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〈10-3〉

 

「閉じた世界、箱の庭。箱の中で生産されて、同じ庭の中で消費していく場所なのさ。だから、植物なんてものは、そもそもこの地にあってはならない代物なんだよ。各地の街に人を集めるために生産して、この地下の街で人は飢える心配もなく、この地下の中で適度に資源を回収して、そして地下と言う箱の中で資源を完結させる。そういう場所がこの街なんだよ。最も、単調すぎる箱庭は飽きやすいからね、ただ配給の恩恵にあずかれる人ばかりじゃないのが現状だけどさ」

 もはやリズには答える元気も、話を聞いている余裕なんてものはなかった。じっとりと背中を伝う脂汗が気持ち悪い。まるで溶鉱炉の側に立たされたかのように、額に汗を滲ませて、荒く肩で息をついた。

 そんな様子に漸く気が付いたのだろうか。クロアは困ったように眉を顰めた。

「それにしても、うーん……。君ならこんな風に考えた事あるんじゃないかって、少なくとも思っていたんだけどなあ。期待し過ぎていたのかな?」

 一人ごちた後に腕を解き、クロアはまた、首を傾ぐ。

「ねえ、リーズヘック。おかしいって、思わなかった? どれほど遺跡の縦穴から地下資源を掘っても掘っても、出てくるのは鉄屑ばっかり。確かに昔の産物もあるけれど、金属しかない場所で、どうして人が生きて行けているのだろうってさ? 〈木〉から配給される缶詰の中身が、一体どこから湧いてきてるのか、疑った事はなかったかい?」

 いくつも重ねられる問いかけに戸惑うも、止まっていた思考回路が、少しずつ回り出す。乾いた喉が貼りついてむせそうになりながらも、リズは掠れる声で尋ねた。

「中身……って……?」

「気になる?」

 だがやっとの思いで尋ねたのに対して、にやっと口元を綻ばせた姿に良い予感はしない。先を聞きたくなくて首を振るリズに構った様子もなく、クロアは続けた。

「そうだなあ。さっき、テトラもジアも、同じ顔で驚かなかった? 生き物を『増やす』技術ってすごいよね。ああやって、外側だけなら全く同じに見えるものを作る事だって、今では可能なのだからさ。繁華街で子供が増えるよりもね、簡単に増やせてしまうんだよ?」

 全く、恐ろしいもんだよね? 悪戯っぽく笑われながらさらりと告げられた言葉の意味は、今度こそ理解できなかった。黙るリズの反応をどうとらえたのだろう。「ああ、勘違いしないで」 と、クロアは続けた。

「見た目はとてもよく似ているけれど、彼女達はちゃんとそれぞれが独立した個人だよ。面白い事に二人ともね、考え方はまるで違うんだ。そこだけはちゃんと間違えて欲しくないな。見分けはつかなくても、彼女たちの事はちゃんと個人として扱ってあげてよね?」

 言い聞かせるような調子のクロアは、あまりにも反応を示さないリズに呆れたのだろう。仕方なさそうに肩を落として息をつくと、遠くに視線を流した。


「それとも見てもらった方が納得しやすいかな、実験そのものをさ」

 ぽつりと呟かれた単語が不穏でしかなくて、リズは思わず息を詰めてしまう。

「ついておいでよ」

 ゆったりとした調子で片脇をすり抜けて行こうとする姿は、あくまで彼を自分の元に下る前提で話しているのだろう。このまま案内されるままについて行けば、引き返せないところまで連れていかれるような気がして、その背中を振り返って見送ろうとしてしまう。

「どうしたのさ。ここまで人の話を疑っておいて、物的な証拠を見せようとした途端に怖気づいてしまったのかい?」

「っ……実験って、一体何を企んでいるんだよ!」

「企んでいるなんて人聞きの悪いなあ」

 絞り出された反論に、クロアは心外だと、大袈裟なくらいに胸に手を当てた。

「こうやってこの場所は維持されているんだよって、教えてあげているだけじゃないか。人の為になるように助力して、事のついでに持ち前の技術を確かめているんだよ。ほら、何て言ったかな。君だって裏切り者の娘にさ、義手や義足を作っただろう? それと同じことさ」

「違う!」

 気が付けば、リズは叫び返してしまっていた。

「俺は、そんなつもりで作ったんじゃない! ただ……あいつの――――」

「そう? まあ何でもいいんだよ。理由なんてさ。でも、君ご自慢の腕を奮いたかったって事は違わないだろう? 誰かの為――――そう、君の場合は、君のお友達の娘の為のついでに、自分ならばここまで出来るんだぞって、少しも誇らしい気持ちにならなかった?」

 尋ねられても、即座に答える事が出来ない。そんなつもりで作ったんじゃないと言う思いと、心のどこかで見透かされた事への気まずさから、目の前の姿から視線を反らさせていた。

「そんな馬鹿な事……」

 漸く返したリズの言葉は、自分でも呆れてしまうくらいに何とも弱々しかった。

 もちろんそれは、クロアも重々理解している筈だ。だが、特別そこを指摘するような事をせずに、ひょいと肩を竦めただけだった。

「君の言うところは、全部僕の妄想で妄言だろうって? まあ、そうだね。そりゃ、君の心で何を思っているかは知らないさ」

 故に、そうだろう? と今度こそ確信めいて聞かれ、そっぽを向く事しか出来ない。沈黙を貫くことでクロアの言葉をやり過ごそうと思った故だ。

 

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