05.王子と巫女
古い紙や書物に囲まれた空間特有のなんとも言えない匂い。さきほどまでの気楽さは払拭され、秘された場所は本来こうであるべきと空間が主張しているのではないかと思えるほどの重たい空気が場を満たした。
面倒事はごめんだとばかりに、漂う緊張感をわざと無視した陽炎が、話を続けようとしたところに、空気を読まない脳天気な声が響く。
「んー? あれ? もしかして、龍人様と椿ちゃんってあんまり仲良くないんですか~?」
全員の視線を一瞬で集めた声の主は、少し唇を尖らせて、困ったように首をかしげていた。
「……いえ、別に」
気まずそうに目を逸らす龍人にめぐみが更にたたみかける。
「でも今、めちゃくちゃ険悪な雰囲気でしたよね? 喧嘩でもしてます?」
「喧嘩するほどお会いしてませんわ。ね、龍人様?」
にっこりと微笑んで同意を求めると、龍人からは言葉より先に鋭い視線が飛んできたが、彼の険しい顔を見てめぐみは更に首を捻った。
「なーんか、いつもの龍人様じゃない感じしますけど~。あ、もしかしてお腹空いてたり?」
「な! 違います!」
なんとも間抜けな問いかけを龍人が真面目に否定する。それでも彼の声にはさきほど私たちに向けていたような棘は含まれていなかった。
(王城で龍人様とも仲良くなってたのね)
会話から伺える二人の距離感。めぐみは最初の王城滞在期間で龍人ともそれなりの関係を築いていたらしい。私にはとてもできない芸当で、そこは素直に感心する。
いとも容易く空気の重さを取り払っためぐみは龍人をしばし見つめてから、きらりと瞳を輝かせた。そして脇に置いていた、自分の荷物に手を伸ばす。
「そうだ、そう言えば、この間貰ったお菓子が」
「だから、違いますって! こども扱いはやめてください、巫女様!」
「むー。巫女様じゃなくて名前で呼んでくださいって前から言ってるのにー」
「そんなこと言われても……」
困惑した声。龍人の張り詰めた表情が緩んだのを見て、すかさず陽炎が割って入る。
「めぐみ、おしゃべりはそこまでにして。話を進めるわよ」
「あ~、やっぱりありました~! 龍人様、甘いもの好きでしたよね?」
得意げに取り出したお菓子をめぐみが龍人に渡そうとすると、最初の威厳はどこへやら、金髪の少年はめぐみが近づいた分だけ身体を反らし、陽炎に助けを求めた。
「本当に大丈夫ですから! 先生、お願いします! もう、進めてください」
慌てる龍人を前になんとも言えない気持ちになっている私に、こっそりと雪斗が囁いてくる。
「めぐみちゃんには、全然態度違いますねー。第二王子殿。やっぱ、男は巨乳には弱いんっすかね?」
(知らないわよ。そんなこと)
くだらないことを言った雪斗の足を誰にも見えないように踏みつけると、小さな呻き声が上がる。「そこまで思いきり踏まなくても」という呟きを無視して、私は再開された陽炎の話にいったん集中することにした。




