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夢色彩のカーバンクル  作者: 倉元裕紀
第9章 アスリート・レオン
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診断と確認



 昼食の為に、レオンとステラは一度宿場に戻る事にした。

 ところが、玄関の両扉の脇にエプロン姿の女の子が仁王立ちしていたので、多少意表を突かれた。両手いっぱいに巨大なバスケットを抱えていたので、遠くからでも相当目立って見えた。

 ある程度距離が詰まったところで、その少女もこちらに気付いたらしく、楽しそうな表情と共にこちらに駆け寄ってくる。巨大な物を抱えているとは思えないほど、上体の安定した自然な走りに感心させられた。

 そして、レオンの目の前で立ち止まるや否や、半ば強引にバスケットを押しつけてくる。

「え?ちょ、ちょっと・・・」

 慌ててそれを受け止めるレオン。肩の上で眠っていたソフィは揺れが気になったのか、あっという間にステラの肩へと飛び移って避難した。

 それを可笑しそうに見届けて、ベティは一仕事やり終えた後のように額を拭った。

「よかったよかった。もうすぐ帰ってくると思って、待ち伏せしてた甲斐があったなー」

 膝を使いながら両腕の中のバスケットを安定させてから、レオンはしばらく考えて尋ねる。

「えっと・・・とりあえず、これ、何ですか?」

 中からは香ばしい匂いが漂ってくる。間違いなく肉料理だろう。香草があまり効いていないので、恐らく牛肉という程度の見当はついていたが、どうしてこんな物を持って玄関で張り込んでいたのかは分からない。

 ベティは一歩ステラの方に踏み出てソフィを撫でながら、簡単に答える。

「お昼ご飯。久しぶりにフィオナさんのところに差し入れしようかと思って、だったらついでに4人分作っちゃえってね」

「はあ・・・」

 生返事のレオンの脇で、ベティを目の前にしたステラは少し首を傾げていた。

「でも・・・朝、そんな事言ってなかったのに」

 言ってくれていたらちゃんと待ち合わせしたのに、というステラらしい意見だったが、ベティはやはり屈託なく答えた。

「急に思いついたんだよ。ごめんねー」

「あ、ううん。別に・・・」

「それに、そろそろ調子を診て貰ってもいいかなってね。ステラ、一応元気そうだけど、やっぱりフィオナさんのお墨付きがあった方が安心だし」

 その言葉を聞いたステラは、少し申し訳なさそうだった。

「うん・・・ごめんね。心配かけて」

 逆に、ベティの表情はそれを補って余りあるほど明るい。

「いいんだって。私が勝手にやってるだけだし」

「だって、他の見習いの人よりも・・・」

「確かに、普通の見習いとしてならちょっと過保護かもしれないけど、私はステラが友達だから心配なだけ。友達の心配するのなんて、普通でしょ?友達がたまたま冒険者目指してるだけなんだから、ステラが気にする事ないよ」

 そう言うなり、ベティはステラの手を取って、今度はこちらに微笑みかけてくる。

「というわけで、レオン。私、ステラが逃げないようにしないといけないから、この通り片手がふさがってるんだよね」

 要するに、自分の役割は荷物持ちらしいという事にレオンは気付く。しかし、全く腹は立たない。むしろ、彼女の気遣いが嬉しかった。

「はい。これくらいなら別に・・・」

 微笑みながら言ったレオンに、ステラが心配そうに告げてくる。

「でも、レオンさん、左腕・・・」

 怪我を負ったばかりなのは確かだが、バスケットはそれほど重くないので問題ない。それに、いざとなったら治癒魔法を使えるジーニアスがいるから、すぐに応急手当してくれるはずだ。

 心配ないよというつもりで微笑んでみせると、そのままベティに引っ張られるようにして、ステラも歩き出した。その2人の後ろを少し遅れて、レオンも着いていく。

 フィオナの家に着くまでの道中、ベティとステラはたわいもないお喋りに花を咲かせていたようだった。その後方でレオンは、肌を刺激するような冷たい風と、暖かいバスケットの温もりを感じながら、ゆっくりと物思いに耽る事が出来た。

 自分が本当はどうしたいのか。

 何を怖がっていたのか。

 今なら分かる気がする。もちろん、分かった気になっているだけなのだが。そんな一朝一夕で解決するような問題では、きっとないからだ。

 ただ、その曖昧な確信を伝えるべき人が誰なのかは、もちろん分かっていた。

 それを態度で示すべきなのは誰なのかも。

 何より、きっとこの町の人全てに、感謝を示さなければならないのだろう。 

 こういう感覚は、実はレオンの村ではあまり馴染みがない。

 何故なら、皆で助け合うのが基本とはいえ、それでも皆が皆、一様に自立した人達だったからだ。深い繋がりがなかったわけではないけれど、それほど他人の助けを必要としないのである。

 それはきっと、厳格で強い人ばかりだったからではない。

 村は狭過ぎるのだ。

 自分達の生活が全てだった。それ以上の事に視野を広げる必要がなかった。人の繋がりも本当に小規模だったのだ。だから、悩みも自分で昇華してしまえる程度の規模にしか育たない。本当に、ある意味でのどかに生活出来るところなのである。

 だけど、自分はその場所を飛び出した。

 その動機はある意味で惨めなものだ。自分に自信が持てなくて、自分の存在を疑う事に耐えられなくて、とにかく逃げ出したかったのだから。人を救える人間になりたかったのは、たった1人、自分を救いたかっただけなのだ。輝かしい自分を夢見る事で、いろいろな事を忘れたかったのもあったのかもしれない。

 でも、忘れていた事に気付いてしまって、また逃げ出そうとした。

 どうしようもなく、自分が怖かった。そんな愚かな動機の為に、大事な人を危険に晒しているのだ。そんな愚かな自分を隠して、皆に好かれようとしている。それが怖かった。上辺だけ繕っているようにしか思えなかった。これでは、本当に人の皮を被っているだけだと思えたのだ。

 しかし、今はそれも違うと、なんとなく分かる。

 本当に大事なのは、もっと広い視野だ。世界を包んでしまえるような、そんな瞳だ。誰もが共有している夢を、一緒に見ている事なのだ。

 自分が惨めだとか、愚かだとか、それは本当に小さな事だ。確かにレオンは自分に自信があるわけではないし、どうしようもなく嫌になる事もある。それでも、皆が皆、自分のどこかに欠点を見いだしている。それはきっと、ある程度の大人であれば常識とも言える事だ。

 もっと大事なのは、それを俯瞰する事だろう。皆がそうだと理解して、そして、それでも皆を許せる事だ。自分独りが汚れているわけではない。それが分かれば、ただ世界が華美に見えていただけだとも分かる。

 今のレオンには分かる。前の自分はきっと、まだ新しい環境に慣れていなかったのだ。村での小規模な視野に囚われてしまっていた。

 そんな事を考えているうちに、緑の多いフィオナの玄関に辿り着く。

 いつも通りと言えばそうなのだが、軽くノックをしただけでベティは勝手に上がり込んでいった。他の場所だとノックもない事が多いので、彼女なりに礼儀を払っているつもりなのかもしれないが、ステラは未だにその流儀に慣れない様子だ。

 それでも、いつも通りの柔らかい笑みで、フィオナがすぐに出迎えてくれた。ウェーブした長い髪が暖かそうなニットの上着に流れている。今日は珍しく黒い上着だったものの、下は柔らかそうな水色のスカートだった。

「あら、まあ。いらっしゃい」

「フィオナさん、お昼まだだよねー?差し入れ持ってきたんだけど」

「そうなの?嬉しい」

 そんな会話をしながら、ベティを先頭に、レオンとステラも中にお邪魔する。

 ベティは料理の準備があるとかで、すぐにキッチンへと入ってしまった。他の3人も手伝おうとしたが、別の仕事を頼まれてしまって、早々に追い出される。

 そういうわけで、ダイニングテーブルの周りに、レオン、ステラ、フィオナが集まっていた。具体的には、イスに座らされたステラの調子を、立ったまま肩に触れたフィオナが診ているという状況である。なんとなく1人だけ座るのも悪くて、レオンはテーブルの反対側に立っていた。いつの間にかソフィの姿が見えなかったが、ふと探してみると、妖精はキッチンとダイニングの境界の辺りで、ステラとベティの様子を交互に眺めているようだった。どちらの肩が安定的な寝床となり得るのか、見定めているのかもしれない。

「・・・無理はしてないみたい」

 しばらくしてからフィオナはそう言って微笑んだ。

 すると、キッチンの方からベティの声が飛んでくる。

「よかったー。来た甲斐あったね」

 その言葉に微笑みながら、フィオナは座ったままのステラに告げる。 

「前よりも流れを整えるのがだいぶ上手くなったと思う。最近、身体の調子もいいでしょう?」

「あ、はい。多分・・・」

「でも、やっぱりちょっと神経質というか、几帳面過ぎるのかも。いつもこんなに整然とさせていると、気が張ってしまうと思うから、そこは気を付けてね」

「はい」

 頷くステラに、フィオナはすぐに尋ねた。

「レオンは診てあげた?」

「あ、えっと・・・」

 言いにくそうにしながら、ステラはこちらを見る。いろいろあったので、最近は診察して貰っていなかった。そう言うのは簡単だったが、突っ込まれて聞かれると困るので言い出しにくいのだろう。

 しかし、フィオナはそれ以上何も聞かずに、あっさりと言った。

「だったら、今診てあげて。準備出来るまでもう少し時間があると思うから」

 そう告げるなり、フィオナはキッチンへと歩いていく。盲目の彼女だが、床のソフィもしっかりと感じ取れていたらしく、慣れた様子で避けていった。

 取り残される見習い2人。

 こちらを見たステラが青い瞳を何度か瞬かせる。ややあってから気付いたように立ち上がったものの、怖ず怖ずといった様子で尋ねてきた。

「えっと・・・み、診てもいいですか?」

「・・・あ、うん。じゃあ、お願い」

 冒険者を止めたいと言い出した事もあって、彼女なりに遠慮していたのだろう。だから尚更、自分がはっきり意思表示しなければならないと悟り、レオンはその短い言葉を迷いなく伝えた。

 ステラは表情をあまり変えずに頷いて、テーブルを回ってこちらにやってくる。しかし、その小さな顔の端々に、どこか陽性な感情が大きく滲み出ている気がした。

 持ち上げたレオンの左腕に、彼女の両手が触れる。洋服の生地越しでも分かるほど、温かい手だった。

 しばらく、無言。

 キッチンからベティとフィオナの話し声が聞こえてくるので寂しくはない。むしろ、植物の鉢が多くて温かみのある部屋だ。自分のすぐ隣からは、やや冷たいものの、慣れ親しんだ暖かい風のようなものを感じる。

「・・・あの、今更なんですけど」

 不意にその声が聞こえて、レオンはステラを見た。

 彼女はこちらを見上げる事はせず、じっと傷の辺りを服の布越しに見つめている。

「あ、うん。何?」

「その・・・私、怪我をする前のレオンさんの左腕、じっくりと観察した事がないので、怪我をする前と比べてどうなのか、あまりはっきりとした事が言えないような気がします」

 確かに、そう言われてみればそうかもしれない。

「うーん・・・あ、そうだ。右腕と比べてくれたらいいよ。僕、一応両利きだし」

「ああ・・・そ、そうですね。そういえば」

 小刻みに頷いたステラは、やや間があってからようやく告げる。

「えっと・・・はっきり言って、筋力は凄く落ちていると思います」

「凄くってどれくらい?」

 そこでもまた間があった。ステラの言い出し難い心境は手に取るように分かったが、こればかりははっきり言って貰うよりない。

「多分、元に戻るまで数ヶ月かかります。それは単純な筋力だけの場合で、剣や投擲の技術が戻るには、もしかしたら1年かかるかもしれません。ただ・・・」

「ただ?」

 ステラは顔を上げてこちらを見た。睨みつけるようにも、不安に押しつぶされているようにも見える表情だった。

「私はちゃんとしたお医者様ではありません。ですから、人間の身体が・・・いえ、アスリートの筋肉がどれくらいの速さで成長するのか、そういった知識がほとんどないんです。それに、私は子供の頃から男性と関わってこなかったですし、兄も逞しいとは言えない人でしたから、ほとんど予備知識がない状態なんです」

 レオンは何度か頷く。

 要するに、男性の身体の事はよく分からないと言いたいのだろう。そのまま言うのは気恥ずかしいのか、回りくどい言い方になっているだけだ。

 結局は、自分の努力次第と言える。

 死ぬ気で訓練すれば、もしかしたら冬が終わる前に、あの場所に戻れるかもしれない。

 そんなに急ぐ必要はないと言われるかもしれない。しかし、1年という約束は約束なので、出来るだけ反故にはしたくない。ガレットに頼めば、事情が事情なので或いは延長してくれるかもしれないし、一度村に帰ってからまた再挑戦という屁理屈みたいな手段もある。だけど、それは嫌だと、心の中で正直に告げる自分がいた。

 そして、その素直な叫びが、とても心地よく心の中に響くのだ。

「シャーロットに頼んでみたら?」

 ちょうどその時、キッチンから皿を持って戻ってきたフィオナがそう言った。

 どういう意味か分からずレオンが首を捻っていると、彼女はテーブルに皿を並べながら簡単に補足してくれる。

「怪我が治るまで、ルーンで腕力を補助をするとか、出来るんじゃない?」

「あ・・・」

 何かに気付いたようにステラは声をあげて、そして、こちらを見てゆっくり頷いた、

 そこでベティが大きな鍋と共に戻ってくる。湯気と共に酸味系の香りが部屋に広がっていた。

「そうそう。現役の冒険者でも、結構そういう人いるよ。腕とか脚とかに、小さなルーンのついたベルトを巻いてる人いるでしょ?」

「え?あ・・・はい」

 反射的に答えるレオンに、ベティは明るく言った。

「あれは戦闘用じゃなくて、怪我とか年齢とかで落ちた体力を補強する為の物なんだよ。あんまり大した効果はないんだけど、そういう時はちょっとでもブランクを作りたくないって、結構重宝されるみたい。元々用途がないくらいの小さなルーンなら、身体の負担も少ないし、何より安いしで、まあ、御守りみたいな気持ちで着けてる人も多いみたいだけど」

「へえ・・・」

 感心するレオン。そういえば、酒場の現役冒険者の中には、明らかに実力に比べて小さ過ぎるルーンを身に着けている人もいた。あれは純粋な戦闘装備ではなかったのだ。

「怪我だったら、治りに応じて段々効果を弱くしていけばいいし。年齢の場合は、ルーンの補強で追い付けなくなったら引退するって人も多いみたい」

 そう言いながら、テーブルの真ん中に置いた鍋の中身を、お玉でかき混ぜるベティ。

 両手をテーブルに軽く突いて、フィオナが優しく告げる。

「私のルーンもシャーロットが調整してくれた物だから、腕前は間違いないと思う。ルーンや魔法の事もそうだけど、人の身体についても随分勉強してくれたもの」

 その点は全く疑っていなかった。彼女はただの看板娘というわけではなく、れっきとした店長なのだから。

 ただ、やはりそれもしっかりと立場を決めてからの話だ。ルーンの装備を作るには多大な出費が必要で、今までの貯金もレオンだけの物ではない。

 結局、彼女にしっかりと言わないといけない。

「ステラ」

 レオンはステラに真っ直ぐ向き直る。

 彼女は驚いたように目を見開いて身体を硬直させたが、黙ってこちらを上目遣いに見つめていた。

 その青い瞳を見ながら、レオンは考える。

 何て言うべきだろうか。

 まずは、謝らないと。

 しかし、そこであっけらかんとした声が脇から割り込んできた。

「いい雰囲気なところ悪いんだけど、もうちょっと人目を気にして欲しいなー」

 その言葉に一番驚いたのは、他の誰でもないレオンだった。こういう言い方もなんだが、フィオナやベティがいる事をすっかり忘れていた。

 ベティはその様子を見て、ニヤリと口元を上げる。

「さすがに、今から見て見ぬ振りしろっていうのも、ちょっと無理があると思うしねー」

「私は最初から何も見えてませんけど」

 珍しく悪戯っぽく付け加えるフィオナ。確かに見えてはいないのかもしれないが、並外れた魔法的感覚を備えている彼女だから、ほとんど見えているのと一緒である。

 そこでレオンは一旦ステラの様子を窺う。傍目に見ても、明らかに動揺しているとしか思えない。こちらがびっくりするほど顔を真っ赤にして、ベティの顔を凝視している。

 しかし、レオンは至って穏やかに、ベティに答える事が出来た。

「とりあえず、お昼にしましょうか」

 ブラウンの瞳を大きく瞬かせるベティ。

「・・・うわー。レオンも成長したね。いつもの禁断症状が出るかと思ったのに」

 大袈裟な言い方に、レオンは少し吹き出す。

「禁断症状って・・・まあ、いいですけど」

「やっぱりほら、私の鍛え方が良かったのかな。うんうん。せめて咳が出ないくらいにはしてあげようと思ってたんだけど、頑張った甲斐があったなー」

「よく分かりませんけど・・・ありがとうございます」

 余裕の表情で告げたレオンだったが、そこで邪な笑みを見せたベティに、嫌な予感を感じられずにはいられなかった。

「よし・・・じゃあ、今日からはもうちょっと過激なメニューに変更しとくから」

「・・・いえ、あの、別に今まで通りでも」

「ダメダメ。いついかなるケースでも対処出来るように、日頃から精進精進」

 そこでレオンは、一応言葉を選ぶべく時間をかけた。しかし、あまり気の利いた言葉は思いつかなかったので、結局一番シンプルな尋ね方をする。

「・・・それ、ちゃんと精進で済みますよね?」

 個人的な印象としては、いつか呼吸困難で命が脅かされてもおかしくはないと思えるほど、ベティの自称訓練は油断ならないのだ。

 彼女はやたら重々しく頷いて、自信満々に答えた。

「大丈夫。なんといっても、私が自ら訓練をつけてるわけだし」

 それが一番不安だったりするのだ。

「・・・とりあえず、無茶は止めて下さいね」

「うーん、まあ、寝ているところに奇襲とかはまだしないから、多分大丈夫」

 まだって事は、いつかする気なのだろうか。

 そう思っていたレオンの顔を見ながら、ベティは口元を上げた。

「もしかして、私よりもステラにして貰った方がいい?」

 さすがにそこで禁断症状、もとい咳が出た。

 本人が隣にいるというのに、その発言とは恐ろしい。隣を見る勇気はないが、ステラの顔が一層朱くなっているのが手に取るように分かる。血が上り過ぎて倒れたりしないだろうかと、本気で心配になった。

 しばらく楽しそうにその様子を眺めていたベティだが、やがて少しだけその表情を穏やかにして、近くに重ねて置かれていた器を手に取った。

「じゃあ食べよっかー。お腹空いたし」

「そうね。頂きましょう」

 フィオナが軽く両手を合わせた事で、空気まであっという間に穏やかになる。

 そのまま昼食という事になったが、レオンの頭の中には、今日の午前の事がもちろんまだ鮮明に残っていた。

 それをしっかり昇華して、伝えるべき人に伝えないと。

 昼食のローストビーフに舌鼓を打ちながらも、レオンはその作業で頭がいっぱいだった。



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