〈17-1〉
呆気に取られた事による沈黙は、一瞬だった。
「ちょ、ちょっと待て! いや、言いたい事を否定したい訳じゃねえ! けど待て。ここが、地下……? そんな馬鹿な事がっ」
慌てた様子で捲し立てたロドに、リズは眉尻を下げて微苦笑した。
「ある訳ないって、俺だって思いたいくらいさ。でもドラクロアが、俺を説得しようと引き合いに出した話だ。すべてが嘘だとは思えない」
「そうは言ってもだな……それじゃあ、俺らは今まで遺跡を掘っていたのは、地下で地下を目指していたって言うのか?」
「まあ、そういう事になるかと」
未だ混乱の中にあるロドは、ついに頭を抱えて項垂れた。
「それじゃあ、地下に眠っているって資源を掘っていた俺らは一体、結局何を目指して掘っていたって言うんだ? そこまで含めて作られているって言うのか……?」
うんうんと頭を捻るロドの姿を見て、仕方なさそうに笑うヤヌスだけは、リズが告げた言葉を飲み込んでくれたらしい。
「やれるのかい?」
「可能か不可能かを問うよりも、どうしたら実現できるのかを、一緒に考えて欲しいところです。どんなに考えがあったとしても、一人で成し遂げられるなんて、うぬぼれられる程の力がある訳じゃないので」
なのでお願いします。神妙に頭を下げたリズに、ヤヌスは穏やかに笑った後にシェヘラを見た。未だに要領を得れていない様子のシェヘラも、向けられた視線にハッとした。
「……あのね、怒らないで聞いてくれる?」
上目遣いでこちらの機嫌を伺うシェヘラに、リズは片眉をひょいと上げ頷いた。少しだけホッと息を吐いたシェヘラに、周りの大人たちだけが、一体何を言うつもりなのだと不思議そうだ。
「正直言うとね、……まだ、信じれない事の方がまだ大きいよ」
申し訳なさそうに告げた言葉に、それはそうだろうと頷き返す。リズの反応に、シェヘラは思い切ったようにまた口を開いた。
「けど、でもね。私のやりたい事にやっぱり変わりはなくて、父さんの残したものを守って、そして父さんを見返してやりたい」
「見返す?」
尋ねた途端、シェヘラは不貞腐れて頬を膨らました。
「そう! だって父さん、私の事バカにしてるよね? 少なくとも父さんは緑一杯に出来ないって解っていて、でもはっきりとした理由を何も言わないで、適当な事ばっかり言って、私がしようとしていた事、ずっとはぐらかしていたって事でしょう? だとしたら、私は父さんを許したくない。例え父さんがここで見ていなくても、私は私の夢を成し遂げてみせるんだ」
ふつふつとこみ上げていたのは、遠退いた景色よりも、最も身近な者への憤り。それとなくはぐらかされていた事が、何よりも彼女の自尊心を傷つけていたようだった。
「それは、このままそれまでの生活に戻れなかったとしてもいいんだね? シェヘラ」
尋ねたヤヌスに、シェヘラは首肯した。
「うん、リズについてく。父さんは許さない。でも、だからこそもっと、父さんを抜かしたくなった。……その為にも、リズが一緒に目指してくれるって言うなら、こんなに心強いことはないって思うんだ」
「そのせいで、屋上にある植物たちが台無しになっても、か?」
迷っていたシェヘラの気持ちは、言葉を重ねるうちに定まったようだった。
「うん。だって、これからもっと沢山あるところに、リズが一緒に行ってくれるんでしょう?」
「ああ」
それならばと、〈工場の木〉を敵に回させないようにする言葉も、それまで当たり前の生活に戻そうとする言葉もヤヌスは飲み込んだ。決意に満ちた表情で、「だから」 と続けようとしたシェヘラを、ヤヌスは穏やかな表情で見守る。
その時だ。リンっと小さなベルは鳴った。




