魔法紹介
熟睡していた後に目覚めた時のような、そんな感覚。
「おぎゃー、おぎゃー」
産声ってこんな感じでいいのかな? 恥ずかしいけど、これしないと怪しまれるし、生きるためにも必要なんじゃないっけ? 知らんけど。
「やったぞ! 無事に生まれた! 女の子だぞ、ソーニャ!」
「あなた…興奮しすぎよ、でもよかったわ」
興奮しすぎっていうのには賛成、親バカなんだろうなー。
あと、異世界言語理解はちゃんと発動してるみたいだね。これなら特に不自由なく暮らせそう。
あっ、両親?が慌ただしく動き始めた。産湯だの何だのをやってんのかな? さっきは聞こえなかった女の人の声が聞こえる、助産師さんだろうな、きっと。
まぁ、今は何もすることはないだろう。大人しくなされるままにしておくか。
一年経った。こっちでの一年も地球と変わらないらしい。
最近ようやく自分の周りの情報が掴めたのだ、やったぜ!
まず、父親。ランジ=クリムゾンとかいうらしい。貴族とかではないが、そこそこ稼いでいる商人らしく、いつも忙しそうにしている。
次に母親。ソーニャ=クリムゾン。どこぞの殺し屋みたいだ。高校時代に友人を桜の木の下に埋めたりしていないだろうな。こっちはランジの手伝いをする程度、だけど簡単な魔法を使えるため、必要不可欠な存在みたいだ。あと、クリムゾン姓は母親のもの、つまりはランジは入婿らしい。
最後に私。アカネ=クリムゾン。二人のひとり娘らしい。
・・・何故アカネ?急に日本語っぽく、しかも、どっちも赤にまつわる感じだし。うーん、不吉。
まぁ、一回置いておこう。そう、これは大切ではない。母親が魔法を使え、しかも重宝されている。こっちの方が重要だ。
つまり、私の魔法つかい計画は成功しそう!っていうこと。上手く行けば、魔法少女を名乗ることもできる。きっと、いずれ魔女になったりするような魔法少女じゃない、純粋な魔法少女だ。
よーし、頑張って魔法を使えるようになるぞ!
二年経った、私は3歳だ。前世の記憶や体の動かし方を頼りに、かなりしっかり走れるようにまでなった。言語の方も、読みは完璧、話すのも不自由なく、というふうになった。
親は、「天才だ!」と騒いでいる。まぁ、確かにおかしいよね。3歳でしっかり話せるのは。そのおかげで自室が既にもらえたのだから、有難い限りではあるが。
だけど、問題も見つかった、文字が書けない。本当に書けないのではなく、怪しまれないために書けないのだ。
この世界の文字はアルファベットに似ていて、せいぜい30種類しかない。なので、英語と同じような使い方をするのだが、異世界言語理解のおかげで書きたい内容は全て書けてしまう。
そんな人間がどう見られるか、親バカ抜きで、本当の天才に見られてしまう。私の学力は中3程度、天才でも何でもない。それなのにそうやって見られてしまったら、今後行動しづらい。
また、それだけならいい。もう一つの問題に直接繋がってくるから、手に負えない。
もう一つの問題というのが、魔法の詠唱が物凄く長い、ということだ。
2歳半ぐらいになった時のこと、そろそろ魔法の勉強でも始めるか、とソーニャに相談した。
「お母しゃん、アカネもまほうがつかえるようになりたい」
「アカネちゃん、少し早いんじゃないかな?それより、この絵本を読みましょう?」
「やだー!アカネもまほうつかうのー!」
もちろんわざとこの口調でやっている。一人称が自分の名前であるのはなかなか拒否感があったが、幼児っぽいだろう、ということで仕方なくしている。
「仕方ないわね、アカネちゃんは真面目なんだから。じゃあ、まずお母さんが使う魔法を見といてね」
「分かった、お母しゃんありがとう!」
「じゃあ、いくわよ。
『我らに恵をもたらす森の精霊よ! 生命の母たる大いなる海の精霊よ! 雄々しくも優しき炎の精霊よ! 道を照らし、正しきものを救う光の精霊よ! 悪しきものを滅し、死の安寧を届ける闇の精霊よ! どうか私の願いを聞き届けください! 渇きを癒し、生命を支えし水を欲します! 対価は私の魔力! いでよ、アクアボール!』」
「おおっ!」
ぐぐぐぐ! ぴちゃ!
あれ?直径1cmぐらいの水玉が出てきて、落ちてった。
「お母しゃん、今の何?」
「魔法よ、アカネちゃん使いたかったんでしょ?」
「でも、お母しゃんがいつも使ってるのもっとすごいよ?」
そう、ソーニャが普段使っている魔法だと、水は木桶1杯分は出てくる。これとは規模が違いすぎる。
「今回のは誰でも使えるような簡単なヤツだからね。お母さんがいつも使ってるやつは、あれに加えてそれぞれの精霊様に日頃の感謝を3分ずつ言わないとできないのよ。」
「適当な事言っていいの?」
「お礼のこと? だめよ、定型文を一言一句間違えないで言って、ようやく発動できるの。ね、難しいでしょ? 大人しく絵本読みましょう?」
「うーん、でも1回やってみる。
『我らに恵をもたらす森の精霊よ! 生命の母たる大いなる海の精霊よ! 雄々しくも優しき炎の精霊よ! 道を照らし、正しきものを救う光の精霊よ! 悪しきものを滅し、死の安寧を届ける闇の精霊よ! どうか私の願いを聞き届けください! 渇きを癒し、生命を支えし水を欲します! 対価は私の魔力! いでよ、アクアボール!』」
あれ? 海の精霊のとこだけ対話してる気がしたけど、ほかの精霊のところは何も無い? あと、気になったのは、アクアボールのところだけか。
「ねぇ、お母しゃん、どうして水の魔法なのに、森の精霊さんとかにもお願いしてるの?」
「それはね、精霊様達は支えあってるから、皆様に挨拶する必要があるの。」
「じゃあ、火の魔法でも皆様に話しかけるの?」
「そうよ、分かった?」
「分かった! ありがとう、お母しゃん!」
というわけだ。未だに他の精霊に話しかける意味が分からない。この前、海の精霊にだけ呼びかけてみたら成功しそうだったし。まぁ、その時は直前ではじけ飛んで失敗しちゃったんだけど。
話をまとめると、文字を書けない、詠唱はすごい長いから覚えづらい、っていうこと。魔法の習得にかしこさポイントが必要なゲームが多いのも納得できた気がする。
さて、どうしよう?