〈24-3〉
天井の様子が遠目に見える頃になると、眼下の騒ぎは途端に遠くなった。それほどまでに、高く昇ったのだとだと解る。
消えた赤い月の変わりに、あちらこちらで灯された明かりは、闇に浮かぶ星のようだ。天と地は逆転し、普段から石と金属に囲まれて暮らしているにも関わらず、どこか生き物の生活圏から切り離されてしまったように錯覚した。
「あ……」
思わずシェラがこぼした溜息は、響くことなく下に落ちていく。これほどまでに寒々しい景色が続くところに、本当に自分たちが求めているものがあるのかと、疑いたくなったのも仕方がない。
下からは見る事すら叶わなかった〈工場の木〉の全貌が、段々と見てとれた。何処までも続く建物の側面沿って、上と下に延々と続く階段を見つけて、リズたち四人は揃って降りた。
「こんなところで下ろして、貴殿方を追わないとでもお思いですか」
シェヘラは可能な限り彼女たちから距離を取って上段に逃げ、真っ先に腕の拘束を解かれたテトラは憎まれ口を叩いた。だが、リズがそれに受け合った様子はない。
「さあ? でも、さっさっと降りた方が身の為だと思うな」
「なんですって?」
訝しむ姿にほくそ笑んで、今も尚上昇している機械を振り返らずに指し示す。
「あの機械には、与えた合図に従って動くようにしかプログラムしていない。よって、あれは最早、弊害でしかないあの天井をぶち壊すまで止まりはしない」
「だったら尚更、破壊してでも止めます。今ならまだ追いつけます。そこを退きなさい」
「断る」
テトラ自身も返答は解り切っていただろうに、あっさりと断られて悔しそうに唇を噛む。
彼らの重みが無くなった事を感じているのだろうか。上昇速度が、途端に上がった。そんな機械を見送って、リズはひょいと肩を竦めた。
「もう、あれは俺にも止められない。あれのエネルギーが尽きるのが先か、この地を閉じ込めている、鬱陶しい天井を壊すのが先かのどちらかだ」
リズに事もなさげに言われて、未だに後ろ手に拘束されたままのジアが、テトラと同じ声で苦しそうに告げた。
「……貴方は本気でこの街を、混乱に貶めるつもりなのですね」
「逆に聞くが、あんたたちが与えられた命令は、あんたたちの納得の出来るものだったか? こんな事している間にも、大切なドラクロアはどうなっているのか解らないって言うのに、随分と呑気に、馬鹿の一つ覚えみたいに俺らに構っている暇があるもんなんだな」
「それが何よりも、クロア様の望まれていた事。主の意を汲んで動くのは当たり前です」
「意を汲むだけなら、野良の機械に命令するのと変わりないよな」
「つまり、私達が機械に劣ると?」
「あんたたちだって、ただあいつの言う事を聞くだけの存在じゃあない筈だろ」
即答されて、今度こそ同じ顔をした彼女たちも口を閉ざした。
そんな姿達を暫し眺めたあと、リズは何気なく上昇していった機械を見上げた。
「霧が晴れて、月が落ちた空を見上げたあの観衆は、一体何を思っただろうな?」
もはや、殺し文句でしかなかった。
「っ……」
「この借りは、どこかで必ず返させて頂きますから」
「出来るものなら、な」
腕の拘束を完全に解き、階段を駆けて下り出した二つの背中を、ただ、それ以上の言葉もなく見送るだけだった。
「リズ、行こう。私達も」
「ああ、……この先に、求めた答えは必ずある」




