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〈23-1〉

 

 閃光が、霧の向こうで光る。

 刹那、どんっと、一つ。この地を不安に駆り立てる音が響いた。


 その瞬間に、誰もが彼女の行動の理由を知った。

「退いてよ、邪魔!」

 集まり始めていた労働者達に叫ぶと、顛末を伺っていた者たちは驚かされた。何が起きているのだと、じわりと野次の輪を縮めようとしていたのが仇となって、また慌てて互いを押しのけあった。

 爆発音が、二個、三個と落ちてくる。その度に、天井の霧が怪しく揺らめき、朧月は瞬いた。

「これで…………!」

 最後だ、と。

 残っていた球体を蹴り上げたシェヘラは、力が抜けそうになる膝に鞭打って駆けきった。疲れもあって、天井まで蹴り上げきれなかった最後のそれは、遠くの霧にたどり着くよりも前に、火炎と爆風に変わる。轟音と光が、霧を押し退けた。


「うわっ!」

 熱風は放射状に広がって、身体の軽いシェヘラを煽って足元を掬った。一瞬仰け反った後に慌てて手と膝をつく。

「痛ったぁ……」

 思わず涙目になりながら、擦り傷になっていないかと確認せずにはいられない。

 だが、のんびりもしていられなかった。


「イード!」

「解ってます」


 鋭くかかった声に、即座に動いた影があった。

「シェヘラ! 左に避けろ!」 それを聞き付けたリズの声が、警告した。

「っ!」

 声に従って咄嗟に転がるようにして左に跳ぶ。ガッと鈍い音と共に、右手で砕けた石畳の欠片が爆ぜた。

「チィッ!」

 着地と同時に、イードは息を摘めた。避けられる事は予想の範囲内だ。

「このっ……!」

 イードはマントに僅かに煽られながら、軸足から体重を移す。膝をついて丸まった身体に狙い定め、蹴り込もうと踏み込んだ。

 シェヘラだって負けてはいない。相手の爪先を肘で受けて長そうとしたが、肩まで響く衝撃に呻いた。


 シェヘラが力任せに押し返そうとするが、びくともしなかった。それどころか、痺れた腕を捕まれて、無理やり立たされる。

「お前らごときがこんな事して許されるとでも――――」

「頭下げろ!」 リズが吠えた。

「つ、離して!」

 シェヘラが即座に反応して、腕を振り回しながら頭を下げると、空を切る矢のような音が耳に届いた。

「なっ!」

 目論み通りに怯んだ、イードの手が僅かに緩む。その隙に、シェヘラはこわばって動けなくなりそうになりった足を無理やり動かし、前に転がりすり抜けた。

 ひゅんっと高い音と共に飛来するそれには、聞き覚えがある。即座に足に力を込めて駆け出したシェヘラがちらりと振り返ると、小さな鋲が石畳を削っていた。

 呆気に取られていたイードの表情が途端、憎々しげに睨み付ける。

「このっ、どこまでも邪魔してくれる!」

 シェヘラを追いかけようとした出鼻を、間から入った四足の機械が遮った。

「くそっ」

 悪態が、振り上げられた足を避けた拍子に途切れる。


 もはや広場や〈工場の木〉周辺に人気は無い。広場から続く通りからは、物好きたちが、これから何が起き、どうなるのかと、恐怖と好奇心の間でこちらを伺っているだけだ。

 妙なくらいに静けさが際立つ。唯一〈工場の木〉の駆動だけが、異様なくらいに響いていた。

 機械の向こうから、追っ手が飛び出して来るより先に、リズはひらりと飛び降りた。

「立てるか、シェヘラ?」

「う、うん……っ」

「仕上げは整った。あとは――――」

 そちらに駆けつけてシェヘラの腕を掴んで立たせてやると、背中の方で呆れたような溜息が聞こえた。言いかけた言葉も、遮られて途切れる。


「君の考えは十分解った。でも諦めなよ、リーズヘック」

「っ、リズ……!」


 振り返った先にはクロアがいた。その背後には、イードと同じマントを纏う姿によってぐるりと取り囲まれている。時間を稼いでいたのはあちらも同じだったのだと、理解するのに容易い。

 

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