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「気付かぬ間にお友達」

 ――前略。


 お元気ですか? わたしは元気です。


 バラバラになった組み木の件を覚えているでしょうか? 木で出来た立体パズルのやつです。


 あれなんですけど、未だにバラバラのままです。もちろん今でも思い立ったときには挑戦しているのですが、どうしてもわからなくって元に戻せません。


 正解をセフィリアさんに聞くのもなんだか悔しくって、自力で元に戻してやる! って意地になっちゃってます。


 そうこうしているうちに、愛着まで湧いてきちゃったりして。特に意味もなく弄んだりしていることもしばしば……。


 なんだかこの組み木一つ一つから感情が流れてくるような気がするんです。


 それに触れていると、不思議と落ち着いてくるんですよ。


 これを作ったネリネさんという方の気持ちが込められているからでしょうか? とっても穏やかな気持ちになるんです。


 摩訶不思議、です。


 どうすればここまで物に気持ちを込めることができるんでしょうか?


 きっとわたしの想像を軽く超えるような修行をしたに違いありません!


 これは負けてはいられませんね! 頑張ります!


 草々。


 森井もりいひとみ――3023.6.25




   ***




〝あら、いけない。お砂糖を切らしているのを忘れていたわ〟


 という一言をきっかけに、瞳はお使いへ出掛けていました。ついでにその他の無くなりそうな調味料や食材もお願いされて。


〝とっても沢山になっちゃったけど、一人で大丈夫?〟

〝あい! 平気ですよこれくらい~!〟


 もちろん断る理由もなく、快諾した瞳はセフィリアのお役に立てるとあってなんだか嬉しそうでした。


 その帰り道。


 買い物リストに書かれたものをすべて揃えると、一人で抱えるにはいささか無理のある量になってしまいました。


 少々張り切りすぎてしまったようです。


「んっしょ……こらしょ……」


 と、おばあちゃんのようにいちいち声をあげなければ一歩が前に踏み出せないほどです。


 ユグードは森の中の街なので、しっかりと整備された道はあまりありません。だいたいは人の足で踏み固められたものが道として出来上がっています。


 いくら日々のお散歩で歩き慣れてきたとはいえ、抱えた荷物のせいで足元がおぼつかないのであれば、おっちょこちょいの瞳のことですから、転んでしまうことでしょう。


「っととと……」


 すでにふらふらで、危なっかしいことこの上ありませんでした。


 そのときです。少し幼い、女の子の声が聞こえてきたのは。


「おねえさん。ヒーナが手伝うッスよ」

「ほへっ?」


 思わず立ち止まります。


 確かに声が聞こえてきましたが、その姿が見当たりません。


 瞳は体の向きを90度変えると、ようやくその姿を捉えることができました。抱えた荷物が邪魔で、正面に立つ小さな女の子が見えなかっただけでした。


 その女の子は、まるで一つ一つ丁寧に作られたお人形さんのようでした。


 真っ白な肌に眩しいくらいの金髪のショートヘアー。大きな目は宝石のように深い蒼に染まっていて、吸い込まれそうなほどです。


 瞳は先程の言葉を思い出し、首をかしげました。


「手伝ってくれるの~? いいの~?」

「もちろん! ヒーナにお任せッス!」


 ッス?


 と、聞き覚えのない不思議な語尾に疑問が浮かびます。


 ですが、そんなことは些細な問題。


 既に限界が近付いていたので、瞳は素直に助力を求めることにしました。わざわざ小さな子が声を掛けてくれたのに断るのも忍びないですし。


「ありがとうヒーナちゃん」

「どういたしましてッス!」


 瞳から荷物を半分受け取ってから、ヒーナと言うらしい少女は驚きで大きな目をさらに大きくしました。


「っておねえさんなんでヒーナの名前がヒーナってわかったッスか!? もしかしてエスパーッスか!?」


 自分のことを自分の名前で呼んでいることを自覚していないのでしょうかこの子は。


「なんでって……あれ、なんでだっけ~?」


 こっちもこっちで馬鹿でした。自然に受け入れすぎて、気付いていないようです。


「でもヒーナもおねえさんこと知ってるッスよ! ヌヌ工房の人ッスよね! あのセフィリアさんとこの!」

「え、なんでわかったの~? もしかしてエスパー?!」

「フッ……!」


 瞳の反応に満足したのか不敵な笑みを浮かべるヒーナでしたが、それはわかる人にはわかります。


 なぜならば、ヌヌ工房の制服を着ていますから。簡単な問題でした。


 瞳が、「ハッ! そういえばわたし制服着てた~!」と気付くのは、この日の寝る直前になります。


「それはさておき、行きましょう! 行き先は〈ヌヌ工房〉で合ってるッスか?」

「合ってるよ~。行こ~!」

「「おー!」」


 まるでこれから遠足に行くような雰囲気です。


 歩を揃えて二人はヌヌ工房へ歩き出しました。荷物の半分程をヒーナが引き受けてくれましたから、足取りはかなり軽くなりました。


 おかげさまで口も軽くなったのか、瞳はほいほい喋ります。


「ヒーナちゃんはいくつなの~?」

「13ッス」

「ほお」


 なにが「ほお」なのかわかりませんが――


 13歳でこの可愛さとは、学校ではさぞ人気があるんだろうな~、なんて思いました。いつの時代も、よく笑う女の子はモテるのです。


 瞳も【緑星リュイシー】に来る直前までは学生でしたから、学生という身分を懐かしみながら聞きました。


「13ってことは、中学一年生かな~?」

「いちねんせい……? ああそういうことッスか。おねえさんは【地球シンアース】の人ッスもんね」


 少女は何かに納得したかのように頷きます。


地球シンアース】と【緑星リュイシー】の人の違いは、髪や肌や瞳の色でわかります。全体的に薄かったり明るかったりするのが【緑星リュイシー】の人で、ユグードの森の人は特に顕著です。


「そうだけど、それがどうかしたの~?」


 ヒーナは深い蒼の目を前に向けながら、指を立てて答えます。


緑星リュイシー地球シンアースの大きな違いは時間ッス! これがそのまま答えになってるッス!」

「???」


 そのまま答えになっていても、あまり頭のよろしくない瞳は首をかしげまくりました。年下の女の子に遊ばれているようにも感じられます。


 それでも笑われないように頑張って頑張って考えて、とうとう瞳は答えに辿り着きました。


「あっ、そうか~! 緑星こっちの一年は地球むこうの三年に当たるから、何年生とかは無いんだ!」

「大正解ッス!」

「うあ~い!」


 ということはつまり、小学生だと二年生までしかないということになります。


 さらに【緑星リュイシー】の入学式は年に一度なので、同じ学年でもわずかに年齢差が生まれます。


 これが、【緑星リュイシー】に暮らす人々がフレンドリーな理由でした。年上年下。先輩後輩。そういった概念が薄いのです。


 なるほどなるほど~、と納得しつつ、二人は〈ヌヌ工房〉へ向かって楽しそうに話しながら歩きました。


 日中を照らしてくれる陽虫と入れ替わるように、ポツポツと輝きを灯していく夜虹石やこうせきに道案内されながら。

次回は翌日の16時に更新します。よろしくお願いしますm(_ _)m

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