〈20-2〉
余裕そうに笑うクロアに、どこか恨みがましそうに半眼で睨むイードは、不意にそれを自覚して取り繕い、咳払いした。
「探査機と言えば、ですが。街の者たちから妙な声が上がっています」
「妙な声?」
「はい。裏の細い道までも入り込んでスタインフェルドを探し出そうとしたそうなのですが、いつもは野良の機械が潜んでいてもおかしくないような場所でもあるのに、全く見かけなかったそうです」
「それは本当かい?!」
聞いた途端、クロアは目の前の肩を掴んで揺さぶってしまっていた。
珍しく驚いた声を上げる主人の様子にイードは目を見開いて、「は、はい……」 と慌てて頷いた。マズいなと漏らした声を、聞き逃す筈がない。
「すぐに〈工場の木〉周辺に召集してくれ。恐らくリーズヘックは――――」
言いかけた言葉は、最後まで口にはされなかった。不意に外から聞こえた、沢山の慌てた叫び声に吊られて、クロアは移動船のステップから身を乗り出した。
「クロア様!」
イードが慌ててしまったのも無理はない。だが、遅れて彼も外の異変に気が付いた。
遠くから断続的に、重たいものが地に落ちるような地響きが聞こえてくる。足の裏から伝わる振動から、着実に何かが迫ってきている予感がした。
広場に追いやられたのだろうか。思い思いの武器を手にした男たちや、店を放り出して逃げて来たらしい女たちの姿が、しきりに通りの向こう側を気にしながら逃げ惑っていた。混乱と怒号は入り混じり、少しでも身の安全を確保出来る場所を求めていた。
やられた、と。呟いた声は広場の騒ぎに消えていった。
逃げ惑う人々の向こうに、姿形に移動方法の異なる機械の影を見た。嫌な予感が的中したかと、いつも余裕を見せていた表情を崩していた。
一際大きな機械の上に、尋ね人の姿を見つけて嘆息した。
「イード、非常事態だ。テトラたちに警戒するよう伝えてくれる?」
「直ちに」
脇をすり抜け、〈工場の木〉へと一足跳びに向かっていく姿を見送っていたら、同じように視界の端で何かが横切った事に気がついた。
連なる建物の上を跳ぶ様にして、人々の頭上も広場も抜けていく機械があった。思わず振り返ってその姿を目で追うと、それは〈工場の木〉に飛びついていた。
「なっ……!」
助走を全て垂直運動に変えて、どんどん飛び上がっていく姿に、方々から驚愕の声が上がる。やがて機械の影は、赤い月が待つ霧の向こうに消えて行った。
遅れて、何かがぶつかったような鈍い音が響く。
「……やってくれるね、リーズヘック」
ギリッと歯を食いしばったのも束の間、遥か上空からの飛来物にまた悲鳴が上がる。
「クロア様、破損した〈工場の木〉から外壁などが落下して――――」
「解ってる!」
慌てて戻って来たらしい姿に、クロアも自然と声を荒げた。
「イード、動ける者で住人たちの誘導と、それから〈木〉を守れ。僕はあの大馬鹿者を止める」
赤い月が、怪しくちらついた気がした。




