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「〈木工屋〉で勝負?」

 目の前には、切り倒された丸太や角材がまるで城壁のように積み上げられている光景が広がっていました。


「ここって……前にも来たことあるところですよね〜?」


 瞳はこの光景に見覚えがありました。


 確か木粘土を作るべく、集めた木屑を木粉(もくふん)へと変えてもらったときに機材を借りたところです。

 あのときは持ち運ぶのが大変だったのでよく覚えています。


「ええそうよ。木屑が溜まったら、またここにきて木粘土作りましょう♪」

「あい〜!」


 コネコネして好きな形にするのはとっても楽しかったので、瞳は元気よく返事をしました。


 木粘土で作った作品はとっくに売り切れてしまっているので、それを補充する意味でも大賛成です。木粉が溜まらないと商品を補充する事ができないので、それがいつになるかはわかりません。


 セフィリアは一歩前に出るとくるりと回って瞳の正面に立ちました。手を広げ、この場所全体を示します。


「そういえば瞳ちゃんにはまだちゃんと紹介してなかったわよね。ここは〈木材屋〉。ある意味〈鍛冶屋〉と同等かそれ以上にお世話になっているところよ♪」


 確かに、ここにいる二人は木工品取扱店〈ヌヌ工房〉の従業員です。道具を手に、日頃から木材と向き合っていますから、とても深い繋がりがあるお店でした。


「おほ〜……」


 感嘆の吐息を漏らしながら、瞳は改めて〈木材屋〉の全景を眺めました。


 ユグードの森の家々はもともとあった木をくり抜いて作られているため外見がそっくりなので、看板などを活用してわかりやすくしてあるのですが、ここはその必要がないくらいの特徴がありました。


 どうしてか葉が緑色ではなく、青色に染まっていたからです。これはわかりやすい目印です。

 おまけに〈木材屋〉さんの幹の横っ腹は大きくくり抜かれ、そこからドドーンと細長い角材がはみ出しまくっています。

 そのはみ出した角材は、中に飲み込まれるように段々と短くなっていくではありませんか。


 角材のままでもいいのですが、そのままだと例えば〈ヌヌ工房〉の商品としては使いづらいので、木工用にどんどん先端のほうから加工をしていっているため、短くなっているようです。


 中からは、機械の音がけたたましく響いていました。

 本日ここを訪れたのにはもちろん理由があります。


「瞳ちゃん、『大会でどんなことをやるんですか?』って聞いたわね?」

「あい。そのときは教えてくれませんでしたけど〜」


 なぜかはぐらかさせてしまい、いまも瞳は大会でなにをやるのか詳しく知りません。


「まだ詳細を話すつもりはないんだけれど、こればっかりは話しておかないとって思ってね♪」


 ひとまず「お邪魔させてもらいましょうか♪」と先を歩き始めたセフィリアの後に続いて、〈木材屋〉の中に入りました。


「おうふ」


 途端に鼻を突いてきた強烈すぎる木の香りに、瞳は思わず声が出てしまいました。

〈ヌヌ工房〉で嗅ぎ慣れている香りではありましたが、その比ではありませんでした。


 チェーンソーや丸ノコの駆動音も唸りを上げていて、大声で話さないとなにを言っているのか聞き取れません。


 やってきたセフィリアを見て、〈木材屋〉さんの人たちは驚いています。


「セフィリアさん?! え?! セフィリアさん?! ええ?! どうして?! なんで?!」


 予想外の、そして予定外の訪問客が突然訪れて、〈木材屋〉は騒然としました。

 中でも特に強い反応を示していたのは、瞳とそう歳の変わらない女の子でした。


 オレンジの前髪をぴゅるんと跳ねさせ、目元の泣きぼくろとぷるんとした唇が印象的。

 かなり目立つ特徴なので、前に来たときはいなかったと断言できます。なにより瞳が、こんな場所で出会う同年代の女の子を見逃すはずがありません。


 お友達になれないかと画策するはずですから。


「あ!? もしやあなたがセフィリアさんの弟子ね?!」

「はひ?! そ、そうですけど〜?!」


 ズビシッ! と凄い勢いで指を指され、ビクンと肩が跳ねました。


 反射で閉じてしまっていた目を開けると、目の前ギリギリの距離でした。あとちょっとでも近かったらぶつかっていました。結構危なかったです。


「ウチはヒマリ! あなたに勝負を申し込むわ! 名を名乗りなさい!」

「あぇうぅ……も、森井瞳ですぅ……」


 相手の勢いに飲まれて完全に萎縮してしまっていました。


「モリイヒトミ! 改めて、ウチと勝負よ!」


 反対の手で改めてビシリッ! と指を指され、『YO!』みたいなチャラい感じになっていました。


 しかしどうして急に勝負するなんて言い出したのでしょうか?


「家庭の事情がなければウチが弟子入りしたかったんだから! あなたがセフィリアさんの弟子に相応しいかどうか、ウチが判断してあげるわ!」


 と、いうことでした。


 助けを求めるようにセフィリアに視線を向けると、いつもの天使のようなニコニコ笑顔で

「ちょうどいいわ♪」と手を合わせました。


 勝負する流れはちょうどよかったらしいです。


「瞳ちゃん、これは大会のいい予行練習になるかもしれないわよ♪」

「ま、まぢですか〜……」


 急な展開にも関わらず、なんだかセフィリアは楽しそう。

 瞳は状況を把握するので精一杯でした。


〈木材屋〉さんを訪ねることは木工大会に関係のあること。そして大会とは誰かとなにかを競い合うことです。


 争いごとは苦手な瞳ですが、スーパーボール掬いでその楽しさの片鱗は理解したつもりです。


 瞳は、握りこぶしを固めました。


「そ、その勝負、受けて立ちます〜!」

「ふふん! そうこなくっちゃ!」


 ヒマリの目にはやる気の炎が燃えたぎっています。ユグードの森が燃えてしまわないか心配になってしまうほどです。


 お仕事の邪魔になったりしないか心配でしたが、むしろ「いいぞーやってやれー!」と(はや)し立てているくらいなので問題はなさそうです。


「勝負の内容は──目利きよ!」


 ヒマリの大きな宣言が、ユグードの森に響き渡りました。

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