「オーダーメイド」
──前略。
お元気ですか? わたしは元気です。
今日はセフィリアさんと一緒に何度目かの〈鍛冶屋〉さんに行く予定です。
前に話していた、わたし専用の道具の製作依頼をするためです。
半人前になって、専用の道具を用意してもらえるのはとっても嬉しいんですが、本当にいいのかな? ってちょっと不安にもなります。
だってまだ半人前になったばかりですから、言ってしまえばまだ見習いも同然です。
そんなわたしが専用の道具だなんて恐れ多いと言いますか……。
でもでも、やっぱり自分専用ってなんだか憧れちゃいますよね!
ステキな子に出会えるといいなぁ。
それでは、またメールしますね。
草々。
森井瞳──3023.10.4
***
本日はセフィリア同伴のもと、よくお世話になっている〈鍛冶屋〉さんへとやってきています。
いつもはなぜか苦戦してしまう〈鍛冶屋〉さんの扉も、セフィリアがいれば安心です。
先輩の後ろをついていくように中に入ると、相変わらずたくさんの人がお仕事をしていて賑わっていました。
セフィリアは迷わず真っ直ぐにカウンターへと歩いて行き、瞳もアヒルの子供のようにその背中を追いかけます。
受付のお姉さんがこちらの存在に気づくと、素晴らしい営業スマイルで迎えてくれました。
「あ、セフィリアさんいらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
さすがセフィリア、二つ名を持っているだけあって名乗らずとも知られていました。話が早くて助かります。
「オーダーメイドをお願いしたいんだけど、いいかしら?」
「ええ、もちろんです! どのようなものになさいますか?」
「あ、私じゃなくて、この子の」
背中に隠れていた瞳をズズイと押し出して、受付のお姉さんの前に立たせました。
お姉さんの注目を浴びて、瞳は首を引っ込めてしまいました。緊張しているのでしょうか?
「お弟子さんですか?」
「ええ、愛弟子です♪」
「も、森井瞳です……」
「森井さんですね。では、こちらの紙に詳細をご記入ください」
差し出された紙には氏名を書く欄や、誰になにをどのように作って欲しいかなどを記入する欄が並んでいます。
「いろいろ選べるんですね〜」
「充実のオプションが当店の自慢です!」
「な、なるほど」
押しの強いお姉さんの言葉に気持ち引きつつ、瞳は頷きました。
名前など考えなくても書けるところを優先的に書きつつ内容に目を通していると、やけに瞳の目を引く項目がひとつだけありました。
それは〝誰に〟作ってもらうか、という指名の欄でした。
「…………」
その項目を見た瞬間、もう瞳の頭の中には一人の名前しか思い浮かびませんでした。
でも、その名前を書いてもいいのだろうか、と瞳は躊躇しています。迷惑だったりしないだろうか、と。
もちろんお仕事ですのでそんなことはないのですが、いかんせんこういったことが初めてな瞳にはハードルが高く、どうしてもおっかなびっくりになってしまうのです。
「あの〜……」
恐る恐る、声を出す瞳。お姉さんは変わらないスマイルで応えます。
「はい、どうなさいましたか? 間違えても代えの用紙ならたくさんありますから安心してください」
瞳なら何度も間違えかねませんので、お姉さんの人を見る目は確かでした。お姉さんの言う通り、内心では密かに安心していたのは内緒です。
「じゃなくてですね、この〝指名〟って誰でもいいんですか? 半人前の人とかでも」
「指名ですのでもちろん可能ですが、オススメは致しません。そちらに書いてある通り一人前の職人を指名するのが一番かと」
「ですよね〜……」
一人前より劣っているから半人前なのであって、これから長い付き合いになるであろう商売道具を用意してもらおうとしているのですから、中途半端なものを用意されて困るのはこちらです。
それでも、あの人ならば一人前の職人顔負けの仕事をしてくれるんじゃないかという確信のようなものが、瞳の心の中に渦巻いていました。
「瞳ちゃん」
後ろから、黙って見守っていたセフィリアの声がかかります。
それはまさに、天からの啓示のような言葉でした。
「職人にとって商売道具は『魂』みたいなものよ」
「魂……」
「この人になら瞳ちゃんの魂を預けられるって人は、誰かしら♪」
セフィリアのその言葉で、瞳は吹っ切れました。
一人前であっても顔も名前も知らない人より、半人前だろうがどんな人か知っている人にお願いしたほうが信頼できる、と。
瞳は指名の欄に名前を記入しました。
──ヒジリ、と。
そしてその他もろもろを記入し、受付のお姉さんに提出します。
記入漏れやミスが無いか一通り目を通して、指名の欄の名前を見て意外そうな反応をしていましたが、
「承りました。では、担当の者に連絡いたしますので、少々お待ちください」
受付のお姉さんに待機を命じられ、大人しく待っていると、鍛冶場になっている地下から薄っすらを汗をにじませた銀髪爽やかイケメンがやってきました。
水も滴るいい男、というやつでしょうか。店内にいた女性客の視線が一斉に集まりました。
首にかけたタオルで汗を拭いつつ、瞳の顔を見た途端にヒジリの表情は晴れやかになりました。
「あれ、森井さん? もしかして森井さんが僕に指名を?」
「は、あい。ヒジリさんになら、と思いまして〜……」
「お二人はお知り合いなんですね」
「「まあ、いちおう」」
意外そうな反応をするお姉さんに、瞳とヒジリは声をハモらせました。息ピッタリです。
「すごく嬉しいし光栄だよ。森井さんからの指名でオーダーメイドだなんて」
普段は爽やかでクールな印象のあるヒジリですが、彼の言葉からは興奮がにじみ出ています。本当に、心の底から嬉しがっています。
「森井さんにピッタリなものを必ず用意してみせるよ。約束する」
「あい! お願いします〜!」
やっぱりこの人にお願いして正解だったかもしれない。
自然とそんな確信が湧き上がってくるほどに、ヒジリの言葉には強い力とやる気が宿っていました。
ヒジリが作り上げる瞳のためのオーダーメイド。
はてさて、どんなものが出来上がるのか、楽しみです。
***
──前略。
お元気ですか? わたしは元気です。
オーダーメイドの件ですが、ヒジリさんにお願いすることにしました。
受付のお姉さんが言うにはオーダーメイドは一人前の人に依頼するのが普通なんだそうで、意外そうな反応をされました。
でも、知らない人にお願いするよりも知っている人にお願いしたほうが安心できますよね。
わたしが鍛冶職人について無知なだけ、とも言えるんですけどね……。
それはそれとして、これからヒジリさんと何度か話し合ったりとかしてわたしにピッタリのものを見繕ってくれるそうです。
早く出来ないかなぁ……! ワクワクドキドキ!
いつ完成するかわからないのに……今日は眠れるかなぁ?
草々。
森井瞳──3023.10.4




