勇者の夏は、幼馴染たちと紡がれる
ほんものの恋みいつけた♡
「勇者に選ばれましたぞ!」
って、教会のジジイが震える手で神託の紙を掲げた瞬間、
俺の脳内はバラ色の未来予想図で埋め尽くされた。
名前はルチアーノ。
見ての通りの、鏡を見るのが楽しくて仕方ないレベルの美少年だ。
そりゃあ多少、性格がねじ曲がってるとか、
女をステータスの一部としか見てないとか、
自分さえ良ければ世界が滅んだとしても
『――俺が生き残れるなら演出としてアリ』くらいに思ってるとか、
小さな瑕疵はある。
けど、神託は俺を選んだんだぜ?
これで今日から、俺の周りには薔薇の香りを振りまく王女とか、
ツンデレ気味な悪役令嬢とか、
そういう『画面映え』する女子が集まってくるはずだ。
「……で、なんでお前らがそこに並んでるわけ?」
教会の石畳をミシミシ言わせて立っているのは、
見慣れすぎた四つの巨大な影だ。
聖女(物理)、聖騎士(筋肉)、賢者(重圧)、聖弓士(砲撃)。
幼馴染の、ベアトリーチェ、ガブリエラ、アリア、フランチェスカ。
全員、俺より余裕でガタイがいい。
「ルチアーノ、神託は絶対よ。あなたの貞操は、私たちが鋼鉄の檻に入れてでも守り抜くから」
聖女ベアトリーチェが言った。
こいつのどこが聖女だ。首の太さが俺の太ももくらいある。
祈るために組んだ拳は、祈祷というよりは
牛を一撃で屠るための鈍器にしか見えない。
というか、さっきからこいつ、俺の股間のあたりをじっと見てる。
いや、じっとというか、
なんか、獲物を見定めている時の猟師みたいな、
あるいは完熟した果実を今すぐ握りつぶそうとしている猿みたいな、
そんなねっとりした湿度の高い視線だ。
瞳孔が開いてて怖い。
「そうよ。さっきの教会の受付の女、見た? あんな、尻の軽い、歩く感染源みたいな女に、私たちのルチアーノの『聖なる槍』を汚させるわけにはいかないわ」
女聖騎士のガブリエラが、重厚な甲冑をガシャンと鳴らして一歩踏み出した。
地面がわずかに揺れた気がした。
こいつらの偏見は、もはや病気だ。
自分たち以外の女は全員、性病持ちか、
あるいは俺をたぶらかして国を滅ぼそうとする魔女だと思い込んでいる。
ちなみに、ガブリエラの視線も、
さっきから俺の腰のあたりを精密機械のようにスキャンしている。
「はぁ……はぁ……、健全ね……まだ、汚されていないわ……私の鼻が、無垢なる匂いを感知している……」
鼻をヒクつかせながら、一歩一歩、俺との距離を詰めてくる。
待て、その距離は『護衛』じゃなくて『捕食』の距離だ。
「さあ、出発しましょう。今日も王女様が待っているという話だけど、あんな、毎日十人の男と寝ているような女のところに行く必要なんてないわ。私たちが、ルチアーノに適切な『教育』を施せばいい」
賢者のアリアが、分厚い魔導書を片手で軽々と持ち上げながら冷酷に告げる。
その魔導書、たぶん物理攻撃用だろ。
こいつの眼鏡の奥の目は、計算高さというよりは、
解剖医が被検体を見るような冷たさと、
それ以上に矛盾した『ドロドロの欲情』が混ざり合っている。
俺の股間を見ながら、無意識に舌先で唇を湿らせるのをやめてくれ。
マジで、心臓に悪い。
「……あ、逃げようとしても無駄よ」
聖弓士のフランチェスカが、俺の背後で弓を引き絞った。
矢はつがえていない。
だが、放たれるのは空気の弾丸か、それとも彼女の執着心か。
俺が王女様のいる王宮の方へ一歩でも逃げ出そうものなら、
たぶん足首か尻を正確に射抜かれる。
「だって、外の女はみんな毒。私たちは薬。ルチアーノには、薬だけが必要なの。わかるわよね?」
フランチェスカの大きな体が、俺の視界を完全に遮る。
空が見えない。
俺の未来の、キャッキャウフフな青空が、
彼女たちの分厚い大胸筋と広背筋によって、物理的に塗りつぶされていく。
「いや、ちょっと待て。俺は勇者だぞ? 王様に挨拶して、パーティを組んで、伝説の武器を探しに……」
「パーティなら、もう組んでるじゃない」
ベアトリーチェが、俺の肩をガシッと掴んだ。
痛い。
鎖骨が悲鳴を上げている。
「……ああ、ルチアーノの肩……なんて華奢なの。私が守ってあげないと。私が、この腕の中で、一生……そう、一生、閉じ込めて守ってあげないと……」
彼女の手が、肩から滑り落ちて、俺の胸元を探る。
聖女の指先が、服の上から俺の乳首のあたりを執拗に弄り始めた。
「あ、あの女……王女とかいう売女、昨日、ルチアーノと目が合ったわよね? 許せない。あの女の眼球えぐり出してルチアーノの足元に捧げれば、ルチアーノも理解してくれるかしら?」
思考が極端すぎる。
ていうか、俺の意思は?
俺は、あのスラリとした足の、いい匂いのする王女様と、
ワインでも飲みながら
『あら、勇者様ったらお強いのね』
とか言われたいんだよ。
こんな、プロレスの巡業みたいな集団に囲まれて、
毎日筋肉の匂いを嗅ぎながら、
自分の股間を監視される生活なんて……神託のどこにも書いてなかったぞ。
ふと、アリアが俺の耳元で囁いた。
「ルチアーノ、あなたの『そこ』、さっきから少しだけ反応してない? 王女のことでも考えて、不潔な想像をしたのかしら。……いいわ、私たちが、その汚れを『浄化』してあげる」
アリアの手が、俺のズボンのベルトに伸びる。
「ちょっと待て! ここは教会の前だぞ! 公衆の面前だぞ!」
「関係ないわ。聖域なんだから、聖なるパーティーが何をしても、それは聖なる儀式よ」
ガブリエラが俺を後ろから羽交い締めにした。
ベアハッグだ。
肺の空気が全部押し出される。
彼女の硬い甲冑が押し付けられ、鼻腔には鉄の匂いと、女の、
それも野の獣のような濃い体臭が入り込んできた。
「……ん、ぐっ、はっ離せ……!」
「嫌よ。あなたが、あんな汚らわしい王女のところに行かないって誓うまで、このまま絞め続けてあげる。……愛してるわ、ルチアーノ。あなたの、この、小動物みたいな体つき、最高にそそるわ……」
俺は、美しい顔を歪ませながら、天を仰いだ。
神様、聞いてくれ。
俺は確かに、ちょっとだけ屑かもしれない。
女を顔で選ぶし、権力も大好きだ。
でも、これほどの罰を受けるようなことはしてないはずだ。
ガタイの良すぎる四人の幼馴染が、 俺を囲み、物欲しげに、潤んだ目で、
それでいて獲物を屠る直前の獣のように股間を凝視している。
一人は俺を締め上げ、一人は俺の服を脱がそうとし、
一人は王女を殺す算段を立て、一人は逃げ道を塞いでいる。
「……あ、見て。ルチアーノの顔、苦しそうで、すごく綺麗」
フランチェスカが、うっとりと呟いた。
「……もっと、いじめたい。あんな売女たちに触れられる前に、私たちが、中も外も、全部、自分たちの色に染め上げちゃいましょう?」
あ、これ、死ぬ。
王女様とのラブコメどころか、
俺の『聖なる槍』が、彼女たちの手によって、
物理的に破壊されるか、
あるいは吸い尽くされるかの二択しかない。
「さあ、教会の中に連れて行きましょう。地下に、ちょうどいい礼拝堂があるわ。鍵もかかるし、防音もしっかりしてる」
ベアトリーチェが、俺を片手でひょいと担ぎ上げた。
お姫様抱っこならぬ、米俵担ぎだ。
俺の視界は、彼女の広大な背中と、逞しい二の腕で埋まった。
「王女様ぁぁ! 助けてくれぇぇ!」
俺の叫びは、彼女たちの熱い吐息と、ミシミシと鳴る筋肉の音にかき消された。
教会の重い扉が、背後で閉まる。
絶望的なことに、俺の股間は、恐怖と、
そしてあまりにも強烈な『女』の圧力と獣臭に屈して、
情けなくも少しだけ、熱を持ってしまっていた。
それを見逃さなかったアリアが、暗闇の中ニヤリと笑った。
この笑顔、毎晩夢に出てきそうなんだけど――。
とはいえ、この想いが本物の恋に発展するだなんて、
あの時の"僕"たちには知る由も無かったんだ。
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