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「相談」

 ──前略。


 お元気ですか? わたしは元気です。


 セフィリアさんに〈木材屋〉に連れて行ってもらってヒマリちゃんと、あ、昨日話した〈木材屋〉で出会った女の子のことです。その子と勝負をして気合も入ったし、今日もお仕事に修行に接客に、それからそれから……とにかくいろいろと頑張っていこうと思います!


 そういえば『なにかあったら相談しなさい』ってヒカリちゃんとヒーナちゃんがメモで伝えてくれました。


 さっそく大会のことについてちょっと相談に乗ってもらおうかな〜?


 でも二人とも修行とかで忙しいだろうし、タイミングが合ったときにでも相談してみようかな?


 迷惑じゃないといいんだけど……。


 それでは、またメールしますね。


 草々。


 森井(もりい)(ひとみ)──3023.10.21




   ***




 本日も木工品取扱店〈ヌヌ工房〉は元気にのんびり営業中。元気いっぱいに、のんびりしているのです。なにもおかしなことはありません。


 ──かろかろかろん。


〈ヌヌ工房〉のドアが鳴きました。お客さんがやってきた合図です。


「いらっしゃいませー!」


 焦げ茶の髪を寝癖なのか癖っ毛なのか、花火のように四方八方に跳ねさせた女の子、瞳がクリクリの目を輝かせた満点の笑顔でお客さんをお出迎えします。


 と、思ったのですが。


「やっほー、瞳」

「遊びに来たッス!」

「ヒカリちゃんヒーナちゃん! いらっしゃい~!」


 そこへやってきたのはお客さんではなく、瞳のお友達の火華裡(ひかり)とヒーナでした。


 水色の髪を側頭部で輪っかに結った女の子が火華裡で、金髪のお人形さんのような少女がヒーナです。


 体当たりをする勢いでヒーナは瞳に抱き着いては大きく息を吸って「今日もいい香りッス……」と落ち着いていました。これはいつものことです。ついついサラサラの金髪を撫でてしまうのもいつものことです。


「二人ともちょうどいいところに来てくれました~!」

「ちょうどいいところに? どうしたのよ急に」


 瞳がお出迎えしたとき以上の満面の笑みで言うものですから、火華裡は怪しみます。


 それとは逆にヒーナはハッとしたように大きく口を開けました。


「は?! もしかして瞳さん、ヒーナたちになにかご相談があるッスか?!」

「その通り~! どうしてわかったの~?」

「そりゃヌヌ店長に伝言頼んだからでしょ」

「お~、ヒカリちゃん正解~!」

「ま、当然ね」


 瞳はパチパチと手を鳴らし、火華裡は嬉しそうに控えめな胸を張りました。


 別々に伝言を残していったはずですが、二人して瞳に伝言を残していたのはすでに知っているようです。


 いまはお客さんもいませんし、せっかく遊びに来てくれたのですから休憩スペースへ案内しまして、三人は腰を落ち着けました。


 もちろん、その前にお茶を用意するのも忘れません。


「それでそれで? 相談ってなんッスか?」


 じゃっかん興奮気味に身を乗り出しながらヒーナが聞きます。


 どうして興奮気味なのかといいますと、ついに瞳から恋の相談が聞けると思っているからです。


 ところがどっこい、そんなことはありませんでした。


「実は木工大会に参加することになったんだけど、ちょっと相談に乗ってほしくて~」

「……なんて?」


 想像とは全く違う答えが返ってきてポカーンとしている火華裡とヒーナ。


「だから、木工大会に参加することになって~、それについてちょっと相談に乗ってほしいって」


 改めて返事を聞いて、聞き間違いではないことを確認した火華裡とヒーナは額を寄せ合ってコソコソと話し合います。


(恋の相談じゃなかったッスね……残念ッス)

(瞳らしいっちゃらしいけど、ここまで鈍感だとあの人が可哀そうになってくるわね……)


 銀髪の爽やかイケメンも二人の脳内では困ったような表情を浮かべていました。


 ですが、それはそれとして瞳の相談事という『木工大会』についても気になりました。


「やっぱり木工は専門外だから迷惑だったかな~? ごめんね~……?」


 笑顔に困り眉を浮かべて瞳は「あはは」と笑います。


「そ、そんなこと無いッスよ! ねぇ火華裡さん?」

「そうよ! 木工大会って言ったらユグードでは結構有名な大会だからね、あたしも見に行ったことあるわ。セフィリアさんを応援しに。そういえばセフィリアさんは?」


 天使のような笑顔が標準装備されているセフィリアの姿は見当たりません。


「木工大会の打ち合わせがあるんだって。今回は審査員として参加するんだよ~」

「審査員?! 凄いじゃないの、さすがセフィリアさんだわ!」

「木工大会の審査員といえば、かなりの実力者として認められた人じゃないと務まらないって聞いたッスよ!」

「そうなんだ~! やっぱりセフィリアさんはすごいな~、えへへ……」

「なんであんたが嬉しそうなのよ」


 瞳はまるで自分のことのように喜んでほっぺたを緩めて、火華裡は呆れたようにため息をつきました。


「でもちょっと納得したわ。それであたし達に相談しようって思ったわけね」


 木工大会のことならば一番詳しそうなセフィリアに相談すればいいじゃないかと火華裡は思いましたが、本人が関係者ならば聞きづらいのも頷けました。


「なるべく事前にどんな感じか知っておきたくて~」

「瞳はユグードでのイベントは全部初めてだものね」

「心の準備は大切ッス」


 うんうんと三人して頷きます。


「とは言っても、見たり聞いたりしたことしか教えられないわよ? それでもいいなら」

「もちろんだよ~! ありがとう~!」

「ちょ、ちょっとくっつかないでよ!」

「あ! 火華裡さんズルいッス! ヒーナもまぜてほしいッス!」

「なんでヒーナまでこっちにくっつくのよ?! 暑いから離れなさいよー!」


 と、文句を言いますが、無理に引き剥がすようなことはしない火華裡だったのでした。




   ***




 ──前略。


 お元気ですか? わたしは元気です。


 さっそくヒカリちゃんとヒーナちゃんに木工大会の相談に乗ってもらいました。たまたま二人して遊びに来てくれたのでちょうど良かったです。相談を持ちかけたときに二人してコソコソなにか話してたんだけど、なに話してたんだろ?


 木工大会はユグードでは結構大きな大会で、それはそれはお祭り騒ぎのようになるそうです。


 選手も観客も、たくさんの人が集まるそうで、想像するだけで今から緊張しちゃいますね。


 本番では余計な緊張をしないように、今のうちにたくさん緊張しておこうかな? そうすれば本番の頃には緊張に慣れてるかもしれませんよね?


 うぅ……今日眠れるかな?


 どうか、本番の成功を祈っていてください。


 それでは、おやすみなさい。


 草々。


 森井瞳──3023.10.23

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