〈24-2〉
「お姉ちゃん!」
その先の地上で、してやったりと得意げに笑うロドの姿があり、そのたくましい腕を振り上げた。彼が、リウミュをこの高さまで投げたのだと、漸く知った。
「シェヘラの大馬鹿! 何をつまらない事言われて迷ってるのよ! 私にあれだけ減らず口叩いておいて、今更諦めたりしたら、承知しないんだから!」
殴られるような言葉は、イードに押さえつけられた時よりも痛かった。ゆっくりと落ちていくその姿が心配で、思わず身を乗り出す。
「お姉ちゃ―――――」
「行きなさい!」
だが、送られた言葉にまばたきした。
言葉の意味を理解しそこなって見返していると、花が咲くように笑われて、漸く気が付いた。
「……行ってきます!」
彼女の下で腕を広げるロドの姿を確認して、シェヘラは再び立ち上がった。
「おわっ」
途端、ぐらりと足場が傾いた。丁度、一人を取り押さえたリズが強く叩きつけたせいだ。
「動くな! 下手な事したらこいつ、落とすよ」
一喝した途端、もう一人も悔しそうにしながら動きを止めた。
それを確認してから、リズはちらりとシェヘラに一瞥をくれた。
「大丈夫か」
肩で軽く息をつきながら端的に尋ねられて、はっきりと頷く。
「うんっ。リズは」
「悪い、手間取った」
聞くまでもなくそちらに目を向けて、シェヘラはどきりとした。
「え?」
始めに目が合ったのは、リズを迎えに来たと言う黒髪褐色肌の女性だった。だが、その隣に全く同じ姿があって、困惑する。
唯一違いがあるとしたら、片や赤い瞳のテトラが爛々とこちらを見返し、押さえつけられた青い瞳のジアが、静かにリズの動きを伺っている事くらいだ。
「あの人達って……」
対比のような二人の姿に戸惑ったシェヘラに、目に見えてテトラは表情を険しくした。
「っ、ジアを離しなさい!」
「却下」
「イードを出し抜けても、私たちはそうはいきませんよ」
「動けないあんたに言われたところで、そうですねとは言い難いな」
手元から覗き込むように言われて、怯むリズではない。呆れて淡々と返したら、悔しそうにそっぽを向かれてしまうだけだった。
「二人も、〈工場の木〉に何かされたの?」
ただその隣で、見間違え様もないくらいに同じ顏に、シェヘラは戸惑った様子ながら尋ねた。そんな姿にジアがくすりと笑った。
「初めに言っておくと、私たちは双子ではありませんよ。お嬢さん」
「ええ。だって、『私たち』は他にもいますから」
テトラまでも諦めたのか、同じ声の調子で告げる。言葉の含みから気味が悪くて後退りしたシェヘラを、彼女たちが見逃す筈がなかった。
朗々と告げる。
「培養液に入れられて、オリジナルから繰り返し増やしていく技術」
「同じものを作り続ける事で、良質な肉を得る技術」
「その過程で実験されていたのが私たちですよ、かわいらしいお嬢さん」
「え……」
思わず目を見開いて驚くシェヘラに、リズだけが舌打ちした。
「シェヘラ、そいつらの話に耳を貸すな」
「あらあら、知りたがったのはこの子じゃないですか」
くすくすと、ジアが笑う。
「ほら、あなた方だって肉を食すでしょう?」
「あれだって、余所から集めた人間を、〈工場の木〉がじっくりと加工しているから、街に普及しているんです」
「つまりはそう」
「つまりはそう」
「私たちは、元は一人の人間でした」
「今となっては全く別の個体でしかありませんが」
「その様に見てくださったのはクロア様だけ」
「そう、あの方だけだったの」
「故に」
「故に、あなた方の態度は気に食わないです」
「仇成す敵は排除します」
互い違いに、まるで山彦の様に話す二人に辟易して、リズは溜息をこぼした。
「捉えられてていう言葉じゃないと思うけどな」
途端、じとりとした視線が二つ、彼を見据える。もの言いたげな表情に、リズは取り押さえる力を緩めないようにしながら、器用にひょいと肩を竦めた。
「だから、言っているだろうが。俺らは勝手に出ていくだけだ。放っておいてくれないか」
「貴方はクロア様が必要としました」
「なら、私たちは貴方を捉えて差し出します」
「放っておくなどあり得ません」
「そういう事です」
「……それで個体を主張するんだから、笑わせてくれるよな?」
思わずといった具合にリズが笑った途端に、ジアとテトラの目つきも変わる。気分を害したのだと知るにはあからさま過ぎた。
「リズ」
言い過ぎだと咎めたシェヘラに、流石のリズも困った様子で眉尻を落とした。それ以上の余計な言葉は必要なく、ちらとテトラを見据えた。
「それで、あんたも大人しく降参してくれるよね。それともこっちを見殺しにしてでも、俺を捕まえるか?」
「……已むを得ません」
彼女たちの羽織る上着でそれぞれ腕を拘束すると、今更下ろす訳にもいかなくて、ただ大人しくしているよう告げた。
彼らの姿をたくさんの人が見上げる中、危なっかしく揺れる巨大な機械は空を舞う。




