〈8-2〉
ベルの余韻が、あとに残された狭い店の中にもの寂しく響く。
「……はあ」
肩を落として崩れるようにふわりと椅子に座ったリウミュに、店主の男は苦笑した。
「あの言い方じゃ、喧嘩にしかならないって解ってただろうに」
「解ってるよヤヌスさん……。でもどうしても引き留めないとって思ったら、あんなこと言ってたの」
仕方ないじゃないと、崩れるように座り込み、カウンターに額をつける姿からは、舞台に立った時の堂々とした様子は微塵もない。珍しくも弱気になってまた溜息をこぼした姿に、ヤヌスは首を傾げた。
「何か気になる事でもあったのかい?」
「うん……」
あった事には違いないけど詳細は言えないのだろう。再びこぼした溜息が雄弁に語る。
不意にぱっと身体を起こした。腕の時計を確認して、かわいらしい顏で眉を顰める。
「ああ、もう行かなくちゃ」
椅子から降りて身を返すだけで、ふわりとショールと飾り紐が広がった。
店主はその紐がゆっくりと落ちる様を眺めて、ふと尋ねた。
「リウミュ、歌と踊りは楽しいかい?」
「ええ。……私、シェヘラが思っている程、嫌々踊っている訳じゃないもの」
「知っているよ。君の踊りは皆に元気を分け与え、君の柔らかな歌声は心地よい。それはシェヘラとて知っている筈さ。ただちょっと熱心に打ち込んでいるせいで、見えなくなっているだけさ」
そうだろう? と聞かれて、リウミュが答えるまでもなかった。困ったように眉を落として、口元をほころばせる。
「行ってきます」
凛とした声が告げた。扉へ向かうその後ろ姿からは、もう先程の様子は微塵も感じさせなかった。
「ああ、いってらっしゃい」
ベルは、小さく鳴った。




