ビッチの名前は、ルルーシカ
女は下着をさがし出した。
灰色の髪が、形の良いお尻の上を踊っていた。
床に散らばった衣類を、女は足で掻き分けている。
女が探し求めていたパンツは、枕の下にあった。
タクが握りしめていたピンク色のパンツではなく、紺色のパンツだった。
ブラジャーは本棚にひかかっていた。ベージュ色だった。
少し観察しただけで、女はがさつな性格だとわかった。
いや、下着の上下の色が違っていても気にしないおおらかな性格とも言える。
ポジティブに考えれば。
「どうしたのよ、さっきから。私のことをじろじろ観察して・・・視線が粘つくのよね」
「いや・・・」
「まあ、視線を集めるのは大好きだから、気にしちゃいないんだけどね」
ゴミ山の中から探し当てたキャミソールを着た女は、
ガラス瓶に入った白い液体をコップにつぎ、ゴクゴクと飲み始めた。
「ぷは~、ん、もう、これ、最高よね。味はワライダケ、風味は紫オレンジ。300歳の美魔女が、美容の秘訣にこの『皺取りホワイトドリンク(牛乳タイプ)』を飲んで、若さを保っていると宣伝していたくらいだから絶対に効果があると思うのよね。タクは否定していたようだけど」
確かに、女の肌は、生まれたばかりの赤ちゃんのようにつやつやしていた。
顔だけでなく、水滴がまだついているお腹や、腕や脚も、陶器のように滑らかで、うっとりするほどの白。
至近距離で確認してはいないが、
シミやシワ、もしかしたらホクロ一つないのかもしれない。
「ねえ、さっきから、下を向いてじっとしているようだけど、やけにおとなしいじゃない。何か言いなさいよ」
「あ、いや、あの・・・俺、というか、僕、あなたのことを全く知らないんですけど・・・・・・どちらさまでしたっけ?」
タクは、恐る恐る女に訊いた。
「ん? んん? んんん?」
女は手に持っていたコップを床に落とす。
(あれれ、俺、おかしなことを言ったか?)
女は顔をタクに近づけ、凝視した後、
めんどくさそうに髪をかく。
「はあ!? 何を寝ぼけたこと言っているのよ。この私のことを忘れちゃったの? ルルーシカよ。ル・ル・-・シ・カ。ほらふきナマズのような、くだらない冗談はいらないわよ」
「・・・ルルーシカ」
タクは女の名前を呟くと、
懐かしさよりも、
胸を強く締めつける苦々しさを感じた。
(ル・ル・ー・シ・カ)