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〈6-1〉

 

 雑多な部屋にもう一つだけあった扉をくぐると、そこには鉄製の室内階段がひっそりとあった。

 恐らく使っている者はほとんどないのだろう。明り取りの窓が踊り場を照らしている以外は薄暗く、手元の明かりがないと、足取りも不確かなほどだ。二つ分の足音を響かせながら、シェヘラを先頭に黙々と登っていた。ややあって、階段の上にたどり着く。

 扉が押し開けられて、差し込んで来た赤い光にリズは目を細めた。同時に、下から吹き抜けて来た風が柔らかく頬を撫でて、外へとすり抜けていく。

 漸く目が馴染んで見えて来た景色に、扉の先が屋外だったことを知る。

 跳ねるように扉の向こうに駆けた姿が得意げに振り返った。

「ここが、私のとっておきだよ」

 回廊内で響いたシェへラの声も、扉の向こう側に抜けて空気になじむようにして消える。今からリズの反応が楽しみだと言わんばかりに、含んだ声が笑う。


 そこは、建物の半分にも満たない広さの、屋上だった。

 狭い屋上には、腕に抱える程度の箱が、いくつもいくつも並べられていた。周囲の建物から、この屋上が見えてしまわないように、目隠しの衝立が四方に立てられている。

 その囲いの中で、いくつもの箱が綺麗に並べられていて、作業の道を作っていた。

 箱が並んでいるだけならば、ただ歩く場所を限るだけの仕切りでしかなかっただろう。だがその中に、先程の部屋の片隅に捨てられていた、土と同じものが詰められていれば、あるいはその中で、芽を出している姿を見つけてしまえば、言葉を失うのに十分だった。

 並べられた鉢植えは、恐らく時期をずらして順番に植えているのだろう。手前の鉢には土しか入っていないように見えたが、奥に目線を動かしていくにつれ、そこからだんだんと伸びていくシルエットに目が留まった。


 手を大きく広げた時のように、五つ程に深く裂けた葉の淵は、ギザギザとした鋭利な刃物に見間違う。ひざ丈にも満たないが、互生にわさわさと葉をつけたその姿は、赤い月明かりの中でも、懸命に生き抜こうとする力強さを感じずにはいられなかった。

 リズが思わず近寄ってまじまじと見てみると、茎にはうっすらと産毛が見えた。同時に鼻にすっと通って、心地よさを感じる匂いがした。

「これは……」

 ぽろりと口を突いて出て来た言葉に、シェヘラは微かに笑った。

「その辺は、大体半年前くらいから育ててたやつかな」

 なんて事でもないと言わんばかりのシェヘラの様子に、リズは返す言葉を持たなかった。それほどまでに驚かされてしまったせいでもある。

「こんなもの、よく生きたまま育てられているな……!」

 リズの様子に気を良くしたシェヘラは隣に来ると得意げに胸を張った。

「すごいでしょ。父さんが〈工場の木〉の中で見つけたんだってさ」

 リズには信じられなくて、隣を伺う。

「〈工場の木〉に、これが?! そんなところで……?」

「うん。一年くらいしか保たないんだけど、でもちゃんと、ここで生きているんだよ。ジアーズだって、鉄屑ばっかりじゃないんだよ」

 シェヘラの得意げな声に、どこか都合のいい幻でも目の前にしているのではないかと、思わずにはいられなかった。

「ああ……やっぱり緑の場所はどこかに……」

 リズの譫言は、心のどこかで半信半疑に思っていた思いを決意に返る。決意は心を満たした気がした。

 

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