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「パフォーマンス」

ちょっと遅れちゃいましたが2月1日分の投稿です。忘れてました!すみませんでした!

 ──前略。


 お元気ですか? わたしは元気です。


 右手の握力の件ですが……案の定、筋肉痛になってしまいました。これじゃ金槌の練習をするどころか彫刻刀すらまともに握れそうにありません……。


 朝、着替えるのも一苦労でした。


 困りました……セフィリアさんになんて言えばいいんでしょう……? 右手が筋肉痛なので今日の修行はお休みさせてください、とか? そんなことで今後やっていけるんでしょうか?


 でも、正直に現状を話すしかないですよね。セフィリアさんが「それでもやれ」と仰るのなら、わたしは頑張りたいと思います!


 それでは、またメールしますね。


 草々。


 森井(もりい)(ひとみ)──3023.10.2




   ***




「じゃあ今日一日、修行はお休みしていいわよ♪」


 セフィリアに右手の筋肉痛の件を正直に話すと、あっけなくお休みの許可が出てしまいました。あまりにもあっさりと決めてしまったので、瞳は聞き間違いかと思いました。


「いまなんと〜?」

「今日一日は修行お休みしていいわよ♪」


 聞き間違いでもなんでもありません。変わらず天使のような笑顔で同じことを言いました。

 それでも瞳はわたわたと慌てふためいて、しつこく再度確認します。


「そ、そんなあっさり決めちゃっていいんですか〜? ヌヌ店長にも相談とか……」

「ヌヌ店長は今日はお出かけ。それにヌヌ店長ならきっと同じ判断をしたと思うわ♪」

「そ、そうなんですか〜?」

「ええ、そうよ♪」


 即答でした。セフィリアの中でこれは確定事項のようです。なんだかんだで瞳も、確かにヌヌ店長ならセフィリアと同じ判断を下しそうだな思いました。


 両者とも体の八割は〝優しさ〟で出来ているようなものですから。


「じゃあ……お言葉に甘えまして、修行はお休みさせていただきます〜。あ、その代わりわ

しがお店番やりますね〜」


 右手が使えずともできることをやるのが、今の瞳の精一杯でした。


「そうね……それじゃあせっかくだし、お願いしちゃおうかしら♪」


 セフィリアは瞳の提案を飲んで頷いて、レジ前の椅子から腰を下ろしました。

 それから向かった先は作業場。


「瞳ちゃんがくれた時間だし……代わりに私が修行しちゃおっかな♪」

「あっ、セフィリアさんずるいです〜!」

「ふふふ♪」


 イタズラに微笑むセフィリアに対して、瞳は頬をプクッと膨らませました。


「『見ることも立派な修行』よ、瞳ちゃん♪」

「なんとっ」


 ──見ることも立派な修行。


 セフィリアにそんなことを言われてしまっては、のんきにお店番をしている場合ではありません。


 そう……店員であろうと、お店番をしている場合ではないのです!


 セフィリアは一人前の職人であり、そして瞳はそんな背中を追いかけ続ける半人前になりたての職人であり、そしてそして、なんと言ってもいまはお客さんがいません。


 修行をするならこのタイミングしかないのです!

 手を動かせないのなら、目を動かせばいいじゃない。


 そんな屁理屈じみた考えですが、瞳は好機とばかりに好奇の視線をセフィリアへ向けます。


「〜♪」


 瞳の熱視線を一身に浴びながらも涼しげに鼻歌を歌いながら、セフィリアは長方形の板材を倉庫部屋から取り出してきて、スラスラとなにかを描き出し始めました。

 瞳の目には、それはただの模様に見えました。全体像が見えてくると、印象はガラッと変わります。


 美しい花が咲き乱れる中に、たくさんの鳥たちが優雅に過ごしている、そんな光景でした。


「セフィリアさん、それはなにを作っているんですか〜?」

「ん? これは別に、特別なものを作っているわけじゃないわよ♪ 強いて言うなら『練習』かしら?」

「練習? セフィリアさんも練習するんですか〜?」


 瞳は意外そうに言いました。


 あのセフィリアが練習をするだなんて思っていなかったのです。先ほどの「修行うんぬん」だって冗談だとばかり思っていました。


「ええ、もちろんよ♪ 私だって人間だもの、練習しないと腕が鈍ってしまうし、まだまだ上を目指せると思ってるんだから♪」


 セフィリアは瞳に笑いかけながら、左手に(のみ)を、右手に金槌を握って、くるりくるりと器用に回すと決めポーズをバシッと決めました。


「おぉ〜、セフィリアさんかっこいいです〜!」

「ふふふ♪ ありがとう♪」


 パチパチパチと拍手を送る瞳に、天使のような微笑みでセフィリアは笑いかけました。


 木工をするうえではパフォーマンスは必要のない技術ですが、瞳はその姿に目を奪われてしまいました。


「いずれ製作風景を公開、なんてこともあるから、こういった技も覚えておいて損はないわよ♪」

「な、なるほど〜……」


 硬い表情を浮かべながら瞳は頷きました。


 他人の目が、それも不特定多数あるなかで自分の実力を発揮しつつ、ただ見せるだけじゃなくて〝魅せる〟ことも考えなくてはいけない。


 これが一人前の職人というものか、と瞳は硬いツバを飲み込みました。


 果たして瞳にそんな器用なことができるのでしょうか?

 瞳の胸の内は不安でいっぱいになります。


 そんな不安な気持ちが顔に出ていたのか、なにも言っていないのにセフィリアは勇気の湧いてくる言葉を投げかけてくれました。


「瞳ちゃんには人を惹きつける素敵な魅力があるから、きっと──いいえ、絶対に大丈夫よ♪」

「絶対に……?」

「絶対に♪」


 尊敬している大先輩に断言で太鼓判を押されてしまっては、やる気もうなぎ登りというもの。


「よ〜し、わたしもそれ練習します〜!」


 瞳用に用意された鑿と金槌を持ち上げようとして右手からスルリと逃げていく金槌さん。


「握力ぅ〜!」


 すっかり忘れていました、右手の握力がお亡くなりになっていることに。

 いまの瞳にはスプーンより重い物は持てそうにありません。


「見て、覚えて、イメージで練習してね♪」

「あい〜……」


 瞳はわかりやすくションボリと肩を落としました。

 それからセフィリアは、たった一人の観客(でし)のために色々なパフォーマンスを見せてくれながら作業を続けるという、超人じみたことをしてくれました。




 その日、瞳はイメージトレーニングのしすぎで、(のみ)と金槌を使ったジャグリングを披露した夢を見ました。


 朝目が覚めたとき、夢の影響で周囲には物が散乱して──いませんでした。

 代わりにぐったりした様子のヌヌ店長が、部屋の隅でおとなしく眠っていました。


 瞳は知る由もありません。

 眠りながら物を散らかしていたのを、せっせと直していたことなんて。




   ***




 ──前略。


 お元気ですか? わたしは元気です。


 セフィリアさんに右手のことを話したら、案の定修行はお休みにしてくれました。


 代わりにセフィリアさんの修行を見学することになったんですけど、わたしは驚いちゃいました。あのセフィリアさんでも修行をするんだって。


 なにをやっても完璧にそつなくこなしちゃうようなお人ですから、わたしと違って努力なんてしてないと思っていたんですけど、そうじゃないみたいです。


 セフィリアさんみたいなすごい人でも、やっぱり努力という土台を作り上げることは必要なんだなって思いました。


 だから、いまはダメダメなわたしでもいつかセフィリアさんみたいなすごい人になれるんだって、その可能性があるんだって希望が持てました。


 そう思ったら、だんだんとやる気がみなぎってきちゃいました!


 早く右手の筋肉痛治ってくれないかなぁ〜。


 草々。


 森井瞳──3023.10.2

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