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〈10-2〉

 

「ねえ、リーズヘック。街には多くの人間がいるけれど、誰も彼も、与えられた程度の低い環境の中で生きる事を良しとしているよね。そんな中でも君はさ、自分だけは、ああなりたくない。現状に満足していたくない。そう思った事、あるだろう?」

 有無を問うものではない事に、リズは渋い表情を浮かべた。

 否定できないのは、正に考えた事があるせいだ。リズの反応に気を良くしたらしいクロアは、その考えを咎める事無く、むしろ嬉しそうににこにこと笑っていた。

「もちろんこの考えが少数派だって事は、君もよく解っているんだろう? 元々、違う次元に目を向ける者が、身の回りに居ないんだ。他人と違う事をする奴なんて、大多数が是とする立場からしてみれば、十分異端に見えるんだよね。ほら、満足している現状を自分から捨てて、向上するか低下するかも解らない泥沼に、わざわざ足を踏み入れるバカは居ないってのが、普通なんだからさ」

 リズは何も答えない。否、答えが解らなかった。乗る事も反る事も出来ないまま、つらつらとよどみなく告げられる言葉を、ただ聞かされるばかりだ。

「でも君は、そんな人たちしか居ない中でも、自分の求めているものを常に追い求めて探している。その行動力が、僕は欲しいと思ったんだよ」

 クロアもリズが、答えに困っている事はよく理解しているのだろう。それでも、ゴーグルに隠された表情を読もうとするかのように、すっと目を細めて手を差し伸べた。

「君が僕に力を貸してくれると言うならば、僕は君の求めているものを与えてあげるよ。どうだろう? 悪い話ではないだろう?」

 にっこりと笑いかけられて、漸くリズも理解した。間近に差し出された手を払いのけると、虚勢だろうが何だろうが鼻で笑い飛ばしてやった。

「……ハッ! 何を馬鹿な事を。お前に用意できる程度のものなんだったら、俺は初めから求めやしないさ。お前に俺の欲しいものは用意出来ない。断じてな。よって、断る」


 だがきっぱりと断っても、相手の余裕のある表情は崩れることがなかった。

「出来るとも」

 自信たっぷりに言い切られて、不安を拭えきれていないリズは黙る。この時を利用しない手はないと言わんばかりに、クロアは唇の端を吊り上げた。

「第一まず、君は大きな勘違いをしているよ」

「は? 勘違い?」

 詰め寄られた訳でも攻め込まれた訳でもないのに、始終笑みを浮かべるその姿から、リズは離れたかった。クロアはまるでそれはさせないと言わんばかりに、寄りかかっていた手すりから身体を起こす。

「カラカスは……いや、〈工場の木〉の足元に作られた街は、〈工場の木〉が人を支配するために作られた枠であって、それ以上でもそれ以下でもない。各地が点在しているのは、大きな街のままよりかは、いくつかに分断した方が管理しやすいからだ。だから、〈木〉の側以外で人が生活してしまわないように、生活の手段を根こそぎ奪った結果が今の街――――いいや、ジアーズの実体なんだよ」

「……何を言っているのか、よく解らないな」

 急激に口の中が乾いたのか、リズは掠れた声しか出せなかった。戸惑ってまた後退るリズに対し、クロアは腕を組むと顎に手を添え小首を傾げた。


「あれれ、買いかぶっていたかな? それとも単に理解したくないだけ? ここはどこもかしこも地下にあるのさ。地の国ジアーズ。そしてここカラカスは、中でも『上』が豊かであるように、ジアーズの中の循環型の施設として、あるいは技術の実験の場として造られた場所の一つに過ぎないんだよ」

「馬鹿な――――」

 淡々と続けられる言葉を聞くだけの事が苦しい。それでも容赦なくクロアは喋る。

 

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