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「森の案内」

 いつの間にか〈ヌヌ工房〉にいた謎の少女――美星みほし


 少女が言うには両親は現在デート中で、娘を放ってどこかで楽しんでいるらしいです。


 他人の家族の問題に首を突っ込むつもりはありませんが、放任主義といいますか、ずいぶんと不用心だと瞳は思いました。


 まだ子供なのにこうして好き勝手にさせておくなんて、おとなしくて賢い子じゃなかったらどうなっていたことやら。


 家族の問題に関しては、瞳も自身のことで少々思うところがあったので、自分と重ねて見てしまい、結局放ってはおけず、保護することになりました。


 セフィリアも認めてくれました。ついでにフクロウのヌヌ店長も。今は少女から預かったメモを元に、両親に連絡を取ってくれているはずです。


 現在、瞳と美星はしっかりと手を繋いで、森の中を散策しています。最近は仕事が忙しくて日課になっていた散歩ができていなかったので、瞳は少しだけルンルン気分でした。


 ――きゅるるんるん……。


 瞳のお腹が可愛らしい音を奏でました。胃袋もるんるん気分のようです。


「あ~、そういえばわたしお昼まだだったっけ~」


 昼食について悩んでいるタイミングで美星が現れたので、すっかり忘れていました。その美星が、無表情な目を向けて聞きました。


「おなかのおとです?」

「うん~。えへへ、何か食べよっか~」


 美星はすぐ隣を歩いていますし、とても身長が低いので、さぞ瞳のお腹の音がよく聞こえたことでしょう。耳の位置的には瞳よりも近いですし。


 瞳は頬を朱に染めて、はにかみながら聞きました。


「美星ちゃんは~? お腹すいてる~?」

「すこし」

「よ~っし、じゃあわたしのおすすめを教えてあげる~!」


 食べることはとっても大好き。それがおいしいものならばもっと大好き~! な瞳は空腹を訴えるお腹に満足していただくため、目的地を定めました。


 こういうときは非常に頼りになる一品があります。

 

 そう。太っ腹なおじさんが経営している出店の焼きそばサンド、略してそばサンドです。


 あれならば歩きながら食べられるし、味も申し分ありません。お値段的にも良心的! これ以上のものはないでしょう。いや、あるかもしれませんが、瞳の手札から切れるカードとしては間違いなく最善でした。


 出店に到着した瞳と美星でしたが、


「ぁおう、なんてこった~い……!」


 悲壮感たっぷりに絶望する瞳。もはや四つん這いになってこれ以上ないくらいに落ち込んでしまいました。


 遠目から見た時点で気づいてはいましたが、なんだったら視認する前から聞こえてくる喧噪でとある可能性には思い至っていました。


 繁盛していて、ずらりと行列ができていたのです。


 人だかりの隙間から見えるおじさんの忙しさっぷりったらありません。せわしなく動き回り、商品を作りながら接客をしてお会計をこなして、いくつもの作業を同時に並行して行っていました。


 なんとなくわかってはいましたが、とてつもない経験と手腕の持ち主でした。


 テキパキとやるべきことをこなしていて、接客業のスキルも必要な瞳には参考になりそうな点もたくさんありました。


 ですが、いま重要なのはそこではありません。


 ――きゅぅぅぅぅん…………。


 とうとう瞳のお腹が雨にずぶ濡れの子犬のような、悲壮感たっぷりに鳴きました。これはマズイです。


 周囲では美味しい匂いが立ち込めているし、実際に食べている人もたくさんいます。空腹感がどんどん刺激されてしまいます。


 口の中に大量のよだれが出てきて、それをゴクリと飲み込みます。


「あれ、森井さん?」


 行列に突っ込もうか、潔く諦めて別の何かにしようか決めあぐねていると、爽やかな青年の呼び声が聞こえました。


「ヒジリさんだ~こんにちわ~」


 声のした方を向けば、そこには木工道具の整備なので日頃からお世話になっている〈鍛冶屋〉に勤めている、銀髪の爽やかなイケメン――ヒジリがいました。


 彼は瞳がこの時間は〈ヌヌ工房〉で働いていることを知っているので、不思議そうな顔をしています。


「こんにちわ。こんなところで何してるの? そっちの子は?」

「えっと……この子、迷子みたいで。ちょっとだけウチで預かることになったの~。それでお昼にここのそばサンドを食べようかと思ったんだけど――」


 瞳のクリクリな目は長~い行列を捉えました。それを見て、青年はやすやすと察します。


「ああ、これじゃあ難しいだろうね」


 ヒジリは困ったように苦笑いを浮かべます。続けて「うーん……」と整った顔を思案顔にして、何かを考え始めました。


 くいくい。


 服の裾を軽く引っ張られる感覚。不思議そうな顔をして美星が瞳を見上げていました。


「この人はだれです?」

「ヒジリさんだよ~。お仕事でよくお世話になってるの~」

「……ボーイフレンドじゃないです?」

「え? ん~、友達とは思ってるけど、恋人とかじゃないかな~、あはは……」


 いきなりそんなことを聞かれるとは思っていなかった瞳は、妙な居心地の悪さのような、よくわからないモヤモヤが胸を満たしましたが、勤めて平静に答えました。


 瞳の答えに「そうですか」と素っ気なく返すあたり、冷やかしたりするつもりはないようです。ただ単に気になっただけでしょう。


 と、思ったのですが、


「お似合いだと思うです」

「へ? なにが?」

「おふたりがです」

「まさか~」


 誤魔化すように笑顔を浮かべて言いますが、体温が急上昇しているのが自分でわかるほど体が火照っていました。顔は赤くなって、美星と繋いだ手からはそれがハッキリと伝わってしまったことでしょう。


 一人考え込んでいて話が耳に入っていなかったヒジリは、何かを決心したように小さく頷くと、口を開きました。


「森井さん」

「あい?!」

「もしよかったら――、なんか顔赤いけど大丈夫?」

「大丈夫~! もしよかったら、なに?」

「なら、いいんだけど。もしよかったら、買ってきてあげるよ、そばサンド」


 瞳の赤面にすぐさま気が付けるあたりさすがイケメンでした。


 それはそうと、彼の申し出は非常にありがたいものでしたが、瞳は疑問に思いました。


「この行列なのに? どういうこと~?」

「実はちょっとした……ツテみたいな感じのがあって、すぐに買ってあげられると思うんだ。どうかな?」

「ん~……」


 瞳は考えました。特に悩みませんでしたが、考えました。


 ヒジリが何を思ってそのような提案をしてくれたのかは瞳にはサッパリわかりませんでしたが、すぐに手に入ると言われては断る理由はありません。それくらいに瞳はそばサンドが大好物になっていました。


 他人の善意はありがたく、ありがた~く受け取ることにしている瞳は頷きました。


「じゃあ、お願いしてもいいかな~?」

「まかせて。それじゃあちょっと行ってくるから、ここで待ってて」


 清涼感たっぷりなスマイルを浮かべて太っ腹なおじさんの元へ向かうヒジリ。偶然彼のスマイルを目撃した女性の旅行客は目を奪われ、うっとりとしていました。


 ヒジリが人混みに紛れて見えなくなってからわずか数分で、戻ってきました。両手には、宣言通り、出来立てのそばサンドが入った紙袋が抱えられています。


「おまたせ」

「ぅお~! ホントにそばサンドだ~! ありがとうごさいます~」


 瞳は勢いよく何度も頭を下げます。どれだけ好きなのやら。


「どういたしまして。役に立てたのなら何よりだよ。そっちの子も、口に合うといいんだけど」

「スキキライはないので平気、です」

「それはよかった。それで、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

「あい。なんですか~?」


 この行列の中、裏ルートでそばサンドを買ってきてくれた恩人に対して断る理由などありません。


 彼は頬をかいて、少し言いづらそうにしながらも、しっかりと伝えました。


「僕も、ご一緒してもいいかな?」

「あい! もちろんですとも!」


 やっぱり断る理由なんてありませんでした。即答した瞳は、やけに嬉しそうでした。


「やっぱりお似合いだと思うです」


 微笑み合う二人を見て、少女はポツリと呟くのでした。

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