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〈16-2〉

 

「周りがあの場所の事をどう思っているのかは知らない。ただ、俺にとってあの場所は、繰り返し繰り返し決められた通りに組み立てられていく機械そのものにしか思えなくて……どっちが機械なのか解らなくて、苦しかった」

 息を殺すように飲んだのは一体誰だっただろうか。リズは気にすることなく続く。

「毎日毎日、ただ漠然と考える事無く、言われた事だけを繰り返す事に嫌気がさして、一方的に流れてくるだけの機械と、俺は違うんだって叫びたくなった。ただ作業するだけの為に、こんなところにいるんじゃねえ! ってな」

「あー……その」

 また言い難そうに閉口したところで、ロドはまた頭をかきむしった。

「悪かったな。知らなかったとはいえ、押しつけがましい事言っちまってよ」

「いや」

 しどろもどろになるロドに目を向けながら、リズは緩やかに首を振った。

「別に俺は、だからと言って〈工場の木〉で働いていた事を後悔している訳ではない」

「嫌だったんじゃないの?」 シェヘラは怪訝そうに尋ねた。

「嫌ではあった。でも、アルゼートと会えたのもそのお蔭だから――――」

 そこまで話して、リズは不意に言葉を切ってしまう。

 いたずら小僧のような人懐っこい笑みを浮かべ、力強く腕を牽引している姿が脳裏を過った。同時に、今はどうだと、心のどこかが意地悪く疑問の声を上げた。


 遮った負い目があったのだろう。「それで、捜していたものは〈工場の木〉にあったのか?」 とロドに促され、リズも落ちていた目線を上げた。

「端的に言うと、〈工場の木〉そのものには、植物は存在していなかった」

 結論のみを告げるリズに、納得するシェヘラではない。

「どういう事? じゃあ、父さんが残してくれたこれは?」

「順を追うから待て」

 先へ先へと急ぎたがるシェヘラに、ついつい苦笑してしまう。

「植物は意図的にこの場所から排除したって、ドラクロアは言っていた」

「意図?」

「植物を排除したのは、人を〈工場の木〉からの供給物で賄い、〈工場の木〉に縛り付ける為だそうだ」

「ほう」

「なるほどなあ」

 未だに要領を得ずに首を傾げるシェヘラを除き、男たちは感嘆した。続けてくれと言われたリズは、ロドにつと視線をくれる。

「アルゼートが残した植物は、そんな閉鎖的になりがちな街の中に用意した、娯楽の一種だと聞いた」

 話を振られるとは思っていなかったのだろう。不意に駆けられた言葉に、ロドは一瞬眉を顰め、やがて頷いた。

「ああ、そうだな」

「娯楽であると同時に、この場所以外のものに目を向けさせないように、目の前の仕事と娯楽だけに目を向けさせる為の薬だって言ったら、あんたは怒るか?」

 考え込むように眉を顰めたロドは、視線をカウンターの向こうにある棚の上を巡らせた。


 自然とみんなの視線が集まったせいで、落ち着かなかったのだろう。考えを巡らせている間、せわしなく手はポケットを探して、やがてはたと気が付いたようだった。

「ああ、こういう事だな?」

 ロド自身も無意識だったのだろう。苦笑したロドにリズは唇を結んで真剣な様子で頷くと、ロドは納得した様子で笑っていた。

「確かにシェヘラから買う煙草なくしたら、俺ら採掘所で働く奴らはもっと鬱屈していたかもしれないしなあ。何よりも息抜きに一番手っ取り早いし、今更手放せねえ」

「その為のものだからな」

 ロドの言葉を肯定してから、言葉を切る。

「だからあいつは、アルゼートは……〈工場の木〉から与えられた以外の緑を探したくなったのかもしれない。俺らと敵対するような立ち位置に身を置きながら、その一方で――――」

 言わなければならないという思いと、未だに認めたくないという思いが衝突して、自然と語尾はかき消えてしまう。

 

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