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夢色彩のカーバンクル  作者: 倉元裕紀
第6章 サマー・フェスティバル
64/114

エンジェリック・ワード



 外観は黒が基調の地味な印象がした馬車だったが、中は白が基調の高級な雰囲気だった。同じような色合いの服を着たステラやベティ、そしてユノは違和感なく溶け込んでいたものの、逆にレオンとアデルは普段着そのものだったので、どうにも居心地が悪い。特にアデルは、自分の服装への不満をしきりに口にしていた。男達と行動を共にしていた時の彼女の振る舞いは、やはり演技だったらしい。口調もかなり落ち着きがあって、先程までの派手な印象から、今は落ち着きある大人の印象に変わっている。

 そして、クリスティアナ。

 それがステラの叔母の名前だという事は前から聞いていたものの、いざ目の前にしてみると、納得というか、ある意味それ以上の印象だった。

 本当にステラそっくりなのだ。

 年齢以外の違いと言えば、彼女の髪が背中を優に越す程長いという事。繊細な黄金のロングヘアは、まるで織物を身にまとっているようにも見える。まさに芸術品、しかも至高の名品なのは間違いない。ここまで綺麗な人間の髪を見たのは、レオンはもちろん初めてだし、以前なら、まさかこんな髪が存在するとも思えなかっただろう。実際目にしたから信じられたようなものの、そうでなければ想像だに出来なかったのは間違いない。まさに想像を絶するとはこの事だ。

 そして、深みある碧い瞳。驚いている一歩手前くらいの、大きくて印象的な瞳で、白い肌や金の髪の中にあるその深い色には、思わず引き込まれそうになる。湖くらい深いと言っても、もしかしたら差し支えないかもしれない。

 さらに、まるで名工がしつらえたかのような、小さく整った顔。その優美な身体を包む、白くて柔らかそうなワンピース。

 自分は圧倒されている。レオンはそう感じていた。あまり女性の容姿を評価した経験のないレオンだったが、それでも分かる。本当に自分と同じ人間だろうかと思ってしまったほどなのだ。

 この人ほど、綺麗という言葉の似合う人はいない。

 これが本物の、高貴な女性。

 レオンはそのクリスティアナと向かい合う少女の横顔を見る。

 最初に出会った時から、彼女の事を冒険者見習いとして見ていた。上品な仕草をしたり言葉遣いが丁寧だったりもするけれど、普通の少女のように笑ったり悩んだりもする。彼女を貴族として見た事はなかったと言ってもいい。

 でも、今は確かに、深窓の令嬢だった頃のステラが垣間見える。

 髪を伸ばして、綺麗な服を着て、静かに佇んでいたのだろう。そして、それが相応しいと皆に思わせるほど、綺麗な少女だったに違いない。

 いや、だったのではない。

 今もそうなのだ。

 自分がイメージ出来なかっただけで、町の人は彼女の雰囲気に気圧されていた。彼女の高貴な雰囲気を感じ取っていたのだ。

 ステラは間違いなく貴族の娘。

 高貴で美しい娘なのだ。

「可愛い姪に会えて光栄だわ。こんな事件がなければ、もっと良かったでしょうけれど」

 クリスティアナは落ち着いた笑みを見せつつも、どこか楽しそうである。

 対するステラは少し緊張気味だった。やや伏し目がちにして、初対面である叔母の顔色を窺っているように見える。

「はい・・・私も光栄です。叔母様」

 2人は窓際に座っている。その隣にベティとユノがやはり向かい合って座っていた。どちらもサポート役という事なのかもしれない。通路側にはレオンとアデルがいるが、服装からして、この場の雰囲気から弾き出されている感はあった。

 年齢の差もあるのだろう。今は完全にクリスティアナのペースである。

「どうしたの?そんなに緊張して・・・と聞くのは、もしかして意地悪かしら」

「い、いえ・・・」

「貴女の事を私が姉に知らせるんじゃないかって、そう考えているのでしょう?」

 姪の表情に動揺が走る。

 そこでベティが口を挟んだ。

「あのー、それよりも、どうも話を聞いている感じだと、ステラにナイフを突きつけたのは、そこの女の人らしいんですけど」

 言葉はむしろいつもより丁寧だったが、目は軽くアデルを睨んでいる。

 その視線に気付いたらしく、アデルは肩をすくめる。

「まあそうだけどね。しかし、どうせあいつらに目を付けられていたのは一緒なんだからさ。私がやらなかったら、別の奴がやっていただけの事だよ。もっと乱暴にされていた可能性だってある。女の子の身体に傷をつけるのなんて、あいつらはなんとも思っちゃいない。交渉というか、恐喝する時は何とでも言うけど、結局は綺麗なものを見ると傷つけずにはいられない。そういう連中なんだからね」

 そこでステラがユノとアデルに向かって頭を下げる。

「あの、本当にありがとうございました」

 アデルは苦笑する。

「礼を言われる筋合いはないよ」

 ゆっくりと首を振ってから、ステラは答えた。

「いえ・・・あの、私の事を気遣ってくれたんですよね?ずっと腕を掴まれてたのは、私の事を捕まえているんだと思ってましたけど、よく考えたら、そんな事をしなくても私は逃げられませんでした。本当はそうじゃなくて、私の事を支えてくれてたんですよね。それに、怖い事も嫌らしい事もたくさん言われましたけど、途中で何度も口を挟んで誤魔化してくれました。もしそれがなかったら、私が1人だったら、きっと途中で心が折れていたと思います」

 怖いくらい静かにベティが呟く。

「へえ・・・あのオヤジ、後で思い知らせてやらないとね」

 背筋が震えたレオンだが、アデルは少し笑ったようだった。

「そんな事まで考えられるなんて、なかなか度胸があるよ。やっぱり血筋だね」

「え?」

 意外そうな声を出すステラを見ながら、ユノが言った。

「初見で気付いたのは、ステラ様が初めてです。いつもは人目に付かないところで正体を明かして、そこでようやく作戦に協力していただけるというのが普通でしたが・・・」

「今回はその作戦も総崩れさ。まあ、クリスティアナ様の姪と聞いて、なんとなくそんな予感はしたけどね」

 あくまで上品に、その叔母が可笑しそうに聞く。

「その言い方だと、まるで私がことごとく作戦を破綻させる女みたいじゃないですか?」

 アデルはニヤリと笑ってみせる。

「予想を上回るという意味ではそうです。クリスティアナ様が絡んで、かつて作戦通りに進んだ事がありましたっけ?」

「さあ、どうだったかしら。でも、どちらかというとそれは2人のせいではありませんか?」

「私達は割と気が小さいですから。あまり大胆な真似はしませんよ」

「あらまあ、私が大胆?心外だわ」

「以前、どこぞの結社の集いに1人で乗り込んでいって、有能な人間を残らず引き抜いてきたのはどこのどなたでしたっけ?」

 そこでしみじみとユノが言った。

「当初の目標通り、あの結社を弱体化させる事は出来ましたが・・・」

 可笑しそうにアデルは笑う。

「もっと慎重に攻めるはずだったのにね」

「それがクリスティアナ様の手にかかれば、ものの一晩で陥落です」

「おまけにこちらの戦力まで増えたし」

「あの時は、味方ながら恐ろしくも思いました」

 正直、レオンには具体的にどういう状況だったのかが全く想像出来ない。

 しかし、このステラの叔母が何か凄い事をしたのだろうというのは分かる。そして、それくらいの事なら難なくこなしてしまうだろうというのも、想像に難くない。要するに、誰かを説き伏せて味方にしたという事だろう。例えどんな人物であっても、彼女には逆らえない。そう思わせるような風格を漂わせているのも、また事実なのだ。

 もう風格という言葉ですら不適切かもしれない。

 本当に次元が違う。

 彼女は人間ではない高次の存在。

 そんな説明をされたとしても、もしかしたら受け入れられるかもしれない。

 いろいろなものを超越しているその女性は、ユノとアデルの追求にも余裕の笑みを浮かべている。まるでそうある事が自然の法則と言わんばかりの、揺るぎない微笑に見えた。

 そこで口を開いたのは、ベティだった。

「あのー・・・結局、皆さんはどういう人達なんですか?」

 聞き方は曖昧だったが、おおよそレオンも同意見だった。

 少なくとも、酒場や雑貨屋のような普通の商売をしているとは思えない。

 淡々とユノが答えてくれた。

「詳しくは申し上げられませんが、クリスティアナ様を中心とする秘密結社という認識をしていただいて結構です」

「・・・秘密結社?」

 唖然とした様子のベティ。

 クリスティアナ本人が補足した。

「表向きでは、私は商家に嫁いだ貴族の女という事になっています。お飾りとまでは言いませんけれど、世間ではそういった女性の事を、単に家同士を繋ぐ鎖のようなものだと思っている方も多いのです」

 そこで彼女は姪に微笑みかける。

「ですけど、それは世間が勝手にそう思い込んでいるだけの事。私には関係のない事だわ」

 ステラは初めて、真っ直ぐに叔母の顔を見つめる。

 姪の視線を受け止める彼女の表情は、何もかも包んでしまえそうな程に大きくて、優しい笑みをしていた。

「私は私。これが全てなの。私には多くの肩書きがあるわ。貴族の家の3女として生まれて、商家の妻となって、4人の子供の母となって、フィンドレイ商会の理事でもあり、そしてとある結社の代表でもある。それでも、私は私以外の名前は名乗った事がないの。どんな肩書きがついても、私以外にはなれない」

 意を決したように、ステラは告げた。

「・・・私は、ステラが本名ではないです。私は、どうしても別の自分になりたかったんです」

「別の自分にはなれない」

 あっさりと告げた叔母に、ややあってからステラは頷いた。

「はい。でも、ステラも私です。名前が変わっても、私は変われませんでした。でも、ステラはもう私なんです。冒険者としての、私の名前です」

「それならもう安心」

 レオンは驚いた。

 この超然とした女性が、姪の事を羨ましそうに見ているからだった。

「安心したわ。お姉さまもね、きっとそれを聞いたら安心したでしょう。普段はあんな人ですけれど、娘が突然いなくなって、心配しない母親なんていないのよ。それもね、自分が追いつめたんじゃないかって、後悔していたはずです」

 俯くステラ。

「私は・・・」

 言葉にならない様子のステラの膝に、隣のベティがそっと手を置く。

 何も出来ないレオンは、黙ってそれを見つめていた。

「お姉さまが後悔しているのは、どうしてだと思う?」

「え?」

 ステラは顔を上げる。

 彼女の叔母は優しく微笑んでいる。

 もしかしたら、彼女の姉、つまりステラの母親も同じような笑みを見せるのだろうか。何故かレオンは不意にそんな事を考えた。

「分からない?お姉さまが誰の姉なのか、誰の母親なのか、知っているでしょう?」

 クリスティアナの姉で、ステラの母親。

 2人と血の繋がった女性。

「お姉さまが一番後悔していうのはね、どうして貴女の思いを認めてあげられなかったのかって事なの。だって、若い頃は、自分も同じような事を考えていたのですから」

 固まったように叔母の顔を見つめるステラ。

 完全に予想外。そういう表情に見えた。

 そんな姪をどこか愛おしそうに見つめ返しながら、クリスティアナは続ける。

「私もお姉さまも、貴女と同じなの。家の飾りでいるなんて我慢ならなかった。もっと大きなものになれる。私にはもっと可能性がある。ずっとそう信じていたの。そして、私は今でもそう信じている。でも、お姉さまはどうかしら?」

 もちろんレオンはステラの母親を知らない。しかし、ステラの夢を反対していた事だけは、なんとなく分かる。だからこそ、ステラは1人で家を飛び出すしかなかったのだから。

 つまり、彼女は娘の夢を信じられなかったのだろう。

 自分がかつて同じような夢を見て、それが叶わなかった事を知っているのだ。

「きっと、貴女の事が眩しかったんだと思うわ。昔の自分を重ね合わせたりもしたんだと思う。だけど母親として、そんな危険な真似はさせたくなかった。でもね、心のどこかでは後悔していたのよ。だって、貴女の気持ちが痛いほど分かるんですから。分かるけれど、どうしてもいいとは言えなかった。あんな人だから認めないでしょうけれど、すごく悩んだと思うわ。眠れない夜や、もしかしたら泣いた夜もあったかもしれない。それも全て、本当は貴女の気持ちを認めてあげたかったからなの」

 まさに妹ならではの、そして同世代の母親ならではの意見だった。

 やがて、ステラの瞳から雫がこぼれる。

「・・・お母さん」

 涙声でそれだけ呟いて、ステラは両手で顔を覆った。

 そんな姪の頭を、母親のように軽く撫でるクリスティアナ。

「人前で軽々しく泣いたらダメ。少なくとも、お姉さまなら泣きません。貴女はお姉さまの娘でしょう?」

 それでも涙が止まらないステラに、彼女の叔母は言葉を続ける。

「お姉さまは、貴女に考え直して欲しいわけじゃないの。それどころか、貴女に泣いて欲しいわけでもありません。今の貴女が何をするべきか、お姉さまが貴女に何を望んでいるのか、言わなくても分かりますね?」

 少し時間がかかったものの、ステラは泣き腫らした顔でしっかり前を向いた。

「はい」

 しっかりとそう口にする。

 クリスティアナは、何もかも許してしまえそうな微笑みを見せてくれた。

「貴女は私の可愛い姪です。でも、それを抜きにしても、貴女はとても立派だわ。それだけは、他の誰が認めなくても、この私が認めます。貴女は、とても困難だけど皆が羨ましがるような道を歩いている。その事について、いろいろな人が貴女に様々な事を言うでしょう。でもね、結局は、貴女は貴女なの。貴女の心の声は、貴女が聞くのよ。貴女を支えてくれる人の為にも、貴女がしっかり立つの。そして、貴女が貴女を許してあげなさい」

 ステラは真っ直ぐにその言葉を受け止めていた。

 レオンも思わず聞き入る。

 自分は自分。

 心の声を聞くのも自分。立つのも自分。そして、許すのも自分。

 一見悲しい台詞に聞こえない事もない。まるで他人に頼らないような、そんな印象を与えるからだ。

 だが、それよりも力強い言葉という印象を強く受けた。気高いと言ってもいいかもしれない。

 どうしてこの女性がこんなに綺麗なのか、レオンにはなんとなくその理由が分かったような気がした。

 すると、不意にクリスティアナが、その深い碧の瞳をこちらに向けた。正確には、レオンとベティの両方を交互に見ていた。

「ステラのお友達、という事でよろしいかしら?」

 何故かベティがこちらを見るので、レオンは頷いてみせる。

「今日はステラの為に駆けつけていただいて、感謝してもしきれません。あの子がこの町でなんとかやってこられているのも、貴方達のような優しい方々に恵まれているからだと思います。あいにくあの子の両親は遠方におりますので、ここまで参るのは難しいですが、代わりに叔母である私から、せめてもの感謝の気持ちを示させていただきます。本当に、いつもありがとうございます」

 そう仰られて深々と礼をなさる商家のご婦人。

 平民2人は呆気にとられた。恐縮どころの話ではない。

 ところが、何か声を出そうとした次の瞬間だった。

 急に顔を上げたクリスティアナは、レオンをじっと見つめていた。

「ですけれど、いくら日頃お世話になっている方とはいえ、もしステラを泣かせるような事をなさった場合は、ええ、それはもう覚悟して下さい。私が持つ権力の全てを使って、地の果てまで追いかけていきますので」

 何故か自分から目を離さないので、レオンは頷くしかなかった。

「分かっていただけましたか?」

「えっと・・・はい」

「そうですか。その言葉、忘れないで下さい」

 なにやら意味深だったが、ステラを泣かせる気は毛頭ないので、きっと問題はないはずだ。

 ユノやアデル、そしてベティまでもが、やたら意味深な視線を送ってきてはいたのだが。

 その後しばらくしてステラが落ち着いてから、クリスティアナの一行は町から引き揚げると言い出した。レオン達が馬車の中で会話している間、ガレットやハワードが事態収拾の手筈を整えていてくれた。例の男達の一味に負けないくらい、クリスティアナの一派も町に潜入していたらしく、捕らえた人間をしかるべき場所で連行する準備がすぐに整ったという事らしい。いろいろ余罪があるらしく、もっと大きな町まで連れて行くそうだ。

 もっとも、クリスティアナはそれには着いていかない。彼女が帰ると言い出したのは、もしかしたら初めて会えた姪との別れが惜しくなる前に帰りたかっただけかもしれない。

 時は既に夕刻になっている。

 別れ際に、ユノとアデルが握手してくれた。

「なかなかいい働きだった」

 アデルの言葉にレオンは照れて頬を掻く。

「いえ、そんな・・・多分早まった事をしましたよね?」

「まあそうかもしれないが、だが、あれはなかなかぐっときた」

「はい?」

 軽く微笑んでから、アデルはユノに尋ねる。

「そうだよな?」

 いつも真面目な表情を崩さないユノだが、少し微笑んだようだった。

「悪くない」

 レオンにはなんの事だか分からなかった。

「ステラ様を頼みます」

 ユノは最後にそれだけ言った。

「はい」

 彼女達が馬車に乗り込むと、その中からクリスティアナの声が聞こえる。彼女は奥に座ったままだったので、もう姿は見えない。

「また会えるわ」

 隣にいたステラが答える。

「はい。また」

 その時だった。

 大通りの方から、女性が2人駆けてくる。

「待って!」

 ケイトの声だった。

 彼女が手を引いているのは、フィオナである。

 かなり走ってきたのか、ここに到着してしばらくの間、2人とも息を切らして何も言えなかった。 

「お久しぶりね」

 馬車の中から、懐かしげな声がした。姿は見えない。どうやら、声と息遣いだけで、状況が呑み込めているらしい。

「本当に立派になって・・・それに、今も仲良しなのね。羨ましいわ」

 こちらの顔まで綻ぶような、そんな柔らかい声だった。

 そんな馬車の主に、息を整えたフィオナが頭を下げる。

「あの、本当にありがとうございました。いつかお会い出来たら、それだけ伝えておこうって、そう思っていたんです。あの時、私でも、こんな私でもきっとなりたいものになれるって、そう言ってくれました。私がなりたいものにしかなれないって・・・その言葉があったから、今の私があります。本当にありがとうございました」

 フィオナは堂々とそう告げた。彼女のお辞儀はとても綺麗だった。

 しみじみとレオンは思った。

 本当に、クリスティアナはずっと自分の道を歩いているらしい。

 ずっと自分を信じて、自分が望んだ道を歩いている。それは大変な事だけど、確かに羨ましいと思えた。

 いつかステラも、彼女のようになるのだろうか。

 自分も、信じていたら彼女のようになれるだろうか。

 オレンジ色の空。

 お祭りの賑わいを忘れてしまったかのような、そんな静かな時間がゆっくりと流れてから、最後に彼女は言った。

「貴女が頑張ったのよ。だから、貴女を褒めてあげてね」

 馬車が進み始める。

 去っていく後ろ姿を、5人の人影が眺める。

 しばらくしてから、ベティがステラの手を握った。

「ステラの叔母さん、素敵な人だね」

 屈託なく笑う。いつものベティの表情だった。

 自然とステラも微笑む。

「うん」

 そんな2人の少女を見て、ケイトとフィオナも微笑んでいた。

 もちろん、レオンも。

 今日は本当にいろいろあった。

 嫌な事も、怒りに身を焦がすような事もあった。

 でも、今はどこか清々しい。

 姿を現し始めた星を見上げながら、レオンはその静かな感覚をそっと胸にしまい込んだ。



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