〈21-1〉
段々と視界を占める範囲を大きくしていく〈工場の木〉の様子に、自然と息が詰まった。緊張のせいからなのか、肺が締め付けられるような痛みに、上手く呼吸が出来ない。じっとりと汗をかいた手は、これからを期待して微かに震えた。
「リズ、緊張してるの?」
どこか笑みを含んだ声は、柔らかく尋ねた。肯定も否定もせずに遠くを睨み付けていたら、くすくすと笑われる。
「私はしてるよ。だって、今からどんな景色が見られるんだろうって、どきどきしてる」
嬉しそうに言われてしまうと、それ以上文句も何も言えなかった。
「ああ。そうだな」
流れる街の景色は、朧月の明かりに滲んで見える。逃げ惑う人々を追いやる様に大通りを抜け、広場が見えたところで、短く指笛で合図を出した。
先陣を切っていた、足の長い機械が跳ねる。
予め与えていた指示の通りに建物の上を駆ける機械に、遠くから様子を見ていた者達からわっと声が上がった。蜘蛛の子を散らして、誰もが逃げ出そうとした。
相手の喉元に真っ先に切り込んだ足の長い機械は、つけた助走のままに〈工場の木〉を駆け上がり、やがて霧の向こうに姿を消した。微かに聞こえた、天を揺るがすような音が、目論み通りの高さに届いたのだと教えてくれる。
前方を睨み付けると、同じように自分を捉える視線に気がついた。傍に控えていたマント姿が離れて行くと同時に、〈工場の木〉自体がざわめいたような気がした。それが単に、相手の体勢が整っただけなのだとしても、進むしかない彼らには関係のない事だ。
「進め!」
再び短く合図を出す。
周りに控えていた小型の機械たちが、一斉に先陣の後を追って〈工場の木〉に向かって行く。
地を這っていた機械は〈工場の木〉に取りつくと。螺旋を描きながら少しずつ上を目指した。球体は、這って進む機械の上を、のんびり転がっていく。かと思うと、乗っていた機械に蹴り上げられて、霧の向こうに飛んで消えていった。先程よりも小規模ながら、ずんっと鈍い音が聞こえて来た。巡り廻って、上空で起きた衝撃が微かに地を揺らす。
先陣を切った四足を持ったものと同じ型の機械はやはり跳ね上がっていき、勢いはそれほどなくとも着実に上を目指した。機械蛾だけが遅れを取って、はたはたと赤い月光を煌めかせて宙を泳いでいだ。
そんな機械たちの姿を見て、未だ広場にあった人々から悲鳴が上がる。右に左へ、他者を押し退け、どうにか距離を取ろうと逃げ惑った。
人々がはけきった広場に、リズを乗せた巨大な機械は、重たそうな身体を押し進める。やがて、取り残されていた移動船に対峙して、ゆるりと停止した。
見上げる程大きなそれは、移動船の上に立ったクロアを優に見下ろすほどに高く、重々しい。それでも、〈工場の木〉の大きさに比べてしまえば、おもちゃに見間違うほどなのは間違いない。




