公開処刑で婚約破棄された私を拾った女嫌い公爵様、実は私を救うため何十周もループ済みの重すぎる溺愛勢でした。『白い結婚』のはずが「二度と死なせない」と過保護にされ、今さら震える元婚約者はもう手遅れです
指示書とプロットに基づき、ご要望の「甘々ハッピーエンド(A案)」にて執筆いたしました。
ご指定の構成案をベースに、読みやすさとテンポ、そして後半の感情の盛り上がりを重視しています。
***
**タイトル:公開処刑みたいに婚約破棄された私、問題あり公爵様に拾われて「白い結婚」したら、実は何度も私を喪ってきた旦那様の最終周回でした**
「リゼリア・ノクトラム。おまえとの婚約を、この場をもって破棄する」
王太子カルナード・ヴェルセインの声が響いた瞬間、夜会会場の空気が凍りついた。
グラスの触れ合う音も、楽団の奏でる旋律も、何もかもが途切れる。
集まった貴族たちの視線が、一斉に私へと突き刺さる。
それでも、私の頭の中には、ひどく冷静な言葉だけが浮かんでいた。
(ああ、来ましたね。婚約破棄イベント)
前世の記憶がある私にとって、これはある意味で予想通りの展開だった。
王太子の隣には、儚げな表情をした聖女エリュシアが寄り添っている。
「リゼリア、おまえは聖女エリュシアに対し、数々の陰湿な嫌がらせを行ったそうだな」
身に覚えのない罪状が読み上げられる。
教科書通りの断罪劇だ。
反論したところで、すでに根回しは済んでいるのだろう。
「……身に覚えがございません」
一応、形式的な反論だけは口にする。
けれど、カルナード殿下は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「ふん、往生際が悪い。このような毒婦を王家に迎えるわけにはいかない。衛兵、こいつを地下牢へ……」
その時だった。
「待たれよ」
低く、けれどよく通る声が広間を制した。
ざわめきが波のように広がる。
人垣が割れ、一人の男性が歩み出てきた。
漆黒の髪に、凍てつくような氷蒼の瞳。
若くして広大な領地を治め、国一番の資産家でもあるヴァルシュ公爵だ。
彼は「女嫌い」で有名で、夜会に顔を出すことすら珍しいはずなのに。
「ヴァルシュ公爵……何の用だ?」
不機嫌そうに問う王太子に、公爵は表情一つ変えずに告げた。
「ならば、その不要になった婚約者を、私に譲っていただきたい」
「は?」
会場中が呆気にとられた。もちろん、私もだ。
ヴァルシュ公爵は王太子を一瞥もしないまま、淡々と続ける。
「ノクトラム家の名誉は私が保証する。王家にとって彼女が邪魔だと言うのなら、私が引き取りましょう。……もちろん、相応の“寄付”を王家に納めさせていただく」
それは提案ではなく、取引だった。
王太子の顔色が、侮蔑から強欲なものへと変わる。
厄介払いができて、しかも金が入るなら好都合だと判断したのだろう。
「……好きにしろ。そんな傷物を拾うとは、公爵も物好きだな」
許可が出た瞬間、ヴァルシュ公爵が私の前へと歩み寄ってきた。
間近で見ると、息を呑むほど整った顔立ちをしている。
けれど、その瞳には何の感情も映っていないように見えた。
「リゼリア嬢」
「は、はい」
「君の命が惜しい。私との婚姻は『白い結婚』にする。手も出さない」
あまりに事務的な囁きに、私は瞬きをした。
初対面の男性に、いきなり初夜拒否宣言をされたわけだ。
「……どうして、そこまで?」
思わず問い返すと、彼は一瞬だけ目を伏せた。
「もう、君を失いたくないからだ」
その声が、泣きたくなるほど切なく聞こえたのは、私の気のせいだったのだろうか。
◇
書類上の手続きは、驚くほどあっさりと終わった。
私はその日のうちに、公爵邸へと移り住むことになったのだ。
「君の部屋はこちらだ。私の部屋は、廊下の向こうにある」
案内されたのは、最高級の客間だった。
ふかふかの絨毯に、天蓋付きのベッド。
けれど、彼の部屋とは随分と距離が離されている。
「本当に、別々なのですね」
「約束しただろう。白い結婚だ」
彼は頑なだった。
使用人たちにも「奥様には指一本触れるな」「夜は絶対に部屋を近づけるな」と厳命しているらしい。
けれど、冷遇されているわけではなかった。
むしろ、その逆だ。
「寒くないか? 君は冷え性だから」
移動中、彼は当然のように自分のマントを私の肩にかけてくれた。
「この茶葉を用意させた。君の好みだろう?」
ティータイムに出てきたのは、私が一番好きな、けれどあまり流通していない銘柄の紅茶だった。
「……どうして、ご存じなのですか?」
「君に似合うと思っただけだ」
彼はいつもそう言って誤魔化す。
朝食の卵の焼き加減も、枕の高さの好みも、読みかけの本の趣味も。
ヴァルシュ公爵は、私のことを何もかも知っていた。
まるで、何年も連れ添った夫婦のように。
ある日、私が執務室で書類仕事を手伝っていた時のことだ。
紙の端で、指先を少し切ってしまった。
「っ、痛……」
「リゼリア!」
血が滲んだ指を見た瞬間、ヴァルシュ様が椅子を蹴倒す勢いで駆け寄ってきた。
「見せてくれ。……ああ、なんてことだ」
「あ、あの、ただの紙で切った傷です。唾をつけておけば治る程度で……」
「駄目だ。すぐに手当てを」
彼は真っ青な顔で、私の指をハンカチで包み込む。
その手は、小刻みに震えていた。
「血を見たくないんだ。……君が傷つくところなんて、もう二度と見たくない」
その必死な様子に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
この人は、誰を見ているのだろう。
私を通して、誰か別の「大切な人」を重ねているのだろうか。
「白い結婚」は私のためだと言った。
けれど時々、彼はとても苦しそうに私を見るのだ。
◇
穏やかな日々は、1通の招待状によって破られた。
差出人は王太子カルナード。
『公爵夫妻の仲睦まじい姿を披露する舞踏会』という名目の、悪意ある呼び出しだ。
「……行きたくありません」
「断れば、君の実家に難癖をつけられる。私だけで行く」
「いいえ。妻として、私も参ります」
私が引かないとわかると、ヴァルシュ様は深く溜息をついた。
その夜、私は偶然、侍女たちの噂話を耳にしてしまった。
「やっぱり、旦那様は奥様を愛していらっしゃらないのかしら」
「違うわよ。公爵家の呪いのせいだって」
「ああ……愛し合った伴侶の命を奪うっていう……」
背筋が冷たくなった。
呪い。歴代当主が短命か、あるいは独身を貫いている理由。
その夜、私は彼の部屋の扉越しに問いかけた。
「ヴァルシュ様。……白い結婚は、私のためですか? それとも、公爵様のためですか?」
長い沈黙の後、扉の向こうから声が届く。
「……君の命を守るためだ」
それ以上の言葉はなかった。
◇
舞踏会の会場は、予想通りのアウェーだった。
王太子と聖女エリュシアが、私たちを見つけて嘲笑を浮かべる。
「やあ、公爵。噂によると、まだ夜の務めを果たしていないそうじゃないか。枯れているのか?」
周囲の貴族たちがクスクスと笑う。
ヴァルシュ様は私の腰に手を回すことさえせず、ただ無言で立っていた。
それが「愛がない証拠」だと、周囲は思ったのだろう。
「おいリゼリア。本当は寂しいんだろう? 元婚約者のよしみで、私が慰めてやろうか」
王太子が私の腕を掴み、強引に引き寄せようとした。
下卑た笑みを浮かべた顔が近づいてくる。
「やめ……っ!」
その時だった。
ガシッ、と王太子の腕が掴まれた。
「リゼリアに触れるな」
ヴァルシュ様だった。
普段の冷静さからは考えられないほどの殺気。
彼は王太子を突き飛ばすと、私を強く抱き寄せた。
「きゃっ……」
勢い余って、私たちの体が密着する。
額と額が触れ合うほどの距離。
ドクンッ。
心臓を鷲掴みにされたような、激痛が走った。
喉が焼けるように熱い。
視界がぐらりと揺らぐ。
「ぁ……、ぐ……っ」
「……っ、しまった!」
ヴァルシュ様が私の体を支えながら、血の気を失った顔で叫んだ。
「またここか……。あと1日で、呪いの期限が切れるはずだったのに……っ!」
「……え?」
薄れゆく意識の中で、彼の悲痛な声が聞こえた。
「どうして君は、毎回、毎回ここで僕を庇うんだ。リゼリア……ッ!」
◇
目が覚めると、私は人気のない休憩室のソファに寝かされていた。
痛みは引いている。
傍らには、術式を使ったのか、ひどく消耗した様子のヴァルシュ様が座り込んでいた。
「……ヴァルシュ様」
「気がついたか。……すまない、一時的に痛みを散らしただけだ」
彼は今にも泣き出しそうな顔で、私の手を握りしめていた。
もう、隠し事はできないと悟ったのだろう。
彼はぽつりぽつりと話し始めた。
「私は、何度も時間を繰り返している」
「時間、を……?」
「君と結婚し、そして君が死ぬ運命を変えるために」
彼は語った。
1度目の人生でも、2度目も、3度目も。
私たちは恋に落ち、結婚した。
けれど、初夜を迎えて愛を確かめ合うたびに、呪いが発動して私が死んでしまったこと。
国が滅ぶルートもあった。
私が処刑されるルートもあった。
それでも彼は、そのたびに時間を巻き戻し、私を選び続けてくれたのだという。
「今回は、完璧だと思った。期限が来る明日まで、君に指一本触れずにいれば、呪いは解けるはずだったんだ」
彼は悔しげに拳を握りしめる。
「君を巻き込みたくなかった。だから『白い結婚』を装ったのに」
私は、溢れ出る涙を止められなかった。
この人が、どうして私の好みを全て知っていたのか。
どうして、あんなに切ない目で私を見ていたのか。
すべての辻褄が合った。
「……そんなの、ずるいです」
「リゼリア?」
「私だけ、何も知らない顔で。あなたに助けられて、優しくされて……」
私は身を起こし、彼に向き直った。
胸の痛みはまだ残っている。けれど、そんなことはどうでもよかった。
「何度も私を好きになって、何度も私を失って、それでもまた……私を選んでくださったんですか?」
「……何度君を喪っても、次の周回で君を見つけるたびに、また恋に落ちるんだ」
彼は力なく笑った。
「それが呪いなのか、私の愚かさなのかも、もう分からないけれど」
ああ、この人は。
どれだけ孤独な時間を過ごしてきたのだろう。
私は彼の手を取り、自分の頬に寄せた。
「もうすぐ日付が変わります。呪いの期限ですよね」
「だめだ、離れてくれ。今近づけば、君の心臓が止まってしまう」
彼は手を引こうとした。
けれど、私は離さなかった。
「もう、白いままでは嫌です」
「リゼリア!」
「私も、ちゃんとあなたを好きになりました。……何周分もの片思い、今ここで受け取ってください」
私は彼の首に腕を回し、その唇を塞いだ。
一瞬、彼が息を呑むのがわかった。
心臓が大きく跳ねる。
けれど、そこに痛みはなかった。
代わりに、体の中から重い鎖が弾け飛ぶような、温かな感覚が広がっていく。
窓の外で、深夜を告げる鐘が鳴り響いた。
◇
恐る恐る目を開けると、そこには驚愕に目を見開いたヴァルシュ様がいた。
「……痛くない、のか?」
「はい。むしろ、体が軽いくらいです」
彼は震える手で私の頬に触れ、それから肩を、背中を確かめるように撫でた。
呪いの反応はない。
私は生きている。
「解けた……本当に、解けたのか……」
「みたいですね」
私が微笑むと、彼は糸が切れたように私を抱きしめた。
今までで一番強く、けれど優しい抱擁だった。
「やっとだ。……やっと、君に触れられる」
耳元で震える声を聞きながら、私は彼の背中に手を回す。
長い長い、彼の孤独な戦いが終わったのだ。
「ヴァルシュ様」
「なんだ」
「これからは、白い結婚じゃなくていいんですよね?」
彼は顔を上げ、少し照れくさそうに、でも今までにないほど幸せそうに笑った。
「もちろんだ。……覚悟しておいてくれ」
「はい?」
「何周も我慢してきた分の『好き』を、まとめて返させてもらうからな」
その瞳の熱っぽさに、私は顔が熱くなるのを感じた。
でも、負けじと言い返す。
「望むところです。……これからは、ずっと一緒ですよ、旦那様」
その夜、公爵邸の一室の灯りは、いつまでも消えることはなかった。
世間的には、私たちは相変わらず「不仲な白い結婚」ということになっているらしい。
けれど、本当のところは当人たちしか知らない。
私たちの結婚生活は、確かに「白」から始まった。
でも今はもう、どんな色よりもあたたかい色に染まっている。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
何周しても、何度失っても、それでも君が好き。
そんな一途で重すぎる執着溺愛公爵様のお話でした。
もし少しでも「面白かった!」「ハッピーエンドでよかった!」と思っていただけたら、
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