。
もしかしてディベルを殺ったのも君達、対魔教団同盟かな?』
「ディベル?」
「お嬢様、世界樹にいた魔教団の最高幹部の1人ですよ」
おぉ、そう言えばそんな名前でしたね。
あんな有象無象の名前までしっかりと覚えているとは、流石はメルヴィー。
完璧執事であるコレールと双璧を成す、完璧メイドなだけはありますね!
『けどまぁ、最高幹部を1人殺った程度で調子に乗るなよ人間。
君達は我ら魔教団に敵対した事を後悔する事になるだろう。
何はともあれ宝玉を打ち破った君達にプレゼントだ、文字通り王都を含め半径10キロ程度は消滅するだろうけど、お礼は必要ないよ。
もし仮に君達が生き残れれば、その時はさらなる絶望を与えよう』
そう告げると、辺り一帯にのしかかっていた重圧が霧散し、代わりに禍々しい赤黒い球体が現れました。
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