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「陶芸専門店《大地に槌》」

 予定していなかったお見舞いも済ませ、お店で待ってくれていたイケメンのヒジリと小さな迷子の美星みほしと合流しました。


「おまたせ~」

「森井さん、おかえり。お友達の具合はどうだった?」

「思ったより元気そうだったよ~」


 戻ってきたひとみは穏やかに眠る火華裡ひかりの寝顔を思い浮かべながら答えました。


 それを聞いて、二人は安心したように微笑みました。ヒジリはわかりませんが、美星は見たこともない他人のはずです。それでも思いやれる心優しい少女でした。


「よかった、です」

「美星ちゃんも、こっちの都合に付き合わせちゃってごめんね~」


 両手を合わせて謝ると、少女は小さく首を振りました。


「いえ……もともと付き合わせちゃってるのはこっち、ですし」

「あ……そういえばそうだったね~。なんだか楽しくて忘れちゃってたよ~」


 美星の両親が少女を放っておいてデートと洒落込み、手持ち無沙汰で放浪していた美星を勝手ながら預かることになっていたのでした。


 すっかり友達と一緒に遊んでいるような感覚になっていましたが、こうなった現状を思い出して、瞳は〈ヌヌ工房〉のことを気にかけます。


「セフィリアさんのほうはどうなってるかな……」


 美星の両親と連絡を取ってくれる手筈となっていますが、セフィリアからの連絡はありません。そのうえお店を一人で回さなければなりませんから、負担は大きいです。


 若葉色の制服の裾が引っ張られる感覚に目を向けると、美星がキラキラした目でこちらを見上げていました。


「もっといろんなところ、見てみたいです」

「うん、そうだね~!」


 セフィリアのことは気になりますが、大丈夫と言っていた尊敬する大先輩の言葉を信じましょう。


 とにかく今は、この小さな女の子に一つでも多く、素敵な思い出を作ってもらうために、瞳は目一杯の笑顔を浮かべて先導します。


「よ~っし! 次はわたしもまだ行ったことないとこ行っちゃうよ~!」


 意気込む瞳に気づく様子がなかったので、ヒジリが冷静にツッコミます。


「行ったことないって、場所わかるの?」

「あ~……」


 そういえばどこにあるのかわからなくて、一気に勢いがしぼんでしまいました。


 余計なことを言ってしまったか、と空気を読んだヒジリは慌ててフォローします。


「どこに行きたいの? 僕がわかるところならそこまで案内できるけど」


 ヒジリは【緑星リュイシー】出身ですから、瞳よりも詳しいです。もし瞳の行きたいところに心当たりがあれば、役に立てるかもしれないと、イケメンは密かに意気込んでいました。


「次はヒーナちゃんのところに行ってみたいんだけど~」

「ヒーナちゃん?」


 またしても知らない名前が飛び出してきて、ヒジリは首を傾げます。それだけでは場所の特定はできません。


「美星ちゃんくらいの女の子で、金髪で、お人形さんみたいで、陶芸をやってるんだって~」

「陶芸か……となるとあそこしかないかな」


 心当たりがあったようで、思い出すように視線を空へ向けています。さすがイケメンは守備範囲が広いです。


「場所わかる~?」

「うん。ここで陶芸って言ったら一つしかないからね」


 どうやら「陶芸」という情報一つだけあれば事足りたようです。ヒーナの人となりは余計な情報でした。


 と思ったのですが、


「わたしと同じくらい……」


 それを聞いていた美星がポツリと呟きました。年齢の変わらない少女が芸術について学んでいるという点に引っかかるものがあったのかもしれません。


「美星ちゃんとは気が合うんじゃないかな~! すっごい元気で、とっても良い子だよ~!」


 語尾に「ッス」をつけるという不思議な喋り方をしますが、常に全力で、ひたむきで、一つのことに真っ直ぐに突き進む姿勢は見習いたいくらいです。


 銀髪のイケメンはタイミングを見計らって、申し訳なさそうに口を開きました。


「それじゃあ案内するね。えっと……外でちょっとだけ待っててくれるかな?」

「おトイレです?」

「ま、まぁそんな感じ」


 美星の恥ずかし気もない発言に苦笑しつつ、ヒジリはお店の奥へ。


 瞳と美星は言われた通りお店の外に出て待っていると、言った通りすぐにイケメンが出てきました。


「お待たせ。それじゃあ行こうか」

「あい~!」

「…………はい」


 すっかりお馴染みとなってしまった、美星を真ん中に手を繋いで、ヒジリに合わせて歩き始めました。


 目指すはヒーナが陶芸の修行をしているはずのお店。


 初めて行くお友達のお店が楽しみで、思わず笑みがこぼれる瞳でした。




   ***




 ヒジリに案内されてやってきたそこは、とてもヘンテコな形をしていました。


 ユグードの森の建物はどれも巨大な木の中身をくり抜いて作られたものです。森の木はまっすぐ、ぶっとく、天に向かって伸びていきます。


 しかしここはどうでしょう。


「なんか……すっごい、その……うん。変だね~」


 ストレートな表現を避けようとして言葉を探して、結局見つからなかった瞳は見て思ったことをそのまま口にしました。


 美星も同じことを思っていたようで、コクコクと頷きを返してくれました。


 この反応にはイケメンも苦笑いです。


「これでも立派なお店なんだよ。それも、ユグードではとびきり有名な、ね」


 ヒジリはヘンテコな形の木を見上げながら言いました。


 ドッシリと大地に根を下ろす木の幹は見るからに分厚くゴツゴツとしていて、外周は〈ヌヌ工房〉とは比べるまでもなく大きいです。


 しかし視線を少しばかり上へ向けてみると、あら不思議。途中から一気に細くなって、そのままお空に向かってぐにゃりぐにゃりとミミズのようにのたくって枝分かれしては伸びていました。中にはいったん下に向かってグルっと回ってから上に伸びている、まさに根性がねじくれた部分もあります。


 アンバランスすぎるそこは、なるほど確かに、とびきり有名になることでしょう。それが例えお店ではなかったとしても。


「こんなところがあったんだね~。わたしもまだまだだ~」


 しょっちゅうお散歩に出かけていながらこんな印象に残りそうなところをチェックしていなかったんて、不肖瞳、一生の不覚! とでも言いたげに額をペチンと叩きました。


「ここからだと見えないけど、裏に回り込むともう一つ面白いのが見られるよ」

「え~?! なになに、見てみよ~よ~!」


 ただでさえ外観に驚いたのに、まだ驚かせてくれるのかと、瞳は大はしゃぎ。手を繋いだ美星の腕がブンブンと振り回されますが、無表情。しかし少女の視線は「まったくしょうがないな~」みたいな生暖かい眼差しでした。


 これではどちらが子供なのかわかりません。


 変わらず手を繋いだまま、グルっと半周して裏側へ回り込みました。


 そこは山のように上り坂になっていたのですが、


「な、なんじゃこりゃ~?!」


 瞳はあんぐりと口を開け、クリクリの目をさらに見開いて大げさに驚きを見せてくれます。


 目の前には見たこともないよくわからない光景が広がっていました。


 斜面が伸び、大きすぎる階段のように段々になっていて、一段一段にドーム状の蔵のようなものがズラリと並んでいるのです。


 異様な光景に、瞳は「ほへ~……」とアホの子になって吐息を漏らすしかできませんでした。


 無表情だった美星も、当然初めて見る光景に驚きの表情を浮かべました。瞳ほど大げさな変化ではありませんが。


 二人が驚いていると、蔵の一つから人影が現れました。


「ふいー……ッス」


 美星ほどの小さな身長で、綺麗な金髪と活発そうな目。そしてあの語尾は間違いありません。


「ヒーナちゃん~!」

「うぇ?! 瞳さんじゃないッスか! どうしてここに?!」


 突然現れた瞳たちにヒーナも驚きの反応。さっきから驚いてばかりです。唯一イケメンだけは涼しそうに微笑んでいました。


「ちょっと時間ができたから遊びに来ちゃった~!」

「おお! それはちょうどよかったッス!」

「ちょうどよかった?」


 なにやらいいタイミングでの訪問だったようです。なにごとかと首をかしげる瞳にヒーナは駆け寄ると、むぎゅ~っと抱きついてきました。


「あぁ……癒されるッスねぇ……」

「よしよし」


 瞳はヒーナと会うといつもこうして抱きつかれます。今回も例外ではなく、甘えん坊の妹のようで優しく頭を撫でてあげました。


 横で美星がちょっぴり唇を尖らせていたのは、ヒジリだけが知るところです。


「やっぱりヒーナちゃんのところも忙しいみたいだね~」

「そりゃあもう大変ッス! 陶芸教室でお客さんが作った作品がどんどん増えていくから整理が追っつかないんッスよ! ちょっと手伝ってくれないッスか?!」

「手伝ってあげたいのはやまやまなんだけど~……」


 その苦労をちょっとしか理解できない瞳は少しだけ考え、手を繋ぐ二人を見ました。


「僕は別に構わないよ」


 イケメンは爽やかに承諾して、


「……わたしも、別にいいです」


 美星もちょっぴり拗ねるような声音でしたが異論はないようでした。


「二人ともありがと~!」


 二度もわがままに付き合ってくれる優しい二人に精一杯の感謝を笑顔で飛ばしつつ、いまだ抱きつくヒーナのつむじを見ながら聞きました。


 ちなみにつむじは右巻きでした。


「整理ってどうすればいいの~? わたしたち部外者だけど平気~?」


 顔を上げたヒーナはひまわりのように満面の笑みを咲かせて頷きました。


「そこは問題ないッス! これでもヒーナはいちもく置かれてるので!」


 普段の行いが良く、師匠か先生か、とにかく上の人に気に入られているからお許しがもらえるのは必然と思っているようです。


 ヒーナはとっても頑張り屋さんですし、それに『一日一善』を心がけているそうなので、その頑張りが認められているのかもしれません。


 瞳に抱きついていたヒーナは離れると、ビシッとキレのいい動きで敬礼のポーズ。


「まずは自己紹介ッスね! ヒーナはヒーナって言うッス! よろしくッス!」

「僕はヒジリ。〈鍛冶屋〉で修行をしてるよ」

「……美星」

「ヒジリさんに、美星さんッスね! よろしくどうぞッス!」


 あふれんばかりに元気一杯の挨拶は周りの人も元気にします。ヒーナの元気はまさにそれで、瞳は疲労が抜けていくのを感じました。


 自己紹介を終え、四人となった一行は、ヒーナの指示のもとで整理のお手伝いをすることに。


「瞳さんとヒジリさんは上の段から下ってくるかんじで。ヒーナと美星さんは下の段ってな具合で分担ッスかね!」


 身長の高い組と低い組で組み分けて、挟み撃ちのように分担作業をするそうです。効率も良いので、それが賢い選択というものでしょう。


「それじゃあ続きから行きましょう! ヒーナたちはこっちッスよ美星さん! 二人もヒーナに付いてくるッスよー!」

「……ぁうっ?」


 猛烈な勢いで美星の手を掴んで階段を登って行ってしまいました。何が起こっているのかわからないのか、美星はポカーンとした表情で引きずられるように引っ張られています。


「相変わらずヒーナちゃんは元気だね~」

「そうみたいだね」


 笑い合うのんびりコンビは、先に行ってしまった小さな背中を追いかけて、ようやく一歩を踏み出しました。


 美星は無口で人見知りをするタイプのようですが、あの様子なら大丈夫でしょう。きっとヒーナの眩しいくらいの真っ直ぐさに、すぐに心を許すはずです。


 少し警戒心が強いだけですから、警戒するだけ無駄だと聡明な美星ならすぐにわかります。


 事実、


「美星さんは【地球シンアース】の人ッスよね? やっぱり観光ッスか?」

「……うん」

「おお! ここはいいとこッスよ! 空気も水も食べ物も、全部美味しいッス! 何か食べたッスか?」

「麺とパンのやつとか、果物とか……」

「そばサンドッスね?! 果物も絶品ッスよね! ヒーナのオススメは、ウチで作った陶器で蕎麦そばをすするのがヤバイッス! 良い意味で!」

「そば?」

「蕎麦って言っても、そばサンドの『そば』じゃないッスよ? 蕎麦っていうのは――」


 といった具合に、ヒーナがお喋りでもガンガン引っ張ってくれています。


 やや一方的ではありますが、これだけ言葉を交わしていればあっという間にお友達です。


「よかったね、美星ちゃん」


 徐々に心の壁も崩れてきて、無表情のその奥に、暖かな笑みが浮かび始めているのを見とって、瞳は小さくこぼしました。




 瞳たちは知る由もありませんが、のちに部外者にお客さんの作品を勝手に触らせた件について、ヒーナがこっぴどく怒られたのは、また別のお話――。


 自分で作ったものならまだしも、許可なく触らせるのはよくないことだと、学んだのでした。

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