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〈21-2〉

 

 このまま再び、天上を揺るがすのかと思われた、その時だ。

「え……?」

 空洞の金属を叩き潰したような、一定の固さのあるものを地に叩きつけたような音が頭上から振って来た。音に釣られてリズが見上げると、飛び跳ねていた筈の機械が、ひっくり返ってしまっている。叩き落された虫の如く、無残に破壊されて落ちて来る機械の上には、遠目ながらマントを纏う姿が、いくつか見受けられた。

 人の身にして機動力のある彼らは、野良の機械よりも余程恐ろしい兵器に思えてしまう。

「君の好きにはさせないよ」

 静かに告げられた相手に、リズはまた視線を戻す。

「こんな騒ぎを起こすなんて、君は少しでも自分がやらかしている事を解っているのかい? リーズヘック。余計な事をして自分の首を絞めるなんて、君らしくないね?」

 先手の様に、くすりと笑ったクロアの表情は余裕そのものだった。こちらの方が見下ろしている筈なのに、いつ見ても全てを見通しているかの様に笑う姿が、ずっと高みにいるように思えて憎たらしい。

 つい出た舌打ちを隠すように、溜息を零した。

「あんたが差し向けてくれた通りにしただけだ。苦情言われる筋合いは無い筈だ」

「差し向けた? 可笑しな事を言うね。折角君の望みの手助けをしてあげようとしたって言うのに、周りに混乱を振りまいて、好き勝手しようとするからこうなってしまったんだよ?」

「〈工場の木〉に手足の自由を奪われた者たちを、その守りに使っているお前の方が、余程好き勝手しているんじゃないのか」

「僕の助けをしてくれるのは、彼らの善意で意思だ」

「へえ。なら、あんたに手向かうのも俺の意思だ」

 きっぱりと言い切った言葉に、クロアが小さく舌打ちしたのが聞こえた。それでも、まだ余裕を張り付けた笑顔で小首を傾げる。

「一応聞くけど、返事は?」

「人の話、聞いていたか? 俺はあんたに従わない。さっきそう言ったよな?」

「全く、諦めが悪いね。なら、僕は君を止めないといけない義務があるな」

「決められた箱庭の中に留めて置きたいならば、もっと早くに潰しておくべきだったな?」

「ほんとだよ。こればっかりは、悔やんでも悔やみきれないね。……だから」

 くすっとまた相手が笑った直後だった。

「君達の玩具、壊させてもらうよ!」

 最後までその長い胴でへばりついていた機械までもが剥がされて、マントを纏ったクロアの手のものによって三つに分断されていた。それでも上を目指そうと、沢山の足を動かしていたが、やがて動力が尽きたのか緩やかに停止した。


 そのせいだ。いくつかの球体は弾かれて、地上へと投下されてしまう。

「しまっ……!」

 リズがハッした時には、広場に落ちた球状の機械の数々は、叩き付けられて壊れるような事もなく、緩やかに跳ね上がった。

「いいから、リズ!」

 慌ててそちらに大型の機械ごと差し向けようとするリズを、シェヘラが咄嗟に引き留める。

「まだ、あるでしょ!」

 きっぱりと告げられて、足元を一瞥する。

「……悪い、頼む! すぐ行く」


 訝しんだクロアを余所に、シェヘラは乗っていた機械の上から飛び降りた。膝を折って着地の衝撃を和らげると、強く踏み切り駆け出す。二つ、三つとステップを踏むように駆け、跳ね上がった球体の下に潜り混んだ刹那、一際強く踏み込んだ。

「はぁっ!」

 限界まで屈んだ身体を、シェヘラは義手の力を持って支える。出せる限りの出力が、自身の身体を痛める事が解っていても、肺に溜めた息を一息に吐き出し、義足の動力を借りて、ありったけの力でその機械を蹴りあげた。

 球体の機械がひしゃげたように見えたのは、恐らく目の錯覚ではないだろう。ぐしゃりと軽い音を立てたそれは、強烈に蹴り上げられて、あっという間に霧の向こうに消えていった。

 シェヘラは止まらない。精一杯の気合いを吐き出し、再び強く地を踏む。近くで未だにふわふわと跳ねる球体の機械を捉えると、即座に身体をひねって身を沈めた。

 一息に、足蹴にして高みに押し上げた。

 

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