「わたあめ」
「ところでお前ら、まだ屋台見て回ってないだろ?」
「あ、そういえばまだ回ってないですね〜」
ニヤリとしながら言う芹香に、瞳は答えました。
お花見はみんなでワイワイやるのもいいですが、楽しみはそれだけにとどまりません。
見える範囲だけでもかなりの数の出店が軒を連ねています。
一軒一軒見て回るのもまた、お花見の醍醐味として知られていました。
「おチビちゃんと三人で回ってきたらどうだ? 楽しいぞ?」
「呼ばれた気がしたのでヒーナ登場ッス!」
「わぷ」
後ろから抱きつかれながら、太陽の笑みを浮かべてヒーナが顔を出しました。
脇から出ている頭を自然と撫でます。サラサラな金髪のなで心地は相変わらず最高です。
「あんたらまだ来たばっかだったっけ。よかったらあたしが案内してあげよっか?」
火華裡がお花見会場のエスコートを名乗り出てくれました。
集まったメンバーの中で誰よりも早く来て、芹香たちのために会場を歩き回り、食べ物をかき集めていましたから、どこに何があるのかすでに把握しているのでしょう。
胸を張って、なんだか自信たっぷりです。
「せっかくみんなで集まったのに別行動しちゃうの〜?」
「まだまだ始まったばかりだし、誰も気にしないわよ。周りを見てみなさい?」
「え〜?」
火華裡に言われて他のメンバーを見てみると、それぞれが自由な時間を過ごしています。
ハル・ハジメの恋人ペアとヒジリが意気投合していて、お喋りが盛り上がっていました。特に男子二人が。
思えば男子は二人しかいませんから、自然と話が始まったのでしょう。
セフィリア、芹香、セリーリは言わずもがな揃った瞬間から楽しそうに過ごしています。
「あたし達はあたし達で楽しく過ごせばいいのよ。この調子なら芹香さんに目を光らせてなくても大丈夫そうだし?」
呆れたように火華裡が言うと「余計なお世話だよ」と返されました。先程のような、セリーリを相手にしたときの緊張感は微塵も感じられません。
「芹香ちゃんは私たちがしっかり見ておくから、せっかくの機会なんだし見てきたら? すごく貴重な経験になると思うわよ♪」
「……うん、毎年凝ってる」
屋台を見て回るのが貴重な経験? と首をかしげる瞳でしたが、セフィリアとセリーリが口を揃えてそう言うのならそうなのだろうと馬鹿正直に受け入れました。
「お二人が言う通り、面白いのたくさんあったわよ。瞳もヒーナも好きそうなのがたんまりとね」
「ほんと〜?! わ〜なんだろ〜?!」
「まじッスか?! それは楽しみッス!」
火華裡からの太鼓判もあり、ますます盛り上がってきた瞳とヒーナ。
これはさっそく探検に出かけねばならないでしょう!
話を聞いて早速ウズウズしてくる二人。歳はそこそこ離れているのにまるで同い年です。
「それじゃあせっかくなんで、あたし達はちょっと出店見て回ってきますね」
「おう、行ってこい行ってこい」
お邪魔虫を追い払うようにシッシッと手を振って追い払われてしまいました。
いちおうお喋りが盛り上がっているヒジリたちにも声をかけておいて、瞳と火華裡とヒーナは靴を履いて、クマさん柄のレジャーシートとはしばしのお別れです。
「さて、どうやって回る?」
「「オススメで!」」
「はいはい」
やれやれと手を上げて、火華裡は苦笑いを浮かべました。
これから小さな子供と大きな子供の面倒を見るわけですから、苦労がしのばれます。
「それじゃ、近い順から回っていきますかね」
しばらく会場のお花見モードは続きますが、時間は有限ということで、火華裡は効率を重視することにしました。
まず最初にやってきたのは、主張の激しいレインボーな出店。そして同じく主張の激しいピカピカ頭の店主さんがおりました。
「まいどありぃ! また来てくんな!!」
声の主張も激しいようです。
「うわ〜なにあれきれい〜! モフモフだ〜!」
一番に駆け寄って、先に購入していたお客さんの手元を見て瞳ははしゃぎます。
棒の先端に、まるで新雪のようなモフモフがくっ付いているではありませんか。それも虹色にグラデーションまでしています。
それをハムッと口に含んでは、幸せそうな表情を浮かべていました。
「いらっしゃいお嬢さん! なんだい〝わたあめ〟を知らんのかい?」
「これわたあめって言うんですか〜?」
瞳が聞くと、ピカピカ店主が顎に手を添えながら瞳を凝視しました。
「ははぁん、その髪色、さてはお嬢さん【地球】の人かい?」
「です〜!」
「それなら知らないのも無理はないかもな! こりゃ失敬!」
ベチーンッ! と店主は自分のピカピカ頭を叩きました。物凄く強く叩いていたので頭に手のひらの紅葉が出来上がっています。【緑星】的にはまだ春なのに気の早い店主です。
「砂糖を溶かして糸状になったもんを棒に巻きつけるだけのお手軽お菓子だが、うちはそんじょそこらのわたあめとは一味違うぜ! よぉく見てな!!」
そう言うと一本の長い棒を空中にクルクルと放り投げてパシッとナイスキャッチしてから、砂糖を円状の機械の中央にザザーと流し込みました。
無駄にスタイリッシュです。
高速回転する機械から熱によって溶かされた砂糖が遠心力で糸状になって飛び出してきて、それを器用に棒で巻き取っていきます。
聞こえないリズムに乗ってピカピカ店主はノリノリですが、やってることは地味でした。
ですが、出来上がっていくわたあめはなるほど確かに、普通のそれとはひと味違いました。
小さなボールくらいの大きさになったら、親指の爪側で形を整えつつ、新たに砂糖を投入しました。今度のは色が付いています。
緑色のモフモフの層が新たに加わりました。そしてさらに追加で赤色の層も加わりました。
そこで店主は細い棒を取り出して、綺麗な丸い層に凹みを等間隔でつけていきます。そこからまた別の色を重ねては凹ませ、重ねては凹ませを繰り返します。
「お、お、おぉ〜……!」
瞳はその一連の動きを穴が空くほど凝視していました。
普通ならやりにくさを感じるでしょうが、ピカピカ店主はむしろご機嫌です。瞳が楽しそうにしてくれているのが嬉しいようです。
「ほうら出来たぜ嬢ちゃん! お近づきの印にプレゼントだ!!」
完成したわたあめは、桜の形をしていました。しかも凄くボリューミー。それを瞳に差し出して、ニッと漢の笑顔を浮かべます。
「いいんですか〜?!」
「おうよ!」
瞳が受け取ると、その大きさがよくわかります。瞳の頭よりも大きいです。
「良かったわね瞳。早速お花見名物の一つが見れて」
「あい〜! お見事な手さばきだったし——あむ……んん〜! それに甘くて美味しい〜!」
「お花見名物はわたあめのことじゃないんだけど……まあいいか」
わたあめの甘みにほっこりしている瞳を見たらどうでもよくなってしまいました。
ちなみにお花見会場で紅葉狩りができるというのが密かな名物でした。
火華裡とヒーナにも漢気でわたあめを作ってくれて、会場探検はまだまだ続くのです。




