右手に握られているは、最強武器――使用済みのパンツ
高校生くらいの青年が、
足首を銀色の鎖に繋がれ、横になり、眠っている。
鎖の先は、壁に吸い込まれ、壁と一体化しているようにも見えなくない。
青年の脇には引き違い窓があり、
夜空の中心で輝く三日月を斬り裂くように、
今、流れ星が大地に向かって流れ落ちていった。
ガタガタガタ。
風が窓に打ち付け、
青年はビクリと体を震わせた。
しばらくすると、
青年は目をこすりながら、ムクリと起き上がり、
キョロキョロと周囲を見渡し、
「どこだここ」と呟いた。
青年は自分の右手に、
何かが握られているのに気がついた。
布製の生地だった。
「なんだ、これ?」
両手で握っていたソレをひろげると、形の崩れた三角形同士がかさなる生地だった。
リボンが中心に結ばれ、生地は滑らかでかつ柔らかい。
両足を通すであろうという穴は、若干伸びていた。
ちなみに、色はピンクだった。
ただのピンクではない。何度も洗濯されたがために、色が薄くなった控えめのピンクだ。
これは、間違いない。
大抵の女の子がはいているアレだ。
――そう、パンツ――
「ぐげっ!!」
青年は声をあげるとともに、
パンツをベッドに投げつけた。
青年の手は、パンツの温もりを吸い取ったがためか、
ほんのりと生温かかった。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
青年はあまりに予期せぬ出来事が起こったことから、
息が上がっていた。
というより興奮していた。
股間が若干、ヒートアップしていた。
「ど、どこなんだよここは・・」
青年は十畳ほどの広さの部屋にいた。
壁の色は白だが、その色に反して、部屋は汚い。
床には雑多な物が散乱していた。
いや、散乱しているだけではない、
物の配置そのものがおかしい。
机はひっくり返っているし、
本棚は横を向いているし、
ソファーは部屋の中心を占拠しているし、
ベッドは斜めを向いている。
床の大部分を占めるピンクの絨毯にはシミが目立ち、
スカートやブラジャー、キャミソールなどの衣類が、
ごくごく当たり前のように散らばっている。
もちろん、包装紙やプリントといったゴミに分類されるものも散らばっており、
正直、足場を探すのも難しい。
嵐が去った後の部屋のようだった。
とにかく汚かった。
空気が瘴気で汚染されているのか、
青年の鼻はむずむずした。
「間違いない。ここは・・・」
青年は部屋の状況からある結論に達した。
というか、パンツを握っていた時点でその結論に達するべきだったのだが。
「ここは、女の部屋!!」
青年は頭を抱えた。
何故、自分が女の部屋にいるのだろうか?
というか、自分が誰なのかさえ、青年はわからない。
名前すら覚えていない。
シャワー音が聞こえてきた。
さらに、そのザアアアアアアという音に混じり、女の鼻歌も聞こえてきた。
やけに上機嫌で、楽しげな鼻歌。
リズムも音程もズレズレだったが。
青年はへたくそな鼻歌に聞き入ったが・・・すぐに現実に引き戻される。
(な、な、なんで俺、お、女の部屋なんかにいるんだよ)
心臓が速く高く脈打っていた。
興奮よりもむしろ恐怖から速く脈打っていた。
なぜなら、この状況は明らかに犯罪者であり、変質者であり、
変態そのものだったからである。
(や、やばい、捕まる前に、いや、発見される前に、逃げねば・・・)
青年は両足を踏ん張り、最高のロケットスタートを決めた。