不幸到来
初投稿となります。拙作ですが、読んでいただけたら幸いです。よろしくおねがいします。
「暑いよー、家にいたいよー」
8月中旬の某日、私は塾に向かって歩いていた。高校受験を年明けに控えた今、そんな弱音が許されるわけがないというのは理解した上での発言だ。
「塾に早くつければ涼しいのになー」
そう、確かに涼しい。30分も経てばあまりの寒さに自習室の蛍光灯の温かみに縋るほど、涼しい。しかし、そんなことは今の私には関係がなかった。
私は小泉ゆかり、縁でも、紫でもなく、平仮名で、ゆかりだ。14歳の中3、受験の天王山とかいう夏休み真っ只中のために、塾に向けて地獄の行進をしている。
両親共に健在であり、大学生の長男と、高校生の次男がいるため、私の重要度はかなり低い。まぁ、普通に生きてくれたらいいというぐらいかな?
「何で私は突然自分の紹介を始めてるんだ…」
そう、私は独り言が多い。気づいたら考えていることが漏れてる、ということは日常茶飯事だ。
そのせいで担任に面と向かって、
「今日の化粧崩れてんな」
とか、父親に向かって、
「いつまで甘えてくるんだよ、かわいいだけのお前の娘はもういないんだよ」
とか、言ってるらしい。心の中だけでしか言ってないと思うんだけどな。最有力なのは、私以外のみんなが読心術が使えるということだ。きっとそうに違いない。
「だいぶ完成してきたなぁ」
塾に行く途中に通る駅近くの工事現場付近までやって来た。ここを過ぎれば2,3分で塾に着く。暑さとはおさらばだ!
そんなことを考えていると、前方が何やら騒がしい。祭りのような騒がしさと言うよりも、悲鳴? 人だかりもあるしな。
うわー、面倒くさ。迂回するか? いや、これ以上暑いのを我慢したくない。熱中症で誰か倒れたぐらいだろ。
という訳で、人混みをかき分け直進。暑いし、汗くせぇな。
「ば、ばか! あんま刺激するようなことをするんじゃない!」
あぁッ! 受験生に向かって馬鹿とかいうデリケートなこと言うんじゃねぇ!
つーか、刺激ってなんだよ、殺人鬼でも出てんのか? だったら、野次馬根性晒してないで、警察でもなんでも呼んでこいや! テメェの頭の上についてるやつはただの飾りか?
「ゴミ虫が!」
やばい、暑くてイライラしてる。なんか声かけて来た人もこっち睨んでるし。あっ、でもこのまま行けば楽に通れそう。今のうちにさっさと行くか!
ようやく人混みが終わり、空間に出る。
「お、お前は誰だ! こ、こいつがどうなってもいいのか!?」
わーお、ガチめに人質とってなんか騒いでる。スゲェ状況だな、そりゃ野次馬するわな。
って、やばくね!? 私以上にあの人がやばくね!? あー、何でもっとちゃんと止めてくれなかったんだよ、さっき話しかけてきた人! やっぱゴミ虫だな!
「あー、っとすみません。私はただの受験を控えた中3のかわいい女の子です。人畜無害なので、そこ通してもらえません? 塾行きたいんですよ」
(((自分で可愛いとか言うのか!)))
「な、何を言っている!? 状況が理解できないのか!?」
「あなたが、人質をとって、なんか騒いでる。これが今の状況ですよね。私にとって何の関係もない。ただ、私のせいでその人質さんが死ぬっていうのは、寝覚めも悪いので、ただ通してくれないかなーって」
もう、めんどくさいなぁ。こんな所でやるなよ。
「大体駅前でやったら交番とかから警官飛んでくるだろ。計画立案能力低すぎ、あるいは目立ちたいってやつ?インスタでもやっとけよ。なんで私がこんな目に遭わないといけないんだよ。最悪だな」
あれ? なんか急に静かになったし。犯人の顔真っ赤、おもしれー。群衆の顔真っ青、対比効果でよく映えますね。
「こっんのヤロー!? バカにしやがって! こっち来い! この女がどうなってもいいのか!?」
「さっきからマガジンマーク多いですね。まぁ、通してくれるんですね。あざます」
意外と話がわかる人で良かった。でも、通すつもりなら、こっち来い、じゃなくて、早く行け! だよね。日本語能力まで低いのか。
犯人さんの近くまで来た。ここでようやく私は気づいた。あれ、なんで馬鹿にしてるってバレてる?
また、独り言言ってた? だとしたら、挑発してることになる? マ、マズイマズイマズイマズイマズイ!
「お前の要望通り人質は傷つけねぇよ。代わりにお前が人質だがなぁ!」
デスヨネー。
「いや、違うんですよぉ。ただ、癖で、思ったことを気づいたら独り言として言っちゃうだけでして、別にバカにしてるわけじゃないんですよぉ」
「頭の中で思ってるってことは、フツーにバカにしてるってことじゃねぇか!」
「チッ、意外と頭が回りやがる!」
「お前は自殺志願者なのか? お前の方がもうちょっと状況理解のために頭を回した方がいいだろ!」
クソー、こんなことになるとは。振りほどいて逃げることも難しそうだな。これ絶対絶命ってやつ? 多分バカにしたせいで、私犯人捕まる時殺されるよな? 聞いてみるか。
「あのー、わたしって殺される可能性どんぐらいですか?」
「本当に舐めたことを聞いてくるんだな。よし、決めた。絶対殺す」
「キャァァァ!」
「今更かよ、さんざん馬鹿にしたお前が、ッ!」
悲鳴で油断した隙に頭突きで顎を殴る。どうせ殺されるなら、ワンチャン狙ってこうぜ! 作戦名《ガンガンいこうぜ!》からの〜、
「逃げるんだよ〜!」
「逃がすか!」
ブスッ! 私がか! 私はブスじゃない!
あれ?胸から刃の先っぽが! でも全然痛くない! ドーパミンどっぱどぱってやつ?
「今だ! 刃物を離したぞ! 取り抑えろ!」
野次馬どもやるじゃん!でも、これ私死ぬんじゃね?痛くないから実感はないんだけどさ。まだ、ワンチャンある?キタコレ!
「おい! 下にいるやつ気をつけろ! 鉄骨が落ちてきてるぞ!」
嘘だっ! いや、ふざけてる場合じゃない。でも、私にあたる可能性なんかほとんどないだろ。すげぇ体が動かなくなってきたし、動きたくない。
そうだよ、ここまで不幸続きなんだから当たるわけがないよ!
ヒュッ!
あれっ、音が近い…
「「「キャァァァ!」」」
「「「うわぁぁぁ!」」」
悲鳴が聞こえる。私も一応誰に当たったのか見てみたい。野次馬根性大爆発だ!
んー? 体が動かない。首だけ動くや。これじゃ見つけにくいじゃん。
なんか地面近い。私いつの間にかにうつ伏せになってる。でも楽だからいいか。はしたないとかいう人いないよね、胸から刃物が飛びててる時点で、はしたないも何もないし。
さぁ、誰が当たったんだ? もしかしたら最後の楽しみだ! しっかり目に焼き付けてやるぜ!
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
おっと思わず笑いが。他人の不幸は蜜の味って言うもんね。
うーん、目が霞んでよく見えない。しかもどこにも鉄骨落ちてない。みんなこっち見てるし、多分。目見開いてみるか。
「こ、怖い!」
失敬な! なんでそんなこと言われないといけないんだ!
あっ、胸すごく痛くなってきた。ドーパミン切れてきたかな? あれ? 下半身もすごく痛い。
瞼重い。目開けてらんない。でも、屋外で寝るとか流石にないよな。もう1回目見開いて、っと。なんでこんなに必死になってるんだ、私は。やばい、なんか笑えてきた。
「ふへっ、ふへへへへへへへへへ」