表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢色彩のカーバンクル  作者: 倉元裕紀
第1章 自治都市ユースアイ
6/114

正体不明



「いやー。ごめんごめん」

「いえ、まあ・・・起きて貰えてなによりです」

 あまり悪びれた様子のないベティに、レオンはその言葉を返すのがやっとだった。

 ソファの上で眠りこけていたベティを起こすのに、レオンは予想外の苦労をさせられた。最初は普通に声をかけてみたのだが、全く反応がない。仕方ないので、肩を揺すってみたのだが、それでもダメだった。そこで、最終手段として、頬を叩いてみる事にした。叩くと言っても、そんなに強く叩いたわけではない。顔に少し違和感がある程度でも、気になって起きるだろうという目論見だった。

 だが、ベティの反応は過剰防衛以外の何者でもなかった。

「私も油断してたなー。まさか、会った初日に、しかも他人の家で、レオンに襲われるとは思わなかった」

 さらっととんでもない事を言うので、レオンは周囲を気にしたが、幸い誰もいなかった。裏路地と言ってもいいようなところだから、人通りは少ない。

 日も少し陰り始めている。 

「襲ってません。人聞きが悪い事を言わないで下さい」

 どちらかというと、襲われたのはレオンの方だったが、もう指摘する気力もない。

 そんなレオンの主張を聞いているのかいないのか、ベティは両の拳を撃ち合わせながら、何度か頷いて言った。

「でも、バッチリ迎撃したし。うんうん。さすがにお父さん仕込みなだけはあるなー。スカートじゃなかったら、もう一発蹴りが増えて、6連コンボだったのに」

「・・・是非毎日スカートにして下さい」

「レオンはスカートが好きなのー?」

「何でそんな話になるんですか。被害縮小の為です」

「でも、もし本気で襲われてたら、私、スカートでも蹴りは出すよ?というか、それでもし中を見られたら、見た物を忘れるまで徹底的にやるから、うーん・・・どっちがいいんだろうね?」

 どっちにしろ、蹴りが出る事は避けられないらしい。

 レオンは溜息を吐く。

「・・・というか、僕が襲ってないと分かっていながら、5回も攻撃してきたんですか?」

 その指摘に、ベティは真顔で頷いた。

「見習い冒険者なんでしょー?あれくらい普通に避けられないと」

 出だしの裏拳を貰った時点で、見習い冒険者としては残念な感じだが、その後の、眉間を狙いにきた右手の突きと、それを必死に避けたあとに、胸ぐらを掴んできたのはすぐに弾いた。だけど、その後の牽制のビンタにお膳立てされた、左のアッパーは避けられなかった。この後に、ズボンだったら蹴りがお見舞いされていたようだが、もし出ていれば、恐らく綺麗に入っていただろう。 

 つまり、レオンから見て、2勝3敗。蹴りがあったなら、2勝4敗。

 しかも女の子相手に。

 情けないと言われても、全く反論出来なかった。

 落ち込んだ様子のレオンを一応心配してくれたのか、あっけらかんとした様子で、ベティが肩を叩いてくる。

「まあまあ。冒険者もいろいろあるし、多少弱くてもなんとかなるって。これから強くなればいいんだから」

「・・・そうですね」

「そうだ。レオンはスニークの事知ってる?」

 スニークも伝説の冒険者の称号である。この町に来る荷馬車の中でも、名前が出た人だ。

「えっと、称号くらいは」

「あの人も最初は弱かったんだって。というか、女の子だったって噂だし」

「確か、本当の名前を誰も知らなかったって人ですよね?」

「そうそう。名前どころか、性別とか年齢も分からなかったって。変装の達人だったっていうしねー。ずっと正体を隠してたから、どんな事をしてたのかとか、いつ死んだのかとかも分からないんだって」

「・・・そんな人が伝説に残るような事をしたって、どうして分かったんですか?」

「あ、ここだよー」

 ベティがまたもやレオンの質問を無視して立ち止まった。本日2回目だ。このマイペースぶりに、既に慣れ始めている自分に驚きだった。 

 今度も立派な民家だが、フレデリックさんの家ほどではない。木造平屋だが、そこそこの広さがある。ユースアイでは、これが平均的な民家のようだ。今日だけでも結構町の中をうろうろしたが、だいたいこれくらいの民家が多い。それか、もう少し狭い代わりに二階建てか。ガレットさんの酒場や、フレデリックさんのお屋敷は別格である。この家も、広い庭があって、ガレージのような物が建っているから、もしかしたら裕福な方なのかもしれない。

 ベティは躊躇う様子もなく、勝手に敷地内に入っていく。仕方ないので、レオンもその後に続いた。

 ところが、彼女が向かったのは家の方ではなく、ガレージの方だった。

 その扉の前に来たところで、レオンは尋ねた。

「こんな所に、伝承者がいるんですか?」

 もう1人伝承者に会いに行くのは知っていた。だけど、それ以外の事は何も聞いていなかったのだ。

「うん。大抵こっちにいるんだー。ここがニコルの部屋みたいなものかな」

「へえ・・・」

 広さはともかく、あまり住み心地がよさそうな建物ではなかった。特に、冬は凍えそうだ。隙間風が吹きそうなくらいだから、この時期でも、きっと朝晩は寒いだろう。同じ伝承者であるフレデリックさんと比べると、生活にかなりの差があるように思えた。

 ガレージからは、何か、カチャカチャという小さい物音がする。

「レオン」

「はい?」

「ちょっと、ノックしてみて」

 ガレージのドアをノックしろという意味らしい。入り口には、窓のついたドアがあるのだが、その窓には張り紙でもしてあるのか、室内を窺う事は出来ない。

「・・・僕がですか?」

 今まで、止める間もなく、何でも自分でやってきたベティだけに、急にそんな簡単な事を頼むのは違和感があった。

 ベティは微笑みながら言った。

「いいからいいから。とにかくやってみて」

「別にいいですけど、何で急に・・・」

「今度からはレオン1人で来るわけでしょ?だったら、慣れておいた方がいいと思うなー」

「慣れないといけないような事があるって事ですか・・・」

 多少うんざりしながらも、レオンはドアの前まで進み出る。ドアをノックしたくらいで、何か起こるとは思えない。だけど、妙な緊張感が、レオンの身体を包んだ。

 呼吸を整える。

 そして、軽くドアを叩いた。

 その直後だった。

 子供の悲鳴。何かの金属製品が崩落したような物音。どちらもガレージ内からだった。

 自分のノックなど、軽く音が出る程度である。思いもよらぬ過剰反応に、レオン自身が一番戸惑った。

 すぐにドアが開く。

 その向こうにいたのは、まさしく子供だった。性別ははっきりしないが、身体つきから言っても、レオンより年上という事はありえない。レオンは16歳ながら小柄な方である。そのレオンよりもさらに小柄だから、恐らく12歳くらいだろうか。その小柄な身体を、グレイのシャツとモスグリーンの膝丈のズボンで包んでいる。子供らしいファッションだった。

 だが、一番の注目点は、その子供が、両手を目元に当ててしゃくりあげている事だった。

 どう見ても泣いている。

「泣かしたー」

 背後から、これ以上ないくらい無責任な声が飛んでくる。振り返ると、ベティの悪魔的な微笑みが目に飛び込んできた。

「え?いや、その・・・」

 泣かせるつもりはなかったし、泣かせるような事をした覚えもない。だけど、もしかしたら、本当に自分のせいなのだろうか。

 レオンはもう一度子供の方を見た。

 よく分からないけれど、とにかく可哀想だった。見ていて、気の毒な気分になる。

 とりあえず、謝ろう。

「えっと・・・その、ごめんね」

 なるべく優しく言ったが、効果はない。子供はやや俯いたまま、すすり泣くだけである。

 まさに途方に暮れた。

 泣いている原因も分からないし、どうやったら泣き止むかも分からない。

 レオンはまた振り向いた。ベティに助けを求めたのだ。

 困り果てたレオンの表情を見て満足したのか、ベティが意味ありげに頷く。そして、子供の方を向いて、やや大きな声で言った。

「ニコルー。仕事だよー」

 その言葉に、レオンは意表を突かれた。確か、ニコルというのは、ここに住む伝承者の名前のはずだ。だけど、フレデリックさんの孫のデイジーが言うには、伝承者になるには16歳以上でないといけないはずである。だから、きっとこの子はニコルという人物とは別人だと思っていたのだが。

 レオンは子供の方に視線を戻す。

 びっくりした。

 ニコルと呼ばれた子供が、レオンの目の前で目を輝かせていたからだ。

「近!?」

 いつの間に寄ってきたのか。というか、さっきまで泣いていたのはなんだったのか。

 ニコルの目元は、全く赤くなっていない。髪は濃い色だが、瞳は明るいブラウンだった。子供らしい、大きな瞳だ。

「本当に!?仕事って事は冒険者見習いだよね?うわあ!凄い!ねえ、どこから来たの?ジーニアス?それともアスリート?なんかあんまり強くなさそうだけど、うん、でも、これくらいの方がいいなあ。ちょっと弱いくらいの方が工夫しがいがあるし。僕、ニコルって言うんだ。僕のところに来たって事は、伝承者の仕事だよね?うわあ・・・。やった!嬉しい!もう何でも聞いてね!特に、鍵開けとか、そういう細かい作業なら、もうなんでも!あと、ちょっとした仕掛けだね。そういうの、ガジェットって言うんだけど知ってる?ここにもいっぱいあるんだ。君も絶対気に入ると思うよ!どうどう?見ていかない?見ていかない?」

 いつの間にか、右手を両手で包み込まれていた。

 レオンはゆっくりとベティの方を振り返る。

「・・・だいたい分かりました」

 おおよその事は、ニコル本人の口から暴露されていた。

 ベティは少し笑いを堪えながら言った。

「良かったねー、ニコル。これからはレオンが実験に付き合ってくれるから」

「そうだよね・・・うわあ!ダンジョンで試せるなんて、楽しみ!」

「いや、試すって、僕はまだ・・・」

 レオンの言葉をニコルが遮る。

「あ、そうか。もしかして、まだ成り立て?」

「え?あ、うん」

「そっか・・・うんうん。でも大丈夫。楽しみは後にとっておかないとね!」

 それはいったい何が大丈夫なのだろう。とりあえず、レオンの安全を保証しているわけではなさそうだ。 

「じゃあとりあえず、僕の作った物を見ていってよ。なんなら、実際に・・・」

「あー、ゴメン。ニコル」

 そこで割り込んだのは、意外にもベティだった。

「レオンは他にも行くとこあるから、また今度でいいかなー?出来たら今日中に回っておきたいんだよね」

 そんな話は聞いていなかったレオンだったが、何も言わない事にした。ベティの表情が、いつもとさほど変わらないながらも、目元が真剣に見えたからだった。

 ニコルは残念そうな表情を顔いっぱいに浮かべたが、すぐに頷いた。

「仕方ないね。じゃあ、えっと・・・レオンだったっけ?また今度おいでよ。いろいろ用意しておくから」

「あ、うん・・・また今度、よろしくお願いします」

 レオンが軽く頭を下げると、ニコルは笑顔に戻って、ガレージの中に戻っていった。

 ドアが閉められ、辺りは静かになる。

 それを見届けてから、レオンは息を吐いた。何もしていないが、何か終わったという達成感があった。

 振り返ってみると、ベティは既に帰り道を歩き出していた。

 慌ててレオンもそれを追いかける。敷地から出た辺りで彼女に追いついた。

「他に行く場所なんてあるんですか?」

 開口一番にそれを聞くと、ベティは口だけで微笑んだ。珍しい表情だった。

「ないよー」

「じゃあ、どうして嘘を言ったんです?」

「レオンはまだ心の準備が出来てないから」

「僕ですか?」

 ベティは前を向いた。その横顔は、いつもの彼女よりも大人びて見える。そのギャップにレオンは驚き、そして、一度大きい鼓動が聞こえた。 

「ニコルは悪い子じゃないんだけど・・・うーん、いや、違うな。ニコルは悪い子なんだよ」

 あまりにもあっさりと言い切ったので、レオンは一瞬思考停止した。

「・・・えっと、ニコルさんって、さっきの子の事ですよね?普通の子供に見えましたけど」

「そうなんだけどねー。なんていうのかな、ニコルは悪戯っ子なんだ」

「悪戯っ子ですか?それって、そんなに珍しい事じゃないような・・・」

 ある程度の悪ふざけは、子供なら誰だってするだろう。

「あの子はちょっと違うんだ。なんていうのかな・・・ニコルは自分がした事が悪い事だって分からない子なんだよね。私はニコルじゃないから、本当はどう思ってるのかは分からないけど」

「僕はもっと分かりませんけど・・・それが僕とどう関係するんですか?」

 ベティはこちらを向いた。優しい微笑み。これもまた珍しい表情だ。

「私はね・・・ううん、私達は、つまり、今日レオンが会った人みんなだけど、ニコルの事が嫌いなわけじゃないんだ」

 レオンは黙って頷く。

「だからね、レオンにも嫌いになって欲しくないなーって、思っただけなんだ。ちゃんと準備してからじゃないと、初対面の人に一瞬で嫌われるような、そんな子だから」

 その理屈は分からないでもない。

 でも、理由としては弱い。

「・・・それだけじゃないと思いますけど、違いますか?」

 ベティはまた前を向いた。横顔だけでは、表情は読みとれないが、少し寂しそうに見える。

「私はニコルが嫌いなわけじゃないけど、でも、やっぱりちょっと怖いな」

 言葉の最後が少し小さかった。口にするのが嫌だったのかもしれない。あるいは、口にするのを躊躇うくらい怖いのだろうか。

 それ以上に、ベティの口から怖いという言葉が出てきた事が、驚き以外の何者でもなかった。怖じ気付く事のない、怖いもの知らずの女の子だと思っていたのだ。

 その彼女が恐れているのが、何の変哲もない子供。

「昔はね、ニコルと一緒に遊んだりもしたんだよ。だけどね、だんだん遊ばなくなったんだ。本当に、ニコルの事は嫌いじゃないんだよ。だけど、なんとなく一緒にいなくなった。これは、私だけじゃなくて、みんなそうなんだ。そして、最近、やっと理由が分かったんだ。ニコルといるとね、影響されるんだよ」

「影響ですか?」

「私も悪い事が分からなくなってた。ニコルみたいに、社会のルールが見えなくなるんだ。それが怖くなって、ニコルから離れていったんだよ」

「えっと、つまり・・・僕も影響されるかもしれないという事ですか?」

 ベティは頷かなかった。

「レオンはニコルにとって初めての仕事なんだ。あの子が伝承者になったのは、つい最近の事だから。初めてだから、何が起きるか分からないんだよ。レオンがどうなるかも分からないし、ニコルがどうなるのかも分からない。だけど、ニコルにしてみたら、今が大きな節目なんじゃないかなって思うんだ。だから、なるべく上手くいって欲しいって、そう思ってるだけなんだよ」

 そこでベティはようやくこちらを向いた。いつもの屈託のない笑みだった。

「もちろん、一応レオンも心配してるんだけどね。でも、多少レオンの根性が曲がった程度の事なら、お父さんがどうにかしてくれるから平気だよ。命の保証は出来ないけどねー」

 どこか、言葉に迫力がない。  

 今の説明を聞いただけでは、レオンには、この町の人達とニコルの関係が分からなかった。嫌われているわけではないが、皆から距離を置かれている。口で言うのは簡単だが、上手く想像できそうもない。 

 だけど、なんとなく、レオンはベティの様子を見ただけで、どういう感じの話なのかは分かった。もちろん、楽しい話ではない。だが、辛い話かというと、少し違う気がした。

 寂しい話というのが、一番しっくり来る。

「・・・分かりました」

「何が?」

「要は、ニコルさんと町の人達が馴染む事が出来ればいいんですよね?」

 その言葉に、ベティは少し戸惑ったようだ。

「いや・・・別に、そこまではしなくていいと思うけど。レオンはとりあえず、冒険者になればいいんじゃない?そうすれば、ニコルの仕事も成功って事になるわけだし」

「いえいえ。町の人達に恩返し出来るかもしれないですし」

「でもなー。1年しかないんだよ?」

「1年でだめなら、もう1年頑張ります」

「そこまではお父さんも面倒見てくれないと思うけど」

「その時は、どこかのお店で働きます」

「・・・なんていうか、本当にそうなってそうで嫌だなー」

 ベティは呆れ顔をしてから、それでも、すぐにいつもの微笑みに戻った。

「まあいい。せいぜい頑張れー」

 声が低い。どうやら、ガレットさんの物真似らしい。 

 レオンは笑った。

「さすが親子ですねえ」

「そう?こういうの、ニコルは上手なんだよー。なんといっても、スニークの伝承者だから」

 変装の達人のノウハウを生かしているのだろうか。

「へえ・・・というか、スニークの伝承者だったんですか」

「そうだよー。昔から、家の鍵とか普通に針金みたいなので開けてたし。たぶん町中の家の鍵は開けたことあるんじゃないかなー」

 当たり前みたいに言ったが、もちろん一般的な趣味とは言えない。

「いや・・・それ、泥棒ですか?」

「練習してたんだってさ。だから、ニコルの家は鍵穴がないんだよー。なんか、ネジみたいなのを差してドアを固定するんだ。それだったら、ニコルも開けられないから」

 自分の子供基準の防犯対策をしているらしい。

「・・・それ、ドアの内側で使うんですよね?じゃあ、出かける時どうするんですか?」

「それは気にしないんじゃない?だって、ニコルは閉まってる鍵にしか興味ないから」

 もはや、防犯対策ではなかった。

「・・・出かける時に閉められない鍵って、意味ないですよね?」

「そもそも、泥棒なんて滅多にいないし。それに、ニコルに開けられるって事は、普通の泥棒なら開けられるって事だから」

 正論みたいな口調で言ったが、きっと何か間違っているだろう。だけど、これ以上聞くと深みにはまりそうなので、レオンは話題を変える事にした。

「・・・えっと、ニコルさんって、16歳ですか?」

 伝承者なら最低16歳。だが、全然そうは見えなかった。何かの特例だろうかと思っての質問である。

 だが、ベティはあっさり認めた。

「そうそう」

「本当ですか?なんていうか・・・失礼ですけど、幼く見えますよね」

「見えるねー。全然胸もないし」

 全然寝癖がないと言っているのと同じくらいの軽い発言だった。

 レオンはそこにも深入りしない事にする。

「・・・というか、あの、もっと失礼なんですけど、ニコルさんは女性ですか?」

 子供っぽいのもあるだろうが、鍛冶屋で会ったリディアどころではないくらい、見た目では性別が分からなかった。

「私はそう思うけど」

「・・・私は?」

「本人は秘密だって言ってるからねー。というか、男女どちらの服でも似合うし、変装も上手だし」

「・・・ご両親に聞いてみたりはしないんですか?」

「何か、口止めされてるんだって」

 どうしてそこまでして隠すのだろうか。

「一緒にお風呂に入ったりとか、ないんですか?」

「だってー・・・もし男だったら恥ずかしいし」

 それは確かにその通りだ。

「レオンが入ってみればー?女だったら儲け物でしょー?」

「儲け物って・・・」

「でも、胸がないからダメかー」

 ベティは平然と言ったが、さすがにレオンは恥ずかしくなった。

「そういう事を言うのはさすがに・・・」

「あれー。レオンはない方がいいの?」

「違います。変な話をしないで下さい」

 当然というべきか、やっぱりベティは止まらなかった。

「やっぱり大きい方がいいでしょ?私よりもデイジーの方が実はあるんだよー」

 一瞬デイジーの胸元を思い出そうとした自分に気付いて、慌ててそれを打ち消した。目の前のベティに至っては、首から下を見られそうにない。

 レオンはしどろもどろになる。

「いや、そういう事じゃなくて・・・」

「じゃあ、形の問題?それとも触った時の・・・」

「わー!わー!」

 耳を押さえながら必死で叫ぶと、ようやくベティも止まってくれた。悪魔的な表情だった。弄ばれていたのは、間違いなさそうだ。

「レオンはさあ・・・」

 次は何を言い出すのかと思って、レオンは心の準備をする。

 だが、ベティの言葉は、今度こそ正論だった。

「いくら強くなっても、たぶん女の子には勝てないよねー」

 思いっきり上半身から力が抜けた。

 反論の余地は欠片もない。

「・・・せめてモンスターには勝てるように頑張ります」

 不思議なもので、今ならばどんなモンスターにでも立ち向かえる気がしたレオンだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ