〈2-3〉
二つの姿を見送る事を止めたアルヴィスは、漸くテントの中を振り返った。
「それで? これを聞いてお前はどうするんだろう、クロア?」
「どうするかって? 詰まらないことを聞くね?」
一体いつからそこに居たのだろうか。堅牢なテントの太い柱に身体を預けていたその男は、赤銅色の髪をかき上げながら目を細め、失笑した。その様子はあたかも、逃げ惑うネズミを追い詰めた猫が、ほくそ笑んでいるようだ。
「生憎、使える人材をカンタンに手放してあげられる程、ヒトに余裕がなくってね? もうすぐ人手不足になってしまうから、ここまでだろうがなんだろうが、彼の下船は許可しかねるよね」
「だろうな」
解りきった答えだった。そして手放しがたく思っている姿をろくに引き留めようとしなかった自分には、次に来る言葉が解ってしまった。だからこそ、「誰に追わせる?」 と尋ねる。
「テトラがもう追ってくれているよ。イードだと喧嘩してしまいそうだからね。流石の彼も、女性相手ならば少しは気を緩めてくれるかもしれない。油断してくれれば、連れてきやすくもなるだろう?」
「……だといいな」
果たしてそのような手が、己の目的しか見えていない朴念仁に通用するのだろうか。疑問に思いこそすれ、同じような人種を目の前に相手をしているのだと思い出し、アルヴィスは何度目かの溜息を零した。