〈10-5〉
濃紺のマントを身に纏い、口元を襟巻きで覆い、表情を隠していた。肩で揃えられた白銀の頭髪のせいで老人かと思われたが、表情を見ればまだ彼が若いのだと理解する。それは、爛々と睨み付ける鋭い碧眼からもよく解った。
すっぽりと足元まで届くマントの下からは、細身に見えるシルエットと比べて、違和感を覚えてしまうくらいに武骨な機械がのぞいている。そこで漸く、彼の足は野良の機械に食われているのだと気がつく。ちらりと覗き見た指先も人のものではなかった事から、恐らく腕も彼のものではないのだろう。
しゃがみ込んで跪く姿からは、高いとことから降りた衝撃を弱める為に膝をついたと見えなくもない。武骨な見た目に反して、音も重さも感じさせなかった身のこなしに、実際の所、彼がどれ程の高さから現れたのかリズには知る術はなかった。
「見ての通り。彼のような被害者にね、手を貸して欲しいのさ」
さも簡単な事のように告げるクロアに、リズは眉を顰めた。「被害者? この街に一体どれほど同じような奴がいると思っているんだ」
俺一人が出来る事なんて大した物量じゃない。そう主張するが、クロアは大丈夫だと言うばっかりだ。
「僕が君に手を貸してやって欲しいと頼むのは、僕の拾い子たちだけだよ」
「あんたの偽善に付き合えって事か」
自分勝手にも聞こえる理由に呆れていたら、「違うよ」 ときっぱり言われた。はっきりとした物言いが珍しくてまじまじと伺うと、クロアはくしゃりと笑っていた。
「前任がね、そこらで捕まえて来た野良の機械と、手足を落とした彼を同じ部屋に閉じ込めて、野良の機械を実験した。イードはこの工場の実験施設で、無理やり奪われたのさ。それまで当たり前に過ごせていた場所も、手足もそうやってみんな、ね」
リズは答えない。どうしても信じられなくて、隠されたマントの下を凝視してしまっていた。クロアはそんなリズを気にした様子もなく、先を紡ぐ。
「知ってるかい? 野良の機械にはたった一つ、プログラムされている事があるんだ。『人の役に立つ機械になる事』。そのプログラムに従った結果が、野良の機械を動かしている。全てはジアーズの発展のため、目的を得た機械のデータを取る為だけに奪われて、そして捨てられた。……実験した動物を無闇に生き長らえさせても、実験の後遺症に苦しんで、可哀想なだけだから、ならばいっそその命を絶ってやるのが優しさなんだって言われたら、君は思う?」
再び尋ねられても、リズに答えられる筈がないのだ。黙りを決め込むリズに、クロアはまた肩を竦める。
「今でこそは、この重たい野良の機械は彼に馴染んでいるけれど、それでも負担がかかっている事には違いない。僕はね、少しでもこの〈木〉が生み出した歪んだ産物たちを、出来る限り守ってあげたいだけなのさ」
その為ならば、どんな手段だって使う。
はっきりと告げた様子は、それが自分の成すべき事だと定めているのだと解った。理解はしても、リズの動悸が収まる気配はない。
むしろ時間と共に悪化し、足元からぐらぐら揺れているかのように焦点が定まりそうもなかった。




