「合わさる要素」
初めての陶芸体験も無事に終わり、完成が待ち遠しくてたまらない瞳は、聞きました。
「どれくらいで出来上がるの~?」
「今すぐ取りかかれば明日か明後日にはできるッスけど――」
「おお~?!」
意外に早く完成品が見れそうで前のめりになる瞳でしたが、ヒーナは指をチッチッチと振り子のように振りました。
「け・ど・ッス。いかんせん今は夏休み期間ッスから、そういうわけにもいかないッス。みなさんも見たでしょう? 登り窯の状況」
陶芸専門店〈大地に槌〉にやってきたとき、窯の中の整理を手伝いました。それはそれは大量にお客さんの作品があって、ヒーナ一人ではとても捌き切れる量ではなかったでしょう。
「だから、そこそこお時間いただくことになりそうッスね」
「そっか~……残念だけど、仕方ないね。楽しみにしてるのはみんな一緒だもんね~」
「そういうことッス」
ニパッと笑ってヒーナは頷きます。
瞳はさすがに駄々をこねるほど子供ではないので、一応の納得はしましたが、一応です。我慢するのが大変そうでした。
「それはそうと、みなさんまだお時間あったりするッスか?」
しっかりと手を洗って泥んこを落として、水気を拭いながらヒーナが聞いてきました。
時計を見れば、〈ヌヌ工房〉から始まった〝森林街〟ユグード観光もかなりの時間が経っていました。窓の外を見てみると、陽の光のような明るさと暖かさを届けてくれる陽虫も元気が無くなってきていて、少し暗くなっています。
これから徐々に明るさを落としていき、また明日光るための力を蓄えるのです。
さすがにそろそろ戻った方がいいだろうか? と瞳は悩みます。先輩のセフィリアに美星の両親のこと、それからお店のことも任せっきりです。
楽しさのあまり忘れていましたが、忙しくしているのは〈ヌヌ工房〉も同じなのです。
「実はちょっと相談したいことがあるんスけど……ダメッスかね?」
ヒーナは両手を合わせて拝むようにお願いします。
「……わかった~。わたしは良いけど、ふたりは?」
お友達が悩んでいるとあれば力になってあげたいと思うのが当たり前。瞳は頷いてから、ヒジリと美星に意見を求めました。
「もちろん僕は構わないよ。ここまできたら最後まで付き合うさ」
あいも変わらず好感の持てる爽やかな青年です。
「……わたしも、です。それで、相談ってなんです?」
美星は小さく首を傾げながら、無表情に疑問の声音を乗せて聞きました。美星も同年代の少女の悩みは放っておけないのかもしれません。
激しい人見知りのはずでしたが、自ら率先して聞いているくらいですから。
「……なんと言うッスか、スランプみたいな……よくわからなくなってて」
頬をかいて言いづらそうにヒーナは告白しました。
――スランプ。
いわゆる『不調』というやつでした。体調的な不調ではなく、アイデアや創作意欲が湧いてこないアレです。
何かを生み出す仕事をしている人は、必ずと言っていいほど通る悩みのタネでした。
ヒーナは続けます。
「夏休み期間は忙しいので課題が出されるんスけど、『観賞用』っていうのがヒーナの課題で……いろいろ作ってはみてるッスけどイマイチなにかが足りない気がして」
陶芸専門店〈大地に槌〉には夏休みの宿題のようなものがあるようです。
その足りない「なにか」がわかれば、ヒーナの悩みのタネも解消できそうでしたが、なるほど確かに、これは難しい問題でした。
観賞用といえば、鮮やかな色使いや特徴的な形など、個性的な物がたいへん多いです。独創性が重要視されるので、他の人が作った作品に埋もれてしまうようでは観賞用には値しないでしょう。
ヒーナが頭を悩ませてしまうのも納得というものでした。
「ひとりで悩んでても仕方ないッスから、同業者みたいなものである瞳さんやヒジリさんに意見とかアドバイトスとか頂けないかと。もちろんミホシさんも何かあれば是非にッス!」
期待を込めたキラキラした目を三人に向けるヒーナですが、「う~ん……」と唸って首をかしげるだけで、決定的なものは浮かんできません。
「大昔ならともかく、〈鍛冶屋〉には観賞用として作るものはほとんどないから……申し訳ないけど、具体的な意見は出せそうにないかな……ゴメンね」
ヒジリは済まなそうに謝ります。〈鍛冶屋〉は主に道具を作る場所ですから、実用的なものでなければ意味がありません。
「大昔」というのは、剣や鎧などであれば観賞用のものはあった、という意味です。とにかく豪華に派手に、過剰な装飾を施したものが大昔には存在していたのです。今はそんなもの必要ありませんから、どこかの博物館にでも展示されていることでしょう。
「わたしはまだその段階じゃないというか~……そういうの意識したことなかったな~」
「そッスか……」
密かに期待していた瞳の意見もアテにできるものではなくて、しょんぼりなヒーナ。
瞳の木工芸能は観賞用の物も多いですし、手がかりだけでもあればよかったのですが、まだ学び始めて3ヶ月ほど。他人にアドバイスをできるほど、ものを修めてはいないのでした。
頼みの綱は美星でしたが、ただの観光客である少女に期待を寄せるには、頼みの綱が細すぎるというものでしょう。
なかば諦めかけていたヒーナでしたが、
「……例えば、ですけど」
救いの声がかかりました。他の誰でもない、美星の口からです。ヒーナはほんのちょっぴり驚いた顔をして、美星を見つめます。
「合わせちゃう、とか、ダメです……?」
「合わせる、ッスか?」
ヒーナのおうむ返しに美星は頷きました。
「いろいろ見てきたですけど、どこもそれだけと言うか、それしか扱ってないところばかり……です」
瞳の〈ヌヌ工房〉は木工。火華裡のガラス工房。そしてヒーナの陶芸専門店。
その道を極めた人が集まる街ですが、見方を変えれば「それしかできない人」が集まる街とも言えました。
「実用性を無視していいなら、とうげいのみにこだわらなくても……って、思ったです」
言ってから、でしゃばったこと言ってしまったと身をすくめて縮こまってしまいました。そのまま滑るように瞳の背後に回って、ヒーナのまん丸な目に映らないように隠れてしまいます。
ヒーナはさらに驚いていたのです。目を見開いて、大口まで開けて。
「それッス!!!」
驚きから我に帰ったヒーナは大声をあげました。
お店の人やお客さんに「すみませんッス」とペコペコ謝ってから、ボリュームを落として続けました。
「観賞用なんだから、陶芸に他の要素を盛り込んでも問題ないッス! それにそんなことやってる人見たことないッス!」
ヒーナは我が意を得たりとやる気マックスです。
「なるほど……異なる要素を組み合わせることによって生まれる調和か……となると、より調和性を保つためにテーマを決めて方向性を定めておいた方がいいかもしれないね」
「おお! それもそうッスね!」
ヒジリの冷静なイケメン的分析でヒーナはさらに勢い付きました。
トドメは――
「これなんか使えないかな~?」
「おおぉ?! すごいキレイッスね! これがあれば華やかになりそうッスよ!」
瞳がポケットから取り出したビー玉を手のひらに転がして、その輝きを見たヒーナはそれ以上の輝きを目に灯しました。
「頂いてもいいんスか?」
「ど~ぞど~ぞ。ヒーナちゃんのためとあらば~」
「ありがとうッス! みなさんも、ほんと助かったッス! これならなんとかなるかもしれないッス! 燃えてきたッスー!」
だんだんと不思議な口調もヒートアップしてきて、鼻の穴から湯気が出てきそうなほどでした。
コンコンッ。
その時です。窓を叩くような音が聞こえたのは。
「……ほへっ、ヌヌ店長~?」
見てみれば、窓の外にはずんぐりむっくりとした宇宙の眼を持つ大きなフクロウが佇んでいたのでした。




