表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/55

〈12-1〉

 

 背中にあった筈の感触が消える。大量に廃棄された機械と共に、自分が放り出されたのだと否応なしに理解した。

 それと同時に、目の前の景色が急速に狭くなっていくような気がした。暗くなった視界に映り込むのは、かつて自分が見た景色と同じものなのだと嫌でも思い知る。


 『いつもの場所』に強制的に戻されたのかと、咄嗟の考えに嫌気がさしたのは最早仕方がない。


 〈工場の木〉の技工士たちの働く場所。

 それがリズにとってのいつもの場所だった。


 バラバラに流れてくる部品を素早く決まった場所に嵌めこみ、ベルトコンベアに乗せ、流れ作業に任せてしまう。時には部品を生産する機械の整備を行う事もあったが、常に見える景色は、流れてくる部品の隣だ。部品はどんどん組み立てられて行くというのに、形の解らない焦燥が、自分の中にだんだんと募るのが解った。

 手元にいくつも置かれた明かりによって、暗さは全く感じないというのに、集中して作業すればするほど段々と視界が狭まり、目の前のモノが色あせて見えていくのが、次第に恐ろしく思えた。


 ふと顔を上げると、自分と同じように手元へ視線を落として、黙々と作業台に向かい続ける人たちがいる。

 誰もかれも無駄口を叩かず、手早くこなしていく様は、機械顔負けと言っても過言ではない。時折、修理に呼ばれた技工士の内の誰かが、簡潔な返事と共に去っていく以外に、目立った動きは皆無だ。


 そんな代り映えのない景色の中、時々顔を上げて辺りを見回して、理由の解らない息苦しさに悩まされる日々が続いていた。

 淡々と。ただひたすら淡々とした味気のない作業をこなし、配給される食事を取り、与えられた部屋で眠る。またあくる日も、配給品を食べ、作業台に向かい、機械を直して、そして眠る。


 繰り返される当たり前の日常が、いつしか息をするのも難しい程に、苦しいものへと変わり果てた。喉の奥に、飲み込むことも吐き出す事も出来ない、粘着質な味気ない塊が、常につっかえているような気さえしていた。あるいは腹の真ん中を、誰かが握りしめてねじ切ろうとしているような痛みを伴い始めた。

 その痛みを自覚した途端に、どうしようもなく叫び出しそうになった。だがその瞬間に、いつもハッとする。自分は今、何をしようとしていたのだろうかと我に返り、また思い出したように単調な作業に戻るのだ。その一瞬だけは、つい先ほどまで迫り来ていた痛みさえもどこかに消え失せ、忘れられた。


 だが、そんな言葉に出来ない焦りも日増しに酷くなる一方で、一日に何度となく痛みと吐き気を感じるようになった。叫ばなかったのは、一重に周りに人がいたせいだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ