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夢色彩のカーバンクル  作者: 倉元裕紀
第5章 ファースト・アイ前編
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冷涼たる玄関



 とても大きいものだというのは、頭では分かっていた。

 しかし、いざ近くで見てみると、その大きさに圧倒される。

「広いなあ・・・!」

 馬上で呟くレオン。自然と声が出てしまう程、目の前の光景には途方もない力がある。

 自治都市ユースアイの東にある湖。

 一応名前はあって、アステア湖というらしい。しかし、町でその名前を使う人はおろか、知っている人もほとんどいないという事だった。ユースアイの人々はここを単に湖と呼ぶ。周囲には他に湖がないからで、それで支障がないと言えばないのだが、他の町の人の場合はそうはいかない。多くの場合、ユースアイの人は他の町からやってきた人がアステアという言葉を使う度に、そういえばそういう名前だったなと思い出すらしい。

 それとは別に、東の湖には通り名がある。

 ユースアイの青い瞳。

 西にある林も、地図上ではちょうど丸い形をしているらしく、西の林と東の湖がちょうどふたつの瞳のように見える。だから、林の方が緑の瞳。湖の方が青い瞳だとよく呼ばれるらしい。こちらはユースアイの人にも馴染みがあるらしく、湖が氾濫した時などは、湖が泣いたと表現される事もあるようだ。

 年に数回泣くと言われるこの湖だが、今日は静かに佇んでいる。清らかな水色の湖面には遠くの山々の景色が鏡のように映っていた。辺りに漂う空気は涼やかで、大きく吸い込むと、身体の中まで綺麗に洗われるようだ。

 荘厳でなんとなく閉鎖的な山々とは違う、身体を弾ませるような開放的な場所。どちらも確かに大自然の広大さを感じるのに、実際の印象は正反対だった。

 もちろん、レオンの村からはこの湖は見えない。湖というものを見たのは、ユースアイに来てからが初めてである。

「綺麗ですね・・・」

 隣に馬を並べているステラが溜息を吐くように言った。その青い瞳に、同じ色の美しい景色が映っているのだろう。今日の彼女は白いマントの下に淡いブルーの魔導衣を着ている。柔らかいブロンドのショートヘアが、優しい風によって気持ちよさそうに揺れていた。

 レオンが自分の右肩を見てみると、白毛のカーバンクルもじっと湖を見つめていた。その感情は分からないものの、きっと妖精でも心奪われる景色なのだろう。

 再びステラに視線を戻して、レオンは聞いた。

「ステラも湖は初めて?」

 彼女もこちらを見る。懐かしげな表情だった。

「小さい頃に一度だけ・・・ここよりももっと小さいところでしたけど」

「へえ・・・」

 さすがにいろいろな経験をしているようだ。もっとも、レオンよりも経験の少ない人間というのは、あまり多くはないだろう。

「でも、夢には何度も出てくるんですよ。もっと大きいところか・・・いえ、もしかしたら、ここが氾濫した時の姿なのかもしれませんけど」

 彼女の夢という事は、すなわちサイレントコールドの記憶という事になる。まだユースアイの町はなかったはずだが、この湖はずっと昔からあっただろう。伝説の彼女はレオンの村の出身だから、この湖に来た事があっても不思議ではない。

「そうか・・・あ、もしかして、イブ様もファースト・アイに挑戦しに来てたとか?」

 ステラは湖を見る。

「挑戦ではないですけど、湖にモンスターが住み着いていて、それを倒しに来てたんです。それで、モンスターと魔法勝負になったんですけど、向こうが水を操作して攻撃してくるので、イブさんは湖面を全部凍らせてそれを封じたんです」

 当たり前みたいにステラは言ったが、そこでレオンも思わず湖を見る。

 ここからは端が霞んで見えないような規模の湖である。

「・・・凍らせたって、全部?」

「はい。でも、表面だけですけど」

 どんな戦いだったのだろうか。スケールが違い過ぎて想像出来ない。少なくとも、レオンのように、位置取りがどうとか急所がどうとか、そんなレベルの話ではなさそうだ。

 しばらく無言で湖を眺めていた見習い2人だったが、突然ステラが思い出したように言った。

「湖も綺麗ですけど、海も綺麗ですよ。ここよりももっと広いんです。イブさんでも、きっと全部は凍らせられないと思いますよ」

「へえ・・・」

 海というのもまた、レオンには未知の存在である。

「私の実家は海のすぐ近くなんです」

「そうなの?」

「はい。ここよりもずっと暖かいところで、夏は泳いだりも出来ますよ」

「泳ぐ・・・」

 言葉の意味がはっきり把握出来ないというレオンの表情を見て、ステラは少し首を傾げたが、やがて気付いたように言った。

「あ、もしかして、泳いだ事がないですか?」

 それは確かにその通りだが、レオンの場合はもっと極端だった。

「いや、そもそも、泳ぐってどういう意味?」

 何度か瞬きするステラ。

「えっと・・・水の中に入って、手とかをこう、動かして進む事でしょうか」

 手をなにやら水平に動かすステラ。ただ、彼女も馬に乗ったままだったので、バランスを崩しそうになってすぐに手を手綱に戻した。

 少し考えてから、レオンは控えめに答える。

「多分ない・・・かな」

「・・・多分、ですか?」

 軽く頷くレオン。

「水の中に入った事はあるけど・・・手をそうやって動かした事がないから」

「あ、泳ぎ方はいろいろあると思いますよ」

「いや、なんていうか・・・そもそも肩まで水に浸かれるような場所がなかったから」

「ああ・・・」

 ステラは何度か頷いた。ようやく会話が噛み合ったようだ。

 再び湖を一瞥して深呼吸してから、レオンは尋ねる。

「海か・・・ここよりも広いの?」

 彼女は少し嬉しそうだった。

「そうですよ。世界で一番広いんです。その上を大きな船が行き交っているんですよ」

「大きな船・・・」

 湖の上にもいくつかボートが見える。それどころか、人の姿がちらほらと見受けられた。どうやら観光客らしい。対岸では湖を見ながら歩いている家族連れや、こちらを見ている漁師らしき人もいる。

「そうか・・・海っていうのもいつか見てみたいな」

 呟くように言うと、ステラは笑顔で言った。

「冒険者になれたら、きっと見られますよ。その時は私が案内します」

「そうだね、頑張ろう・・・あ、でも、僕ばかり悪いかな」

 すると、ステラは表情だけ不満そうになる。しかし、目はしっかりと笑っていた。

「そんな事はいいんです。あ、でも・・・そうですね。じゃあ、いつかレオンさんの村に案内して下さい」

 交換条件という事らしい。しかし、レオンの村の場合、行こうと思えば数日で行ける場所にあるから、平等なのかどうか分からない。

 それでも、レオンの村から見る雪景色というのは、ステラがずっと憧れていた景色なのだ。

 微笑んでからレオンは答えた。

「分かった。じゃあ、とりあえず、その為に今出来る事を頑張ろう」

 その微笑みの中に真剣さを含ませてから、ステラは力強く頷いた。

「はい。頑張りましょう」

 心持ちを新たにする見習い2人。

 しかしながら、そこで不意にステラが動揺したのが表情で分かった。それが分かったのはレオンだけではなく、彼女が乗っている馬もそうだった。

 つられて動揺しそうになる馬を、慌ててステラは落ち着かせる。

 その直後、レオン達の背後から馬が駆けてくる音が聞こえてきた。

 なんとなく、この先の展開がレオンには想像がついた。自分は全く感じなかった気配を、ステラは感じ取っている。

 要するに、その気配の主は男性だろう。

 馬を歩かせて向きを変えると、こちらに馬を駆ってやってくる人物の装いが目に飛び込んできくる。

 それを見たレオンは少なからず驚いた。

 甲冑と呼ばれる物があるが、それほど物々しい装備ではない。だが、金属や革を中心に組み合わされた頑丈そうな鎧は、十分な風格を着用者に与えている。その金属も普通の鉄とは明らかに違う白銀の輝きを放っていて、彼が一人前の冒険者である事を如実に語っていた。

 彼はレオン達の数メートル手前で馬を止めると、白銀の兜を外してその相貌を露わにする。

 ダークブラウンの髪と瞳がよく似合う、スッキリとまとまった精悍な顔立ち。だが、今日はその冒険者らしい装いの為か、いつもよりも逞しい印象が強かった。

「お帰り。ブレット」

 無事に帰ってきて良かったという感情のまま、笑顔でそう言ったレオンだったが、彼はこちらを一瞥しただけで、すぐにステラの方を見た。

 そのステラがなんとかそちらに馬を向かせたところで、今までの真剣な顔が何だったのかと思う程、彼は溢れんばかりの笑顔になった。

「お久しぶり、ステラ。君のお陰でなんとか生きて帰ってこられたよ」

 どういう意味なのかレオンには謎でしかなかったものの、どうやら相変わらずのブレットのようなので、何故か少し安心したレオンだった。

 しかし、当然というべきか、ステラは返事しあぐねているらしい。仮にレオンが同じ立場だったとしても、きっと返事しにくかっただろう。どういう返事を期待されているのかが全く分からない。

 その結果生じてしまった沈黙が居たたまれなくなってきたところで、一瞬で真剣な表情に戻ったブレットがこちらを向いて言った。

「これからファースト・アイか」

「あ、うん」

 彼はちらっとステラを見る。その一瞬だけ笑顔になるので、器用だなとレオンは思った。

「2人というのは許し難いところだが・・・何か下手な真似をしてみろ。見習いだろうが、すぐさまこの剣の錆にしてやる」

 腰に下げている立派な剣に手をかけながらブレットは言った。

 下手な真似という言葉の意味が曖昧だったものの、これからダンジョンに行くのだから、つまり、ダンジョンでは慎重に行動しろという意味なのだろう。実際にダンジョンで下手な真似をした場合、剣の錆にされる以前にそもそも大怪我をしているはずだが、彼流の激励の仕方なのかもしれない。

「分かった。ありがとう」

 笑顔で言ったレオンだったが、何故かブレットは意表を突かれた様子だった。

「・・・本当に分かっているんだろうな?」

「え?」

 思わず聞き返すレオン。自分の中では、初めて会話が成立したような気がして、結構喜んでいたところだったのだが。

 そこでまた謎の沈黙が訪れたが、結局ブレットは馬を町の方に向ける。

「まあいい。武術大会の日にはっきりする事だ」

 今の話と武術大会と一体何が関係あるのだろう。なんとなくだが、やはり会話が噛み合っていなかったのかもしれないと、レオンは思った。

 彼はそこでステラに微笑みを向ける。

「魔導具を新調したんだね。とてもよく似合ってる」

 ステラの荷物からは黒い杖が飛び出している。すぐに魔導具だと見抜いたのはさすがかもしれない。

「じゃあ、リディアやデイジーも待っているからね。悪いけどここで失礼するよ」

 最後にこちらをどこか冷たい視線で一瞥したものの、結局彼は何も言わずに去って言った。

 結局何を言いたかったのか分からなかったが、とりあえず彼が無事に帰ってきたので、それが何よりだろう。

 そこでレオンは、思い出したようにステラを見た。

 以前はこちらが狼狽える程取り乱していたステラだが、どうやら今日は大丈夫だったようだ。距離がそこそこあったのが功を奏したのだろうか。

 しかし、彼女は何故か後ろを振り向いて湖の方を見ていた。

「・・・ステラ?」

 こちらの声にやや間があったものの、彼女は答えた。

「ちょっと・・・綺麗なものを見てると落ち着くので」

 言い訳するような口調。

 どうやら、しっかり取り乱していたらしい。

 レオンも何も言わずに涼やかな湖を見つめた。ブレットがちょっと気の毒かもしれないと思いながら。

 そのまましばらく湖を見てから、レオンとステラは再び馬を走らせる。

 湖の周囲は、時折氾濫して水に浸かるからなのか、多少ぬかるんだ湿原になっているものの、それほど歩きにくいというわけではない。丈の短い草が生えた平原が広がっており、どちらかというと見栄えのいい場所である。鳥達の姿は湖面にも湖畔にも多く見られるものの、他の動物の姿は少ないようだった。その辺りは、町の西と東で多少違いがあるようだ。

 レオン達の目的地は、湖の西岸を少し北に進んだ場所にあった。

 湖岸から20メートル程内側に、小さな島のようなものがある。本当に小さな規模のもので、恐らく10メートル四方くらいの面積しかない。

 その島の真ん中辺りには、聞いていた通り、地下へと続く階段が見える。

 2人は馬を近くの木につなぎ止めてから、湖岸に立ってその小島を見つめた。

「えっと・・・あれだよね」

「そうみたいですね」

 確認し合う見習い2人。レオンの肩にいるソフィだけは、興味がないのか、その場所でうつ伏せになって眠たそうにしていた。

 要するに、あの階段こそがファースト・アイの入り口。それはいいのだが、問題はそこまでにたどり着く手段だった。

 当然ながら、ジャンプして行けるような距離ではない。そもそも、向こうの小島まで行く手段が示されていないわけではなかった。誰が見ても分かるような明白な手段が、確かに2人の目の前にある。ただ、正直あまり気が進まなかった。

 それは、小島よりももっとちっぽけな、木製の小舟だった。随分使い古されているのか、お世辞にも綺麗とは言えない。オールの様な物が確かに備え付けられているものの、極端に曲がっているような気がするのは、きっと気のせいではなかった。

 無言でその小舟をじっと見ていたレオンとステラだったが、その後同時に小島の方を見て、そして同時に互いの顔を見た。

「これに乗るみたいだね・・・」

 レオンがまず心配だったのは、この船をちゃんと漕げるのかどうかという事でも、オールが途中で折れないだろうかという事でもなく、2人で乗っても沈まないだろうかという事だった。

 不安というよりも、いまいちピンとこないという表情で、ステラは答える。

「これ・・・2艘しかないんですけど、人がたくさんいた場合はどうするんでしょうか」

 なんとなく視点がずれているような気がしたものの、言われてみればその通りである。

 少し考えたレオンは、なんとなく思いついた予想を口にしてみる。

「例えば、2人で行って向こう岸に1人置いて、1人でまたこっちまで戻ってきて、それでまた1人乗せて・・・って繰り返すのかな」

「あ、なるほど・・・」

 頷くステラ。

「という事は、つまり2人は乗れるって事なんでしょうか」

「ああ・・・」

 今度はレオンが頷く。

 見た目の頼りなさはともかく、2人は乗れるはずだという推測で多少は安心感が生まれた。いつまでも対岸でじっとしているわけにもいかないので、とりあえず、レオンは小舟に乗ってみる事にする。

 それほど重いわけでもないレオンが乗っただけでも、小舟は結構沈んだ。ステラも乗って果たして大丈夫なのか、それとも完全に水没してしまうのか、怪しいところである。

「・・・大丈夫ですか?」

 岸からステラが不安そうに聞くが、この有様で大丈夫だと言っても、恐らく説得力がないだろう。

「まあ、なんとか・・・ダメだったら、泳いでいくしかないね」

 一瞬嫌そうな表情をするステラだが、ふと思い付いたように言った。

「あ・・・もしダメだったら、なんとか湖面を凍らせてみせます」

「え・・・」 

 耳を疑ったレオンだが、ステラは真面目な表情だった。

「全部は無理ですけど、道を作るくらいなら・・・なんとか頑張ってみます」

 それが出来るなら凄い事のような気がしたが、ダンジョンに入る前からヘトヘトになって貰っても困る。

「まあ、ダメだったらね」

 杖を握りながら重々しく頷いたステラだったが、すぐに不安げな表情に戻る。

 それでも、ここで時間をとられても仕方ないので、やがて意を決したように小舟に足を踏み入れてきた。

 一瞬だけ転覆するのかと思わせる程大きく沈んだ小舟だったが、その一度きりだった。ステラが軽いのがよかったのだろうか。そういえば、いつだったか彼女を抱えて運んだ事があったが、その時もかなり軽い印象があった気がする。

 それはそうと、無事乗れただけで喜ぶわけにはいかない。レオンはオールに手を伸ばした。

「えっと・・・こうかな」

 使った事もなければ、使うところを見た事も数度しかないこの道具たが、見よう見まねで漕いでみると、舟はもったいぶったようなスピードでなんとか進み始める。

 そんな素人船頭に気を遣ってくれたのか、ソフィは身軽にレオンから下り立って、ステラの肩まで上っていった。

 そのソフィと長くてかさばり気味の杖を気にしながら、ステラが聞いた。

「大丈夫ですか?私も、何か手伝えたらいいんですけど」

 気持ちは有り難いものの、2人で漕ぐようなスペースはない。

「いや、大丈夫・・・だと思うんだけど、オールの漕ぎ方、これで合ってるのかな」

 言いながらも、あまり合ってないような気がするレオンだった。オールを引く時に水中を漕ぐようにすればいいのだろうか。それ自体は正解のような気がするものの、それにしては優雅過ぎるスピードである。

「多分・・・私も漕いだ事がないので」

 自信なさげなステラ。結構力がいるので、ステラのような女の子にはそもそも無理かもしれない。

「そっか・・・今度誰かに聞いておかないとね」

「そうですね・・・あ、でも、レオンさん、オールは知ってるんですか?」

「あ、うん。ほら、ラッセルの店に飾ってあるから」

「え?あ・・・あれですか」

 なんとなく黙り込む2人。彼の店にある装飾品といえば、その奇抜なデザインが特徴的で、とにもかくにも形容しがたい。ステラが言ったあれというのも、オールと言われればオールに見えない事もないが、実際には穂先のない槍、或いは、先がとれた鍬のような物だった。要するに、用途不明なのは間違いない。話題にしても言葉が続かないという、ある意味禁句のアイテムなのである。

 2人が黙りこくっている間に、小舟はなんとか小島までたどり着いた。

 小島となっている部分だけ水面から出ているものの、その周囲も、他と比べると水深が浅いようだった。途中からは舟が進まなくなったので、2人とも下りてから、船首のロープを引いていく。舟が流されないようにそのロープを杭に結びつけてから、ようやくレオン達はダンジョンの入り口に立った。

 ファースト・アイ。2階層だったビギナーズ・アイに対して、こちらは5階層だと言われている。モンスターの難易度も高いとの事だが、結局体験してみないと分からない。

 それでも、これだけの情報で、特に把握しておく点がひとつあった。

 1日では恐らくクリア出来ない。

 もちろん今日すぐにクリア出来るとは思えないものの、一応レオン達は寝具の用意をしてきている。寝具とは言っても毛布だけなのだが、重さはともかく、結構かさばるのが難点だった。背負い袋に入れて持ち運べるとはいえ、背負ったまま戦闘するわけにはいかない。よって、なるべく荷物の置き場所を確保しながら進むというのが、これから先のダンジョンでは基本になる。

 元冒険者のガレットは、他にもいろいろ教えてくれた。見張りの仕方や、就寝場所を選ぶポイント等である。

 それを一通り思い出してから、レオンはステラを見る。

 彼女もこちらを見ていた。ステラの肩にいたソフィも、いつの間にか眠そうにしていた紅い瞳をぱっちりと開けている。

 何も言わないまま頷いて、2人と1匹はその暗い階段を慎重に下り始めた。



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