10話 落ち込みます
今回、少し短めになっているので読みやすいかもしれません。
……やっぱ文字続くから見辛いかも、ごめんなさい!!
俺は今、空を飛んでいる。
いや厳格に言えば俺が飛んでいるのは地下迷宮の中なので空では無いのだが……そんな事はこの際関係ない。
大事なのは空を飛ぶ事は素晴らしいと言う事ですから。
まぁもっと正確に言えば、空を飛んでるのは俺じゃなくて俺が乗っているフェルなんですけどね。
なぜ俺がフェルの背に乗って迷宮の天井付近を飛んでいるのかを説明しましょう。
始まりはベッドでの安眠から目覚めて、迷宮攻略を開始してから少しの事でした。
前の10層とは打って変わり、絶え間なく襲いかかってくる魔物達に、思わず面倒だと愚痴を漏らしました。
するとフェルが。
「じゃあ吾が、運んであげる」
と言ったことが事の発端。
フェルの提案に乗り、今こうしてフェルに跨って飛んでいる訳ですが……これがどうして、全く魔物達が襲って来ない。
この階層にも前回のアラクネの様に天井を這いずり回っている様な奴も存在する。
しかしそんな魔物達でさえ、フェルが一定の距離に近づくと、まるで道を譲るかの様に避けて行く。
当たり前ですがフェルは現在、霊鳥の姿に戻っている。
人型でも飛べるらしいですけど……流石に自分より幼い少女に乗るのは絵面的にも、俺の精神的にもマズイ。
そんな訳でフェルには霊鳥型になってもらっています。
「フェル、疲れたらすぐに言って下さいね。
陸路に切り替えますから」
「ん、わかった」
フェルは霊鳥型なので直接話している訳では無く。
何やら念話の様に直接声が聞こえて来ると言う不思議体験を初めてしたのが約2日前の事。
因みに俺たちは今、第187階層を飛んでいます。
ここまで来るのに、フェルがいた180階層のボス部屋を出て僅かに2日。
驚異的なスピードと言っていい速さで攻略が進んでいます。
何せ俺1人であれば、ボス部屋から7階層進むのに、今までの過去最高記録で体感5日かかってましたからね。
寝ずの強行を続けてやっとの5日に比べ、休憩や仮眠を十分に取りつつ僅かに2日……俺の今までの苦労は一体何だったのでしょうか。
普通に凹みますよ、これは。
しかも、このままの速度で行けば4日目にはボス部屋に着いてしまいますよ……
まぁこんなに速く進めているのも、魔物達がフェルを避けて行くからなんですけどね。
それにしても何故、魔物達はフェルを避けて行くのでしょうか?
仮眠を取っている時も、フェルの事を魔物達が避けるので一度も襲われない。
お陰でかなり負担が軽減されましたけど、不思議ですね。
これも魔物特有の生態なのでしょうか?
そんな事を考えているうちに、次の階層への道が見えて来ました。
4日目どころか今日中にはボス部屋に到着しそうな勢いですね。
「フェル、まだ飛べますか?」
「ん、余裕」
「じゃあ取り敢えず、次の階層の水辺に降りて休憩を挟みましょうか」
「わかった」
この迷宮内には何故かどの階層にも一つ大きな地底湖の様なものがあり、そこに行けば飲み水を確保する事ができる様になっています。
まぁ俺の場合は〝等価交換〟と言うと公式チートがあるので、今までは縁のない場所でしたけど。
フェルの体を洗いたいし、水辺の方が寝るとき気持ち良いと言う要求を得て、各階層の地底湖に寄る事にしました。
今まで、この地底湖を活用しなかった理由として〝等価交換〟で補える以外に、魔物が大量に集まって来るからと言うのもありました。
と言うかこっちが本命です。
飲み水はあるのに、そんな命がけのリスクを背負ってまで、そんな場所を使う必要はありませんからね。
しかし! そんなリスクもフェルがいたら全てが解決!!
何せ魔物達自身が、蜘蛛の子を散らす様にフェルを避けて行き一切近寄って寄ってこないですからね。
「ここを出たら本当の空を飛んでみたいですね」
「ん、わかった。
ここを出たら、乗せてあげる」
「それは楽しみです」
水辺にベッドを出して、その上に寝転んでいるのだが。
こうしていると、ここが迷宮、それも世界最大級の八第迷宮だとはとても思えませんね。
因みに休憩の時や仮眠中は、フェルも人型になっています。
そうしないとベッドに乗る事が出来ませんからね。
フェルも既に人間が生み出した叡智の結晶たる、ベッドの虜です。
床で寝るよりもベッドにで寝た方が気持ち良い、とは他ならぬフェルの言葉です。
フェルを虜にしたベッドは〝等価交換〟で買った、何処ぞの王宮にある様なやつと同等かそれ以上の逸品!
それなりに痛い出費でしたが、安眠には変えられないので仕方がない事なのです!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「つ、着いてしまった…」
「コウキ、何をしている?」
休憩を終え、再びフェルに跨がり出発してから数時間後。
俺たちは無事に第190階層ボス部屋前まで辿り着いた。
そう、辿り着いてしまったのだ。
俺が本気の強行を行なっても、恐らく2週間はかかるであろう道のりを経ったの3日で……
よって俺は今、四つん這いになって項垂れていると言う訳です。
フェルはそんな俺を無気力な目で見詰めながら首を傾げています。
俺が、この俺がこんな醜態をを晒す事になるとは思いもしませんでした……
父はいつも、「強くあれ、それが成功の秘訣だ」と教訓を語っていました。
しかし俺は今、その教訓をとても守れそうにありません。
「よしよし」
フェルが俺の頭を慰める様に優しく撫でる。
幼女と言っても過言では無い少女に頭を撫でて慰められる。
側から見れば途轍も無くシュールな光景だと思うのは俺だけだろうか?
これがまた俺に多少のダメージを与えている事にフェルは気付いてい無い。
「もう、今日はダメだ、何も出来る気がしない」
「コウキ、大丈夫?」
「フェル、今日はもう寝るぞ」
ベッドを〝無限収納〟から取り出し、もぞもぞと布団の中に潜り込む。
その俺の後をフェルも付いて来て、いつもの様にベッドに寝転ぶ。
そのまま目を瞑るが、隣から感じる視線にふと目を開けると……フェルがいつもの無気力な瞳で俺の顔をジッと見詰めていた。
「どうした?」
「コウキ、いつもと口調が違う」
端的に言うフェルのその言葉にハッとなる。
どうやら、またやってしまった様だ。
「どうしたの?」
「すみません、気を悪くしたのなら謝ります」
俺は何かショックを受けたりすると、無意識的に言葉遣いが素になる事があるのです。
小さい頃からこの容姿のせいで周囲からイジメられていた事もあり、一時期俺はかなりグレてしまいました。
中学に上がり、両親から言われて荒い口調を直そうと奮闘した結果、今の口調になったのですが。
激しく動揺したりすると、無意識の内につい素の口調が出る様になってしまったらしいのです。
これもまた、両親からはよく注意されましたが、治る事なく未だにこの通り……
「ん、別にいい。
コウキが、楽な方で、話せばいい」
「ありがとうございます。
今後も素の口調が出る事があると思いますが、その時は俺を宥めて下さいね」
「ん」
そう言って頷くフェルには感謝しなければなりませんね。
俺の口調の変化について詮索してこないのですから。
尤も、本当に興味が無いだけかも知れませんが。
別に理由を言いたく無い訳でも無いですけど、これと言って特に人に言いたいとも思いませんからね。
全く、厄介な癖がついてしまったものです。
ため息をつきつつ、隣を見ると。
俺に抱き着きながらフェルはもう既に寝息を立てていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「フェル、そろそろ行きますよ」
装備を整えて、未だに眠たそうにしているフェルに声をかける。
本当にフェルが羨ましいです。
俺はこの迷宮での経験で新たな癖がついてしまった様で。
寝ていても脳のどこかは必ず起きている、と言うイルカみたいな状態になる事ができる様になりました。
そのせいで、未だに真の意味での安眠はこの世界に来てから一度もした事がありません。
それに比べてフェルの安眠ぶりときたら……羨ましい限りです。
「ん」
欠伸を噛み殺したフェルが頷き、俺の方に駆けて来ました。
「さて、次は一体どんな奴がいるんでしょうね?」
「吾、知ってる」
したり顔で言うフェル。
どうやらフェルは、ここの階層ボスを迷宮の創造者に頼まれた際に他のボス達の事を聞いた事があるらしいです。
聞いても教えてくれませんでしたけど。
「鬼が出るか蛇が出るか、楽しみですね」
もうお馴染みの黒い扉に手を当てる。
いい加減、見飽きて来た光景を目にしながら中に入り、そして。
「ここで来ますか……」
「どう、驚いた?」
いつも無気力なフェルが珍しく楽しげに、いたずらに成功した子供みたい聞いて来る。
こう言うところを見ていると、普通の少女にしか思えませんね。
「ええ、驚きました。
まさか、こんな所でフラグが回収されるとは……予想外です」
視線の先、ボス部屋の中央には。
俺たちをジッと睨む様に見詰める巨体。
漆黒のドラゴンが押しつぶす様な威圧を放ちながら座していた。
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