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〈13-1〉

 

 人気の少ないカラカスの中でも、〈工場の木〉の膝元にあるその場所は、歓楽街と同じか、それ以上の賑わいがいつでもある。


 堆積した鉄屑や、鉄屑が粉になった灰のようなさらさらと枯れ果てた砂は、一体どれほどの深さまで続いていると言うのだろうか。この場所で働き続ける男たちが、毎日毎日飽きる事なく大掛かりな重機で掘り起こしているにも関わらず、相も変わらず底辺にたどり着いた事はない。


 本日もまた、鉄屑もろとも掘り出された物は採掘所の外へと運ばれる。最下層の発掘場から、リフトとベルトコンベアをいくつも乗り継いでやっと広場に引き上げられる。広場では、待ち構えている大勢の作業員によって仕分けされ、相応の場所へと収められていく。

 彼らが皆、汗水垂らしながら熱心に与えられた持ち場に励んでいるのかと言うと、そうでもない。採掘所に面した通りでひと時の休息を取るものもいるが、採掘所にほど近い、〈工場の木〉からの廃棄物が蓄えられている影に隠れて、怠惰な時間を過ごす者たちも少数ながらいる。


 これほど多くの者が入り乱れていれば、一握りの者が隠れていたとしても、気が付かれる訳がないと高を括っているのだ。故に、物陰が多く、人目に付きにくいのを良いことに、怠惰な者ほどそこに集う。辺りは常に、降ってくる粗悪な機械にガラガラと言う音が絶えないから、おしぇべりに興じていても、気がつかれにくいのだ。

 投棄されたごみ山では、人の影も多かった。〈工場の木〉に早い段階で見限られた代物に価値を見出し、ゴミを漁るものがいるせいだ。


 そんな姿達からも視線を避けるように、男たちは隠れて怠惰な時間を過ごしていた。

「シェヘラ、そろそろむくれるのも終わりにしようぜ?」

「……だって」

 廃棄された機械に腰かけ、膝についた肘に顎を乗せていたロドは、深く溜息をこぼした。溜息と共に吐き出された煙は、足元に置かれたランプの光を受けながら身をくねらせて、やがて埃臭い空気に溶けて消えた。

 同じようにサボりを決め込んでいた採掘所で働く、小汚い三人の屈強な男たちは、シェヘラの様子にケラケラと笑う。

「なんだ、まーた喧嘩やってんのか」

「どうだシェヘラ! おじさんが慰めてやろうか!」

「よせよせ、てめえ相手じゃシェヘラが気の毒だ。釣り合わねえって」

 昔から知る彼らの軽口も慣れたもので、シェヘラはさっぱり聞こえないフリをして受け流す。中年を越えた男は、仲間の言葉にばしりと自分の膝を叩いていた。

「かーっ! 言いやがるな! てめえにだっておんなじこと言えるだろ」

「はは! 違いねえ! それに、慰めるならリウミュの方が、さぞかし華麗に腰降って踊ってくれることだろうよ」

「俺の上で、ってか!」

「ハッ! 生言うんじゃねえよなあ。てめえのはとっくにしょぼついて立たなくなってんの、オレァ知ってるんだぞ」

「あ? 俺がいつ不能になったって? 今でも現役よ?」

 より一層盛り上がる男たちに、ロドはやれやれと溜息をこぼした。

「おいバカ共、その辺にしておかないと――――」

 シェヘラの不満さえも笑いの種に変えてどっと盛り上がる姿たちを、余計に不貞腐れた姿が睨みつける。

「……おじさん達、お姉ちゃんに手を出したら、その伸びきった鼻に火のついたタバコねじ込むよ」

 ぽそりとシェヘラが呟き凄んでも、たばこの煙に酔ったように笑う男たちが反省する訳がない。

「うひょっ、そいつは恐ろしいな!」

「可愛い女の子に突っ込まれるなんて名誉じゃねえか。だっはっは!」

「おいおい、突っ込まれるより突っ込む方がいいに決まってるだろ?」

「まーあれだ、シェヘラ。喧嘩の時は気に食わねえだろうけどよ、結局お前、ねーちゃんは大切にするに越した事ねえぞ?」

「おっ! お前、クズのくせに良い事言うなあ!」

「クズはどっちだボケナス。てめえも同じ穴の貉だっ」

「冗談きついぜ。へへへ」

 下世話な話も彼らにとってはほんの軽口に過ぎないのだと、解っていてもシェヘラは深く溜息をこぼした。ロドのお蔭で気まずい場所から離れられた事に感謝しても、彼らのお喋りには毎度の事ながらうんざりしてしまう。


 そんな事よりも、つい姉に叫んでしまったどうしようもない言葉の撤回を如何したものかという事や、目先に聳える建物に連れていかれた筈の姿の事が気になって仕方がなかった。溜息と共に、酷く肩を落とす。

「私だって、別にお姉ちゃんに本気であんな事言いたかった訳じゃないもん」

「解ってるよ」

 先程まで管を巻いていただらしない姿が嘘のように、ロドは優しく頷いた。未だにゲラゲラと笑い転げている男たちを前にして、すっかり酔いも覚めたせいかもしれない。

 

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