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〈9-1〉

 

 かたかたと、箱馬車は軽快に道を行く。

 あちらこちらに建てられた街灯のお蔭で、忙しく行き交い、働く人々の様子がよく見えた。地下資源を得る為に、ずっと掘り続けて来た巨大な縦穴では、大型の機械を用いて、次から次へと鉄屑を掘り出していた。

 そんな街を見下ろすような黒々とした姿が、窓の向こう、立ち並ぶ建物の上から視界一杯に姿を現す。それだけで、リズは気持ちが重くなるのを感じた。

 お陰で車内の空気は、街中に溢れる毒を含んだ空気よりも、息苦しさを感じる程だ。


 一定の速度で走り続ける機械馬は、疲れる事を知らずに軽快に道を行く。沢山の者が働く景色はいつしか流れ、広大な敷地を仕切る、鉄門をくぐった。

 緩やかに停車すると、ずっと同じ空間にいながらにして、全く口を開かなかった黒衣の女が扉を開いた。

「どうぞこちらに」

 リズはちらと開けられた扉に一瞥をくれ、足元に目を落とした。

 ふと、溜息が溢れた。待ち受けているものを思うと気が重い。思わず、自分の上にのしかかってくるように錯覚してしまう、〈工場の木〉を胡乱に見上げた。

 憂鬱のせいだろうか。手袋に包んだ筈の指先が、段々と冷えてくる。


 箱馬車が停められた広場の端には、人だかりがあった。

 正規品になれなかった缶詰や、壊れたままの機械の部品が、廃棄所のように大量にばら撒かれていた。買う事を知らない飢えた者たちが、そこで我先にと拾い集めているのだ。

 そんな事をせずとも本来ならば、何かしらの従事を行うだけで、日々十分に食べていける筈なのにと、眉を顰めずにはいられない。

 リズはそれらを見なかったものとして、先を行く女の背中を追いかける。見上げても全貌の見えない〈工場の木〉に、飲み込まれるように錯覚した。


 入り口をくぐった〈工場の木〉の内部では、等間隔に設けられたスコンスに、煌々と明かりが灯されている。飾り気なんて物はない。

 石造りの壁に、どこからともなく機械の唸り声がいくつも響いて聞こえる。油圧をかけられたエンジンが億劫そうに機械を動かしているような、重たい音が絶え間なく響いていた。

 音に吊られて奥に視線を向けると、目的の解らない機械の塊が、右から左へと単調に流れていくのが見えた。その流れを両側から囲むようにして、俯く人々が、今正に作業している。


 作業に没頭している彼らに会話も活力もない。一見すると、単調に流れてくる機械に同調してしまっているかと思えてくるくらいに、彼らは同じ動きを繰り返している。

 彼らが何を熱心に組み立てているのか、知る由もない。余りにも同じ作業を淡々とこなしているから、いっそ彼ら自身も人間なのかと疑わしく見えた。


 そんな姿達から目線を上げていくと、広い空間に巨大な機械群が連なり、まるで建物の中で街並みを再現しているようだった。

 はるか頭上に聳える機械は、一体どこまで大きいのだろうか。足元を照らす明かりだけでは、伺う事は出来ない。見慣れた景色にリズは眉を顰め、思わず足を止めてしまう。

 すぐにそれに気が付いて振り返った彼女は鼻で笑った。

「どうしました? まさか、今更逃げ出したくなったんですか?」

「ハッ。まさか」

 リズ自身、自分でも笑ってしまいたくなる程に、安い虚勢だった。嫌でも思い出す景色を意図的に視界から追い出して、薄らと笑う女を睨みつける。

「あいつはどこにいるんだ。余計な事言っている暇があるなら早く連れて行け」

「ええ、もちろん」

 嗤笑を浮かべる姿は、明らかに優位に立てた事が嬉しいのだろう。壁際にひっそりと設けられているリフトの入り口を開けると、「さあどうぞ?」 と挑発するように告げてくる。

 気が付けば舌打ちしていた。

 

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