「実技」
「次の勝負は──実技よ!」
「むむ! 実技とな?!」
目利きは初めての挑戦だったので及び腰になってしまいましたが、実技であればいつも〈ヌヌ工房〉でやっていることの範疇です。
これなら瞳も自信を持って挑めるでしょう。
ヒマリはオレンジのショートヘアーをかき上げてから、相変わらずの勢いの良さでズビシ! と瞳のことを指差しました。
瞳はビックリしてビクッと肩を跳ねさせます。
「もちろん公平を期すために、今回はウチも参加するわ!」
今度は突きつけていた指を自分の胸に当てました。バシンと音が鳴りました。痛くないのでしょうか?
動きがいちいち機敏です。テキパキと動くあの火華裡以上かもしれません。
「内容は〝釘打ち対決〟なんてどうかしら!」
「釘打ち対決?」
瞳は首を傾げました。
読んで字の如く、釘を打つ対決なのでしょうが、具体的な内容が見えませんでした。
「やることはシンプルよ! どれだけ早く、正確に釘を打てるか! 審査員はセフィリアさんとうちの人たちにお願いしましょう!」
それ以外に審査員をやってくれそうな人はいないのですが。
セフィリアも、〈木材屋〉の人たちも快くオーケーしてくれました。
しかしこのままだとお仕事の邪魔になってしまうので場所を外に移しまして、いざ勝負の時間です。
「雪ちゃん持ってくればよかった……」
最近ようやく手に入れた瞳専用の金槌『宝雪』が手元に無いことを悔やむ瞳でしたが、無いものは無いと切り替えるしかありません。今さら取りに戻っている時間もありませんから。
ヒマリは裏手にある小さな倉庫へと瞳を案内しました。
「道具はここにあるものを好きに使っていいわ!」
ズラリと並べられる金槌の数々。どれもこれも予備のものではありますが、いつでも使えるように手入れは行き届いていますし、様々な人が働いていますから、種類も豊富です。
同年代のヒマリもいますし、瞳のような非力な女の子でも扱えるものが中にはあるでしょう。
瞳は端から端まで目を通して、ちょうど良さそうなサイズ感のものを手に取っては軽く振って感触を確かめます。
「わたしはこれにします〜」
「本当にそれでいいのかしら?」
「えっ」
横から真剣な表情で覗き込みながらヒマリが言いました。
まさか目利きの勝負の続きでこの道具にもなにかあるのかと一瞬身構えた瞳でしたが、すぐに「冗談よ」と言ってニッと笑いました。
「じゃあウチはこれにするわ」
「ヒマリちゃんは自分の道具があるんじゃ?」
「それじゃ『公平を期す』とは言わないわ! そんなの神が許してもウチが許さないわ! セフィリアさんが許してくれたら自分の道具使うけど!」
ヒマリの中では神よりもセフィリアのほうが上位の存在として君臨しているようです。
その神が、天上の微笑みを湛えて言いました。
「ふふふ、ダーメ♪」
「ですよね!!」
若干喰い気味にヒマリは絶叫しました。
耳元でいきなり叫ばれてキーンと耳鳴りがする中で、2人は自分で選んだ金槌を手にポジションに着きます。
「本番ではもっと多いんだけど、今回はとりあえず10本でいくわよ!」
2人の目の前には釘を打ち込むポイントに印がつけられた角材。
左手に釘、右手に金槌を構えて開始の合図を待ちます。
「5、4、3、2、1──」
〈木材屋〉の人がストップウォッチを片手に、鋭く息を吸いました。
「──スタートッッッッ!!」
開始の合図と同時に動き出したのはヒマリでした。
トッ、ガン! トッ、ガン! トッ、ガン! と素早く鋭く、たったの2発で釘が頭のてっぺんまで角材に埋まっていきます。
1発目で軽く打ち込み、添えていた左手をどけて2発目で釘の姿が消えたのかと錯覚するほどの鋭い打ち込みを見せます。
瞳は自分の釘を打ち込むことも忘れて、あんぐりと口を開けたままその早業を見つめることしかできませんでした。
「はい!!!!」
ヒマリが10本全ての釘を打ち終えた瞬間〈木材屋〉の人がストップウォッチを止めました。
「9,21!」
「ぐぁー! どうしても9秒のラインが切れないわねもう!」
頭を抱えてこれ以上ないくらいに悔しがるヒマリ。どうやら何度も挑戦しているようです。
「って、モリイヒトミ! あなた全然打ってないじゃない! やる気あるの?!」
「あ、しまった〜?! 思わず見とれちゃってました!」
「許す!」
許されました。
「けどこれじゃ勝負にならないわ。もしかしてこれもやったことないの?」
ヒマリは呆れたように腰に手を当てました。瞳はこれに頷きます。
「釘を打ったことはありますけど、まさかそんな早業を求められるとは思ってなかったんですよ〜!」
〈ヌヌ工房〉では釘を打つ機会はありましたが、こんな打ち方をしたことは1度もありません。打ち方を教えてくれたのはもちろんセフィリアですが、そのセフィリアでもこんな打ち方をしているところは見たことがありませんでした。
〈ヌヌ工房〉の作品には必要のない技術ですので、あえて教えなかったのでしょう。瞳には釘の早打ちよりも優先すべき技能がたんまりとありましたから。
ですが大会に出場することになり、そのシワ寄せがきてしまいました。大会本番前にそのシワを少しでも伸ばしておこうと、セフィリアは瞳を〈木工屋〉へ連れてきたのかもしれません。
「しょうがないわね! このままじゃ勝負にならないから少しだけコツを教えてあげるわ! 感謝なさい!!」
「ほんと〜? ありがと〜!」
なんとヒマリは大会では敵になるであろう瞳に大量の塩を送ってくれました。
単純な瞳は素直に喜びお礼を言うと、ギュリン!! と首が外れるんじゃないかと心配になってしまいそうになるほどの勢いでヒマリはそっぽを向きました。
「勘違いしないことねモリイヒトミ! このままじゃ張り合いがないから仕方なく教えてあげるだけなんだから! とっととウチのライバルとして肩を並べられるくらいになりなさい! 今すぐに覚醒しろ!」
中々に無茶なことを猛烈な勢いでまくし立てながら、恥ずかしさを誤魔化すためか釘をゴスンゴスンと打ち付けています。
このペースならもしかしらた9秒のラインを切れるかもしれません。それほどのスピードでした。
「こんな感じで1発目は軽く打って、放しても倒れなければそれでいいわ! 2発目は本気でぶち込みなさい! 頭が出てたら減点よ!」
「凹みすぎてても減点だけどね♪」
「つまりそこら辺はいい感じに加減しろってことね! さすがセフィリアさん! わかっていらっしゃる!」
セフィリアの補足に全力で乗っかって瞳に指を突きつけるヒマリ。なんかもう動きが激しすぎて服装も髪の毛も乱れに乱れてしまっていますが、それが彼女の自然体なんだと思えるくらいには、見慣れてしまいました。
「ちなみにヒマリちゃん」
「はい!!」
セフィリアに名前を呼ばれてお箸のように真っ直ぐな姿勢になりました。
「確かに手際は素晴らしかったけど、これだとあまり得点は伸びないから気をつけましょうね♪」
「ですよね!!」
またもや食い気味に大音量で同意するヒマリ。本当にわかっているのか疑問は残りますが、これだけセフィリアのことを慕っているのであれば、きっと耳には入っていることでしょう。
「さ、もうやることはわかったでしょ! 第2回戦といくわよ!!」
「……あい!」
瞳は気持ちも新たに気合を入れました。
これと同じことを大会でもやるのであれば、ここで少しでも練習していくのは悪いことではありません。
2人は再び釘と金槌をその手に持ち、〈木材屋〉の人とセフィリアの視線のある中で、角材と向き合いました。
「──スタートッッッッ!」
改めて、開始の合図が鋭くユグードの森に響き渡りましたとさ。




