「飴細工」
巨大でレインボーなお花型のわたあめをモフモフと頬張りつつ、瞳、火華裡、ヒーナの三人は出店の立ち並ぶ通りを歩きます。
道行く人は家族連れや仕事仲間など、実にたくさんの人が楽しそうに歩き回っていました。
こちらも立ち並ぶ出店を全力で楽しんでいます。
「ほれでひはりひゃん、ふぎはほこにいふお〜?」
それでヒカリちゃん、次はどこに行くの〜? と聞きました。わたあめの甘味で幸せ成分はバッチリ補充されていますから、今ならどこに行っても楽しめそうです。
火華裡は腰に手を当ててため息を一つこぼしました。
「食べながら喋らない。口の周りベタつくわよ。あとあんたは髪の毛も気をつけなさいよ」
瞳の癖っ毛にわたあめが付きそうになっているのを発見して、すぐさま火華裡は警告しました。
髪の毛は女の命とも言われますから、ベタつくなんて女の子的にはナンセンスです。
瞳はそのあたり無頓着ですので、あたしがしっかりしないと、と火華裡は気合が入ります。
「ひーはほひひはふっふ!」
ヒーナも気になるッス! と言いました。早く食べ終わってくれないでしょうか。
「あんたはとっくに手遅れなのよね……」
太陽のような笑顔で元気いっぱいなのは良いのですが、口の周りがすでにベタベタになっています。人よりも体温が高いのかもしれません。
火華裡はひとまず常備しているハンカチで拭ってやろうとしますが、これがなかなか強敵でした。
ベッタリです。ベッタベタです。
「まったくもう……ちょっとは気を使いなさいよ」
「なんか火華裡さんお母さんみたいッス」
「誰のせいよ誰の!」
とか言いながらも会場に設置された水道に立ち寄り、口の周りを綺麗にしてあげました。
お母さん役に決定です。この二人の面倒を最後まで見られるのはもはや火華裡しかいません。
「それで、お次はどこに向かうッスか?」
「ここから近いのだと……りんご飴かしら」
「おお! ヒーナりんご飴大好きッス!」
火華裡の口から飛び出した「りんご飴」というワードを聞いてヒーナは食いつきますが、瞳の頭の上には〝???〟が飛び交っています。
「りんご飴ってなに〜? りんごなの〜? 飴なの〜? どんなの〜?」
「こういうところで【緑星】生まれと【地球】生まれの違いがハッキリしてくるわね……」
「えっと、強いて答えるなら、両方ッスかね」
火華裡が静かに驚嘆し、ヒーナが教えてくれました。
りんご飴とは、その名の通りりんごを飴でコーティングした食べ物です。本当にそのまんまです。
【地球】にはそのような食べ物はありません。正確にはあったのですが、とうの昔に廃れてしまいました。瞳のおばあちゃんでも知っているか怪しいくらいです。
「ん〜……両方〜?」
瞳は頭をひねって一生懸命考えました。
いくら頑張ってもりんご味の飴の想像しかできませんでした。
「百聞は一見にしかず。さっさと行くわよ」
「と言っても目の前にあるこれがそうなんッスけどね」
「近かった〜?!」
すぐ近くにりんご飴の屋台はありました。
視界には入っていたはずですが、他の屋台や初めて見る桜に目移りしまくっていて全く気がつきませんでした。
それは真っ赤っかの屋台でした。のれんにはどデカく堂々と〝りんごあめ〟と書いてあります。なぜ気づかなかったのか。
「ここはりんご飴が有名なんだけど、本当にすごいのはりんご飴じゃないのよ」
「え、そうなの〜?」
りんご飴をオススメされているはずなのに、本当にすごいのはそこではないと火華裡は言います。
いったいどういうことでしょうか?
「見たら瞳さん興奮するんじゃないッスかね!」
ヒーナは知っているようなので、瞳がどんな反応を見せるのか楽しみなようです。
三人はさっそく〝りんごあめ〟と書かれたのれんをくぐりました。
「うわぁ〜……!」
瞳は感嘆の吐息を漏らしました。ヒーナの言った通り、瞳の目はこれ以上ないくらいに光り輝いています。
そこには、色とりどりで、形も様々な宝石が散りばめられているかのような景色が広がっていたのです。
ルビーような魔性の煌めきを宿した真っ赤な宝石や、快晴の青空をギュギュッと閉じ込めたようなスカイブルーの宝石が、棒に刺さって所狭しと飾られていました。
他にも緑色や黄色や紫色など、たくさんの種類がありました。
今の瞳の瞳(久々にややこしい)には、ヌヌ店長以上に宇宙のようなキラキラが写り込んでいます。
「宝石箱! この屋台宝石箱だよヒカリちゃん! ヒーナちゃん!」
「声が大きいわよ。あとこっちが照れるからやめい」
「想像通りの反応ッスね!」
わかりやすい瞳の反応を言い当てたヒーナは満足気です。
「いらっしゃい。嬉しいこと言ってくれるね。じっくり見てっておくれよ」
店員さんは若い女性でした。しかしお客さんである瞳たちのほうへ視線を向けることはありません。
決してお客さんのことを無下に扱っているわけではなく、なにやら集中して作業をしているからでした。
手元を覗き込んでみると、まさにこれから何かを作ろうとしているところでした。
女性は温められた釜のような物の中から透明なドロドロを指先で摘んで適量取り出し、延ばしては丸め、延ばしては丸め、こねりこねり、こねりこねり……。
これを何度も何度も繰り返しています。
このドロドロの正体は、熱された飴。これが冷えて固まると、みんなもよく知っているあの飴になるのです。
女性は練った飴のシワを伸ばすようにして一点に集めて、綺麗な球状に整形し、それから棒を差しました。
どうやらこれから宝石箱に加わる新しい仲間を作ろうとしているようです。
火華裡は作業の邪魔にならないように小声で囁きました。
「見ての通り、ここのりんご飴は絶品で有名なんだけど、ここまでの職人技が間近で見れるのは結構貴重なの」
「これがまたすごいんッスよ」
「へぇ〜……」
この場にいる三人は言わば職人の卵。それぞれでジャンルは違いますが、目指している目標は一緒です。
なにか盗める技術などがあるかもしれませんから、三人は黙って食い入るように女性の手元を見つめ続けました。
特に火華裡の視線は鋭いものでした。火華裡はガラス細工の修行をしているので、かなり近しいものがあるようです。
女性はU字になっているのが特徴的な糸切りバサミのような刃物を巧みに操り、みるみるうちに形を作り上げていきます。
最初はただの球状だった飴に切り込みを入れるとそれが一瞬のうちに手足に変わり、細やかな模様がつけられ、気がつけばそれは美しいカエルに変身していました。
今にも動き出しそうな完成度に、三人は息を飲むことしかできませんでした。
出来上がったカエルの形をした飴を扇風機の前に置き、風を当てて凝固のお手伝い。
女性はその間に、先に冷ましていた金魚型の飴と筆を取り出し、着色を始めました。
筆の毛先でポンポンと叩くように赤い着色料をつけていくと、透明なだけだった金魚がさらに生き生きとしてきます。
これは動き出しそうというレベルの話ではありません。命を与えられてもおかしくないほどのものでした。
人間の手でそれほどの物を作り出すことができるなんて、やっぱり〝芸術の森〟と呼ばれるだけのことはあるな、と瞳は感動しました。
そんな至高の一品を、女性は火華裡の目の前に差し出しました。
「はい。プレゼント」
「……え、いいんですか?」
「君が一番熱心に見ててくれたからね」
冷えていますが出来立てホヤホヤの金魚の飴細工を受け取ると、火華裡は満面の笑みを浮かべました。
「ありがとうございます! 勉強になりました!」
「興味あるならうちに遊びにおいで。教えてあげる」
「はい! ぜひ!」
貴重な経験を積める機会を新たにゲットして、やる気がうなぎ登りの火華裡なのでした。
きちんと評判のりんご飴も購入してお姉さんに挨拶をしてから、一行は次の屋台へと向かうのです。
ちなみにりんご飴を購入するときは、飴に気泡が混じっているものを選ぶといいと、お姉さんが教えてくれました。質の良いりんごを使っている証拠なのだとか。




