〈12-1〉
背中にあった筈の感触が消える。大量に廃棄された機械と共に、自分が放り出されたのだと否応なしに理解した。
それと同時に、目の前の景色が急速に狭くなっていくような気がした。暗くなった視界に映り込むのは、かつて自分が見た景色と同じものなのだと嫌でも思い知る。
『いつもの場所』に強制的に戻されたのかと、咄嗟の考えに嫌気がさしたのは最早仕方がない。
〈工場の木〉の技工士たちの働く場所。
それがリズにとってのいつもの場所だった。
バラバラに流れてくる部品を素早く決まった場所に嵌めこみ、ベルトコンベアに乗せ、流れ作業に任せてしまう。時には部品を生産する機械の整備を行う事もあったが、常に見える景色は、流れてくる部品の隣だ。部品はどんどん組み立てられて行くというのに、形の解らない焦燥が、自分の中にだんだんと募るのが解った。
手元にいくつも置かれた明かりによって、暗さは全く感じないというのに、集中して作業すればするほど段々と視界が狭まり、目の前のモノが色あせて見えていくのが、次第に恐ろしく思えた。
ふと顔を上げると、自分と同じように手元へ視線を落として、黙々と作業台に向かい続ける人たちがいる。
誰もかれも無駄口を叩かず、手早くこなしていく様は、機械顔負けと言っても過言ではない。時折、修理に呼ばれた技工士の内の誰かが、簡潔な返事と共に去っていく以外に、目立った動きは皆無だ。
そんな代り映えのない景色の中、時々顔を上げて辺りを見回して、理由の解らない息苦しさに悩まされる日々が続いていた。
淡々と。ただひたすら淡々とした味気のない作業をこなし、配給される食事を取り、与えられた部屋で眠る。またあくる日も、配給品を食べ、作業台に向かい、機械を直して、そして眠る。
繰り返される当たり前の日常が、いつしか息をするのも難しい程に、苦しいものへと変わり果てた。喉の奥に、飲み込むことも吐き出す事も出来ない、粘着質な味気ない塊が、常につっかえているような気さえしていた。あるいは腹の真ん中を、誰かが握りしめてねじ切ろうとしているような痛みを伴い始めた。
その痛みを自覚した途端に、どうしようもなく叫び出しそうになった。だがその瞬間に、いつもハッとする。自分は今、何をしようとしていたのだろうかと我に返り、また思い出したように単調な作業に戻るのだ。その一瞬だけは、つい先ほどまで迫り来ていた痛みさえもどこかに消え失せ、忘れられた。
だが、そんな言葉に出来ない焦りも日増しに酷くなる一方で、一日に何度となく痛みと吐き気を感じるようになった。叫ばなかったのは、一重に周りに人がいたせいだ。




