正体不明
「いやー。ごめんごめん」
「いえ、まあ・・・起きて貰えてなによりです」
あまり悪びれた様子のないベティに、レオンはその言葉を返すのがやっとだった。
ソファの上で眠りこけていたベティを起こすのに、レオンは予想外の苦労をさせられた。最初は普通に声をかけてみたのだが、全く反応がない。仕方ないので、肩を揺すってみたのだが、それでもダメだった。そこで、最終手段として、頬を叩いてみる事にした。叩くと言っても、そんなに強く叩いたわけではない。顔に少し違和感がある程度でも、気になって起きるだろうという目論見だった。
だが、ベティの反応は過剰防衛以外の何者でもなかった。
「私も油断してたなー。まさか、会った初日に、しかも他人の家で、レオンに襲われるとは思わなかった」
さらっととんでもない事を言うので、レオンは周囲を気にしたが、幸い誰もいなかった。裏路地と言ってもいいようなところだから、人通りは少ない。
日も少し陰り始めている。
「襲ってません。人聞きが悪い事を言わないで下さい」
どちらかというと、襲われたのはレオンの方だったが、もう指摘する気力もない。
そんなレオンの主張を聞いているのかいないのか、ベティは両の拳を撃ち合わせながら、何度か頷いて言った。
「でも、バッチリ迎撃したし。うんうん。さすがにお父さん仕込みなだけはあるなー。スカートじゃなかったら、もう一発蹴りが増えて、6連コンボだったのに」
「・・・是非毎日スカートにして下さい」
「レオンはスカートが好きなのー?」
「何でそんな話になるんですか。被害縮小の為です」
「でも、もし本気で襲われてたら、私、スカートでも蹴りは出すよ?というか、それでもし中を見られたら、見た物を忘れるまで徹底的にやるから、うーん・・・どっちがいいんだろうね?」
どっちにしろ、蹴りが出る事は避けられないらしい。
レオンは溜息を吐く。
「・・・というか、僕が襲ってないと分かっていながら、5回も攻撃してきたんですか?」
その指摘に、ベティは真顔で頷いた。
「見習い冒険者なんでしょー?あれくらい普通に避けられないと」
出だしの裏拳を貰った時点で、見習い冒険者としては残念な感じだが、その後の、眉間を狙いにきた右手の突きと、それを必死に避けたあとに、胸ぐらを掴んできたのはすぐに弾いた。だけど、その後の牽制のビンタにお膳立てされた、左のアッパーは避けられなかった。この後に、ズボンだったら蹴りがお見舞いされていたようだが、もし出ていれば、恐らく綺麗に入っていただろう。
つまり、レオンから見て、2勝3敗。蹴りがあったなら、2勝4敗。
しかも女の子相手に。
情けないと言われても、全く反論出来なかった。
落ち込んだ様子のレオンを一応心配してくれたのか、あっけらかんとした様子で、ベティが肩を叩いてくる。
「まあまあ。冒険者もいろいろあるし、多少弱くてもなんとかなるって。これから強くなればいいんだから」
「・・・そうですね」
「そうだ。レオンはスニークの事知ってる?」
スニークも伝説の冒険者の称号である。この町に来る荷馬車の中でも、名前が出た人だ。
「えっと、称号くらいは」
「あの人も最初は弱かったんだって。というか、女の子だったって噂だし」
「確か、本当の名前を誰も知らなかったって人ですよね?」
「そうそう。名前どころか、性別とか年齢も分からなかったって。変装の達人だったっていうしねー。ずっと正体を隠してたから、どんな事をしてたのかとか、いつ死んだのかとかも分からないんだって」
「・・・そんな人が伝説に残るような事をしたって、どうして分かったんですか?」
「あ、ここだよー」
ベティがまたもやレオンの質問を無視して立ち止まった。本日2回目だ。このマイペースぶりに、既に慣れ始めている自分に驚きだった。
今度も立派な民家だが、フレデリックさんの家ほどではない。木造平屋だが、そこそこの広さがある。ユースアイでは、これが平均的な民家のようだ。今日だけでも結構町の中をうろうろしたが、だいたいこれくらいの民家が多い。それか、もう少し狭い代わりに二階建てか。ガレットさんの酒場や、フレデリックさんのお屋敷は別格である。この家も、広い庭があって、ガレージのような物が建っているから、もしかしたら裕福な方なのかもしれない。
ベティは躊躇う様子もなく、勝手に敷地内に入っていく。仕方ないので、レオンもその後に続いた。
ところが、彼女が向かったのは家の方ではなく、ガレージの方だった。
その扉の前に来たところで、レオンは尋ねた。
「こんな所に、伝承者がいるんですか?」
もう1人伝承者に会いに行くのは知っていた。だけど、それ以外の事は何も聞いていなかったのだ。
「うん。大抵こっちにいるんだー。ここがニコルの部屋みたいなものかな」
「へえ・・・」
広さはともかく、あまり住み心地がよさそうな建物ではなかった。特に、冬は凍えそうだ。隙間風が吹きそうなくらいだから、この時期でも、きっと朝晩は寒いだろう。同じ伝承者であるフレデリックさんと比べると、生活にかなりの差があるように思えた。
ガレージからは、何か、カチャカチャという小さい物音がする。
「レオン」
「はい?」
「ちょっと、ノックしてみて」
ガレージのドアをノックしろという意味らしい。入り口には、窓のついたドアがあるのだが、その窓には張り紙でもしてあるのか、室内を窺う事は出来ない。
「・・・僕がですか?」
今まで、止める間もなく、何でも自分でやってきたベティだけに、急にそんな簡単な事を頼むのは違和感があった。
ベティは微笑みながら言った。
「いいからいいから。とにかくやってみて」
「別にいいですけど、何で急に・・・」
「今度からはレオン1人で来るわけでしょ?だったら、慣れておいた方がいいと思うなー」
「慣れないといけないような事があるって事ですか・・・」
多少うんざりしながらも、レオンはドアの前まで進み出る。ドアをノックしたくらいで、何か起こるとは思えない。だけど、妙な緊張感が、レオンの身体を包んだ。
呼吸を整える。
そして、軽くドアを叩いた。
その直後だった。
子供の悲鳴。何かの金属製品が崩落したような物音。どちらもガレージ内からだった。
自分のノックなど、軽く音が出る程度である。思いもよらぬ過剰反応に、レオン自身が一番戸惑った。
すぐにドアが開く。
その向こうにいたのは、まさしく子供だった。性別ははっきりしないが、身体つきから言っても、レオンより年上という事はありえない。レオンは16歳ながら小柄な方である。そのレオンよりもさらに小柄だから、恐らく12歳くらいだろうか。その小柄な身体を、グレイのシャツとモスグリーンの膝丈のズボンで包んでいる。子供らしいファッションだった。
だが、一番の注目点は、その子供が、両手を目元に当ててしゃくりあげている事だった。
どう見ても泣いている。
「泣かしたー」
背後から、これ以上ないくらい無責任な声が飛んでくる。振り返ると、ベティの悪魔的な微笑みが目に飛び込んできた。
「え?いや、その・・・」
泣かせるつもりはなかったし、泣かせるような事をした覚えもない。だけど、もしかしたら、本当に自分のせいなのだろうか。
レオンはもう一度子供の方を見た。
よく分からないけれど、とにかく可哀想だった。見ていて、気の毒な気分になる。
とりあえず、謝ろう。
「えっと・・・その、ごめんね」
なるべく優しく言ったが、効果はない。子供はやや俯いたまま、すすり泣くだけである。
まさに途方に暮れた。
泣いている原因も分からないし、どうやったら泣き止むかも分からない。
レオンはまた振り向いた。ベティに助けを求めたのだ。
困り果てたレオンの表情を見て満足したのか、ベティが意味ありげに頷く。そして、子供の方を向いて、やや大きな声で言った。
「ニコルー。仕事だよー」
その言葉に、レオンは意表を突かれた。確か、ニコルというのは、ここに住む伝承者の名前のはずだ。だけど、フレデリックさんの孫のデイジーが言うには、伝承者になるには16歳以上でないといけないはずである。だから、きっとこの子はニコルという人物とは別人だと思っていたのだが。
レオンは子供の方に視線を戻す。
びっくりした。
ニコルと呼ばれた子供が、レオンの目の前で目を輝かせていたからだ。
「近!?」
いつの間に寄ってきたのか。というか、さっきまで泣いていたのはなんだったのか。
ニコルの目元は、全く赤くなっていない。髪は濃い色だが、瞳は明るいブラウンだった。子供らしい、大きな瞳だ。
「本当に!?仕事って事は冒険者見習いだよね?うわあ!凄い!ねえ、どこから来たの?ジーニアス?それともアスリート?なんかあんまり強くなさそうだけど、うん、でも、これくらいの方がいいなあ。ちょっと弱いくらいの方が工夫しがいがあるし。僕、ニコルって言うんだ。僕のところに来たって事は、伝承者の仕事だよね?うわあ・・・。やった!嬉しい!もう何でも聞いてね!特に、鍵開けとか、そういう細かい作業なら、もうなんでも!あと、ちょっとした仕掛けだね。そういうの、ガジェットって言うんだけど知ってる?ここにもいっぱいあるんだ。君も絶対気に入ると思うよ!どうどう?見ていかない?見ていかない?」
いつの間にか、右手を両手で包み込まれていた。
レオンはゆっくりとベティの方を振り返る。
「・・・だいたい分かりました」
おおよその事は、ニコル本人の口から暴露されていた。
ベティは少し笑いを堪えながら言った。
「良かったねー、ニコル。これからはレオンが実験に付き合ってくれるから」
「そうだよね・・・うわあ!ダンジョンで試せるなんて、楽しみ!」
「いや、試すって、僕はまだ・・・」
レオンの言葉をニコルが遮る。
「あ、そうか。もしかして、まだ成り立て?」
「え?あ、うん」
「そっか・・・うんうん。でも大丈夫。楽しみは後にとっておかないとね!」
それはいったい何が大丈夫なのだろう。とりあえず、レオンの安全を保証しているわけではなさそうだ。
「じゃあとりあえず、僕の作った物を見ていってよ。なんなら、実際に・・・」
「あー、ゴメン。ニコル」
そこで割り込んだのは、意外にもベティだった。
「レオンは他にも行くとこあるから、また今度でいいかなー?出来たら今日中に回っておきたいんだよね」
そんな話は聞いていなかったレオンだったが、何も言わない事にした。ベティの表情が、いつもとさほど変わらないながらも、目元が真剣に見えたからだった。
ニコルは残念そうな表情を顔いっぱいに浮かべたが、すぐに頷いた。
「仕方ないね。じゃあ、えっと・・・レオンだったっけ?また今度おいでよ。いろいろ用意しておくから」
「あ、うん・・・また今度、よろしくお願いします」
レオンが軽く頭を下げると、ニコルは笑顔に戻って、ガレージの中に戻っていった。
ドアが閉められ、辺りは静かになる。
それを見届けてから、レオンは息を吐いた。何もしていないが、何か終わったという達成感があった。
振り返ってみると、ベティは既に帰り道を歩き出していた。
慌ててレオンもそれを追いかける。敷地から出た辺りで彼女に追いついた。
「他に行く場所なんてあるんですか?」
開口一番にそれを聞くと、ベティは口だけで微笑んだ。珍しい表情だった。
「ないよー」
「じゃあ、どうして嘘を言ったんです?」
「レオンはまだ心の準備が出来てないから」
「僕ですか?」
ベティは前を向いた。その横顔は、いつもの彼女よりも大人びて見える。そのギャップにレオンは驚き、そして、一度大きい鼓動が聞こえた。
「ニコルは悪い子じゃないんだけど・・・うーん、いや、違うな。ニコルは悪い子なんだよ」
あまりにもあっさりと言い切ったので、レオンは一瞬思考停止した。
「・・・えっと、ニコルさんって、さっきの子の事ですよね?普通の子供に見えましたけど」
「そうなんだけどねー。なんていうのかな、ニコルは悪戯っ子なんだ」
「悪戯っ子ですか?それって、そんなに珍しい事じゃないような・・・」
ある程度の悪ふざけは、子供なら誰だってするだろう。
「あの子はちょっと違うんだ。なんていうのかな・・・ニコルは自分がした事が悪い事だって分からない子なんだよね。私はニコルじゃないから、本当はどう思ってるのかは分からないけど」
「僕はもっと分かりませんけど・・・それが僕とどう関係するんですか?」
ベティはこちらを向いた。優しい微笑み。これもまた珍しい表情だ。
「私はね・・・ううん、私達は、つまり、今日レオンが会った人みんなだけど、ニコルの事が嫌いなわけじゃないんだ」
レオンは黙って頷く。
「だからね、レオンにも嫌いになって欲しくないなーって、思っただけなんだ。ちゃんと準備してからじゃないと、初対面の人に一瞬で嫌われるような、そんな子だから」
その理屈は分からないでもない。
でも、理由としては弱い。
「・・・それだけじゃないと思いますけど、違いますか?」
ベティはまた前を向いた。横顔だけでは、表情は読みとれないが、少し寂しそうに見える。
「私はニコルが嫌いなわけじゃないけど、でも、やっぱりちょっと怖いな」
言葉の最後が少し小さかった。口にするのが嫌だったのかもしれない。あるいは、口にするのを躊躇うくらい怖いのだろうか。
それ以上に、ベティの口から怖いという言葉が出てきた事が、驚き以外の何者でもなかった。怖じ気付く事のない、怖いもの知らずの女の子だと思っていたのだ。
その彼女が恐れているのが、何の変哲もない子供。
「昔はね、ニコルと一緒に遊んだりもしたんだよ。だけどね、だんだん遊ばなくなったんだ。本当に、ニコルの事は嫌いじゃないんだよ。だけど、なんとなく一緒にいなくなった。これは、私だけじゃなくて、みんなそうなんだ。そして、最近、やっと理由が分かったんだ。ニコルといるとね、影響されるんだよ」
「影響ですか?」
「私も悪い事が分からなくなってた。ニコルみたいに、社会のルールが見えなくなるんだ。それが怖くなって、ニコルから離れていったんだよ」
「えっと、つまり・・・僕も影響されるかもしれないという事ですか?」
ベティは頷かなかった。
「レオンはニコルにとって初めての仕事なんだ。あの子が伝承者になったのは、つい最近の事だから。初めてだから、何が起きるか分からないんだよ。レオンがどうなるかも分からないし、ニコルがどうなるのかも分からない。だけど、ニコルにしてみたら、今が大きな節目なんじゃないかなって思うんだ。だから、なるべく上手くいって欲しいって、そう思ってるだけなんだよ」
そこでベティはようやくこちらを向いた。いつもの屈託のない笑みだった。
「もちろん、一応レオンも心配してるんだけどね。でも、多少レオンの根性が曲がった程度の事なら、お父さんがどうにかしてくれるから平気だよ。命の保証は出来ないけどねー」
どこか、言葉に迫力がない。
今の説明を聞いただけでは、レオンには、この町の人達とニコルの関係が分からなかった。嫌われているわけではないが、皆から距離を置かれている。口で言うのは簡単だが、上手く想像できそうもない。
だけど、なんとなく、レオンはベティの様子を見ただけで、どういう感じの話なのかは分かった。もちろん、楽しい話ではない。だが、辛い話かというと、少し違う気がした。
寂しい話というのが、一番しっくり来る。
「・・・分かりました」
「何が?」
「要は、ニコルさんと町の人達が馴染む事が出来ればいいんですよね?」
その言葉に、ベティは少し戸惑ったようだ。
「いや・・・別に、そこまではしなくていいと思うけど。レオンはとりあえず、冒険者になればいいんじゃない?そうすれば、ニコルの仕事も成功って事になるわけだし」
「いえいえ。町の人達に恩返し出来るかもしれないですし」
「でもなー。1年しかないんだよ?」
「1年でだめなら、もう1年頑張ります」
「そこまではお父さんも面倒見てくれないと思うけど」
「その時は、どこかのお店で働きます」
「・・・なんていうか、本当にそうなってそうで嫌だなー」
ベティは呆れ顔をしてから、それでも、すぐにいつもの微笑みに戻った。
「まあいい。せいぜい頑張れー」
声が低い。どうやら、ガレットさんの物真似らしい。
レオンは笑った。
「さすが親子ですねえ」
「そう?こういうの、ニコルは上手なんだよー。なんといっても、スニークの伝承者だから」
変装の達人のノウハウを生かしているのだろうか。
「へえ・・・というか、スニークの伝承者だったんですか」
「そうだよー。昔から、家の鍵とか普通に針金みたいなので開けてたし。たぶん町中の家の鍵は開けたことあるんじゃないかなー」
当たり前みたいに言ったが、もちろん一般的な趣味とは言えない。
「いや・・・それ、泥棒ですか?」
「練習してたんだってさ。だから、ニコルの家は鍵穴がないんだよー。なんか、ネジみたいなのを差してドアを固定するんだ。それだったら、ニコルも開けられないから」
自分の子供基準の防犯対策をしているらしい。
「・・・それ、ドアの内側で使うんですよね?じゃあ、出かける時どうするんですか?」
「それは気にしないんじゃない?だって、ニコルは閉まってる鍵にしか興味ないから」
もはや、防犯対策ではなかった。
「・・・出かける時に閉められない鍵って、意味ないですよね?」
「そもそも、泥棒なんて滅多にいないし。それに、ニコルに開けられるって事は、普通の泥棒なら開けられるって事だから」
正論みたいな口調で言ったが、きっと何か間違っているだろう。だけど、これ以上聞くと深みにはまりそうなので、レオンは話題を変える事にした。
「・・・えっと、ニコルさんって、16歳ですか?」
伝承者なら最低16歳。だが、全然そうは見えなかった。何かの特例だろうかと思っての質問である。
だが、ベティはあっさり認めた。
「そうそう」
「本当ですか?なんていうか・・・失礼ですけど、幼く見えますよね」
「見えるねー。全然胸もないし」
全然寝癖がないと言っているのと同じくらいの軽い発言だった。
レオンはそこにも深入りしない事にする。
「・・・というか、あの、もっと失礼なんですけど、ニコルさんは女性ですか?」
子供っぽいのもあるだろうが、鍛冶屋で会ったリディアどころではないくらい、見た目では性別が分からなかった。
「私はそう思うけど」
「・・・私は?」
「本人は秘密だって言ってるからねー。というか、男女どちらの服でも似合うし、変装も上手だし」
「・・・ご両親に聞いてみたりはしないんですか?」
「何か、口止めされてるんだって」
どうしてそこまでして隠すのだろうか。
「一緒にお風呂に入ったりとか、ないんですか?」
「だってー・・・もし男だったら恥ずかしいし」
それは確かにその通りだ。
「レオンが入ってみればー?女だったら儲け物でしょー?」
「儲け物って・・・」
「でも、胸がないからダメかー」
ベティは平然と言ったが、さすがにレオンは恥ずかしくなった。
「そういう事を言うのはさすがに・・・」
「あれー。レオンはない方がいいの?」
「違います。変な話をしないで下さい」
当然というべきか、やっぱりベティは止まらなかった。
「やっぱり大きい方がいいでしょ?私よりもデイジーの方が実はあるんだよー」
一瞬デイジーの胸元を思い出そうとした自分に気付いて、慌ててそれを打ち消した。目の前のベティに至っては、首から下を見られそうにない。
レオンはしどろもどろになる。
「いや、そういう事じゃなくて・・・」
「じゃあ、形の問題?それとも触った時の・・・」
「わー!わー!」
耳を押さえながら必死で叫ぶと、ようやくベティも止まってくれた。悪魔的な表情だった。弄ばれていたのは、間違いなさそうだ。
「レオンはさあ・・・」
次は何を言い出すのかと思って、レオンは心の準備をする。
だが、ベティの言葉は、今度こそ正論だった。
「いくら強くなっても、たぶん女の子には勝てないよねー」
思いっきり上半身から力が抜けた。
反論の余地は欠片もない。
「・・・せめてモンスターには勝てるように頑張ります」
不思議なもので、今ならばどんなモンスターにでも立ち向かえる気がしたレオンだった。




