〈13-2〉
宥めるように声をかけてくれるロドに一瞥をくれ、シェヘラはもう一つ深く息を吐いた。これ以上ここで愚痴をこぼしても仕方がないかと、諦めたせいだ。
「……リズ、大丈夫かな」
ぽつりとつぶやいた言葉は、ロドの耳にも聞こえていた。片眉を跳ね上げながら「一緒にいた兄ちゃんか?」 と尋ねられて、シェヘラは頷く。
喧嘩の火種の一つだったなあと思いつつも、ロドは顎をさすった。
「初めて見かけた奴だけど、親しいのか?」
「父さんがね」
「あいつの方かあ」
なるほどねと頭の上で腕を組み直した姿に、シェヘラは唇を尖らせる。
「おじさんもあんまりいい顔しないんだね」
「そりゃな」
ロドは苦笑すると、シェヘラに向き合うように身体を起こした。
「誰だって心配に思うさ。特にあの変人の知り合いとあっちゃあな」
「……父さんは変人じゃないもん」
「ははっ、そう言うのはお前さんだけだろうな。ここらの監督を任されているにも関わらず、サボりを注意するどころか自分まで熱心にゴミ漁りを始めるような奴、変人じゃなければキチガイだろうが。違うか?」
「知らないよッ」
今度こそそっぽを向いたのは、それ以上の否定が出来なかったせいだ。すぐにまた深く溜息をこぼしていたシェヘラを眺め、ロドはぐりぐりとその頭を乱雑に撫でた。
「可愛げのない奴め」
シェヘラはそれに、特に嫌がる様子もなく「頭が取れそう」 と悪戯っぽく笑ってぼやくだけだった。
「さあて、今度こそいい加減にして、持ち場に戻るとするかね」
仕切りなおすように膝を叩いて立ち上がったロドに、他の男たちも皆無に等しいやる気をぼちぼち出そうと思ったのだろう。
その時だった。
「おーい、誰か手を貸してやってくれ! ごみ山に人が埋まりそうだぞ!」
〈工場の木〉から直接捨てられたものが拾える奥で、誰かが人手を求めて声を上げた。その声に、ロドは首を傾げる。
「あそこで埋まる奴がいるなんて、珍しい事もあるもんだな」
それもそのはずだ。
常に使い道の無いものが吐き出されている廃棄所のものも、細かく丁寧に解体していけば使い道もあり、金にもなる。だからこそ、廃棄所に通うものは居なくならない。
彼らは常に供給され続ける資源の流れに巻き込まれないようにしつつ、目ぼしいものをかき集められる術を持っている筈なのだ。故に、そこに通い詰めている誰かが埋まりそうになるという事は、本当に珍しい。
「やれやれ」
「仕方ねえ、こんなところで死人が出ても寝ざめりぃしな」
それは、その場にいた男たちも感じたのだろう。面倒くさそうにぼやきながらも、手空きである以上手を貸しに行くかと、一人二人と重い腰を上げた。
共に向かったからと言って、特別何かが出来る訳でもない。だが、彼らの後にシェヘラも続いた。
彼らがガラクタの向こうに回り込むと、往来の為に均されていた足場が、すぐに不安定な瓦礫の山に変わった。
廃棄所で部品を収集する者たちにとって、雑然と並べられているようにしか見えないゴミの山も、きちんと部品や用途ごとに分けられているのだ。そんなゴミの山を抜けていくと、細かく分けられていた部品の山でしかなかったそれも次第に原型をとどめた壊れた機械へと変わっていく。
絶えず〈工場の木〉から吐き出される流れの終着点は、後から後から流れてくる残骸によって、最も雑然としていた。ゴミ捨て場を働く場所と定めて、せっせと分類する者たちの働きよりも、供給が多いせいで、手つかずのままになっているものも多い。仕分けられなかったものは、段々と押しつぶされて、この集積所の礎を固めているのだ。
彼らの前を駆けていく姿たちに案内されて、現場に向かうと、そこには既に人だかりが出来ていた。
ガラクタに崩れ埋もれた者は、幸いな事に深く埋もれる前に気が付いて貰えたようだった。既にガラクタの山から助けられて、集積所の片隅に座らされていた。
ゴーグルに表情を隠しているものの、血の気の引いた肌は、少なからず彼が疲れ切っている事を教えてくれる。周りが声をかけても、自分の失態が恥ずかしいのか、助けてくれた事にお礼は言っているようだが、それ以上は構わないでくれの一点張りだ。
彼の様子に、集まった者たちも仕方がなさそうにしている。
「なんだ、もう終わっているのか」
「やる気出して損したなあ」
「元々そんなもんなかった奴がよく言うぜ」
「同感だ」
「やれやれ」
散々悪態ついて働く気すらなかった男たちは、つまらなそうに引き返していく。それはロドも同じらしく、「無事ならよかった」 と胸をなで下ろしていた。
だが、シェヘラだけは思わず目を見開いた。
「リズ!」
「あ、おい!」
慌てて駆け寄っていくシェヘラに、ロドだけが後を追う。人垣は、飛んできたシェヘラに驚きながらも通してくれた。
「リズ、大丈夫?! 良かった。どうだったの?」
「あ……」
人垣からシェヘラが飛び出した途端、向こうもこちらに気が付いたようだった。ただ、反応は弱々しく、どこか気まずそうに眼を伏せられる。
問いただそうにも、この場で口を開くつもりはないらしい。シェヘラは違和感に首を傾げるばかりだ。
仕方なく、場所だけでも変えて連れ出そうと思い、シェヘラが口を開いた。
「ねえリ――――」
その時だった。
「なあ、おい! 見ろよ!」
絶えず機械の残骸が降ってくる筈の〈工場の木〉から、廃棄物の投下が止まった。
途端、絶えずガラガラと鳴り響いていた音が止み、積みあがったものが崩れる音も、〈工場の木〉の胎に響いている唸り声さえもぴたりと止まった。当たり前のように音を立てていたものが静まるだけで、異様なくらいに静かに感じてしまう程だった。




