〈16-1〉
「お願いだよ、リズ。〈工場の木〉で聞いてきたこと、私達にも教えて」
ヤヌスに促されてカウンターに座ったシェヘラは、やっと隣に落ち着いた姿に、真剣に願った。未だに心ここにあらずの様子で顔を背けていたリズは、これでもかと言う程大袈裟なくらいに息を吸い、やがて深く吐き出した。
「広場での騒ぎを起こした方が聞きたいんじゃないのか」
途端、シェヘラの表情も曇る。
「もちろん気になるよ。気になるけど、でも、皆が信じた言葉よりも、私はリズの言葉をちゃんと聞きたい。そこも含めて聞かせてくれるんでしょ?」
返された言葉にリズは唇を結んだ。
「……信じていたものを無くすかもしれないぞ」
やがて脅し文句のような言葉を呟くが、シェヘラは即座に首を振る。
「そんなの、聞いてみなくちゃ解らないよ」
「解った」
諦めたと言った方が正しいのかもしれない。どうしようもなく溜息が零れる。どんなに言葉を選んでも、間違いなく傷つける事が解っていたら、尚更だ。
どこから話すべきかと目を瞑り、やがて、そうだなと呟く。
「先に言わせてもらうと、広場の騒ぎはあいつらの狂言だ」
「狂言?」
不思議そうに首を傾げ、姉と同じ顔をするシェヘラに、リズは一瞥をくれて首肯する。
「ああ。……ドラクロアはどうしても、俺を技工士として働かせたいみたいだからな」
ヒュウと口笛を吹いてロドは囃し立て、ヤヌスは感心したように吐息を漏らして頷いた。
彼らが驚くのも無理はない。
〈工場の木〉が生活の中心であるこの街において、技工士の需要は他の仕事よりも群を抜く。誰もが一度は憧れすら思う場所に、嫌悪感すら滲ませるリズの姿は、さぞかし不思議なものに映った。
故に。
「そんなに悪い申し出か? 緑の場所の事があるにしても、こんな騒ぎにならない方法があったんじゃないのか?」
真っ当とも言える疑問を口にしたロドに、リズは黙る。ゴーグルに表情を隠していても、彼の機嫌が悪くなったのはあからさまだ。
察するのは容易く、ヤヌスは咎めるような視線をヤヌスは向けた。失敗したと言わんばかりに片目をつむり、ロドはがしがしと頭をかいた。
「あー……その、なんだ。深い意味はないんだ。ただ、自分が居た事のない場所がどういうものなのかって、よく解らなくてだな」
言い訳だと一蹴されてしまえば、それまでで終わるほど情けない弁解だった。リズは暫し黙ったのちに、面倒くさそうにカウンターに肘をつく。
「……別に、あんたが思っているような良い事なんてない」
そこで言葉を切ってしまうのは簡単な事だ。だが、ふと瞼に浮かんだ顔に苦笑してしまった途端に、まあいいじゃないかと自分で自分を宥める。




