1973年8月28日 月曜日 10:10
「……リリ。……起きてる?」
――……アンね。……起きてる。
「ねえ、リリ。あたし、たぶん言いたいこと忘れちゃうから、全部紙に書いて来たの」
――……なに。……どんなの。
「全部。あのね、あたし達が初めて会ったのって、11の時じゃない? その時から、ずっとの事」
――……はは。……昔ね。
「ねえ、読んでもいい?」
――……ええ。……聞いてる。
「まず、11の時。転校してきたばっかのあたしに、いい匂いの消しゴムをくれた。めちゃくちゃ嬉しかった。ありがとう」
――……ふふ。……そんなこと。
「それにね、マギーが意地悪して来た時に、先生に言うわよって助けてくれた。教科書も見せてくれた。ありがとう」
――……うん。……うん。
「13の時。あたしのママが居なくなっちゃって、パパも全然帰って来なくて、でもそんな事あたし、何も言わなかったのに、気づいてくれた。そして夏には家族のキャンプへ一緒に連れて行ってくれた。覚えてる? あたしはめちゃくちゃ覚えてる」
――……覚えてる。
「めちゃくちゃ嬉しかった。小父様かっこいいし、小母様美人で優しくて、何か本当に姉妹になったみたいで、あたし嬉しかった。ありがとう。凄くありがとう」
――……うん。
「15の時、あたしがバリーに熱を上げて、ちょっと馬鹿みたいになってて、でもリリは冷静で、すぐ『あんまりいい男じゃないわよ』って言ってくれた。なのにあたし全然聞かなくて、リリは嫉妬してるんだわ、何て思って、全然駄目で」
――……ふふっ。
「結局酷い感じで振られて、そしたら『だから言ったじゃん』とか言わないで、あたしじゃなくてバリーの事を怒って、クラスまで乗り込んで蹴り入れてくれて」
――……ふふ。……なっつかし……。
「めちゃくちゃかっこ良かった。リリが男だったら良かったのにって思った。リリみたいな完璧なボーイフレンドが欲しいって思った。中々居ないわ。ありがとう。あの時男を見る目が出来たと思う」
――……ふっ、うん。……そうね。
「18の時。あたしが家に帰りたくなくて、ずっとリリの一人暮らしの部屋に入り浸ってた。半年くらい? あたし、何もしてなかったのに、全然怒んなかった。でも、使った食器を洗う事については厳しくしてくれたから、あたし今でもちゃんと自分で洗うのよ。一昨年食器洗浄機買ったから自分じゃないけど。ありがとう」
――……よかった。
「22の時。運転免許を取ったばっかりの時、リリを助手席に乗せて運転の練習をした。沢山したけど全然上手くならなくて、借り物の車だったのに擦っちゃって、そしたら持ち主に一緒に謝りに行ってくれた。あの時リリがすっごく可愛い顔で『ソーリー?』って言ったから、許してもらえたんだと思う。ありがとう」
――……うふふ。……そうかも。
「それに、25の、ベッキーの結婚式で一緒にブライズメイドした時。新郎の友達にカッコいい人が居て、皆で盛り上がったけど、既婚者だった。あの時リリが言った『いい男は大体売約済みよね』ってボヤき、めちゃくちゃ面白かった。それに真理だわ。ありがとう」
――……あはは。……面白い。
「……29、あたしが食器洗浄機買った前の年。あたしの運転じゃ心配だからって、バスで4時間もかけて一緒にニューヨークへ行った。ウッドストックフェスでジミー・ヘンドリックスを見る為。……結局、豆粒くらいにしか見えなかったし、雨ばっかで寒かったけど、めちゃくちゃ楽しかった。……リリと行けて良かった。ありがとう」
――……うん。……たのしかった。
「……31、あっあたしが……あたしが、やっと、アシスタントじゃない、自分の仕事を貰えて。椅子をデザインさせて貰えて。前にリリが『いいわね』って言ってたあたしの落描きから、デザイン起こして。それなりに売れて。リリも買ってくれて。嬉しくて。……でも多分一番嬉しいのは、あたしがずっと『第二のフローレンス・ノールになる』って言ってたの、馬鹿にしないでくれて。女が家具デザイナーになるなんて無理だって、皆言ってたのに、リリは、ずっと応援してくれて。それが、嬉しくて」
――……うん。……うん。
「……ありがとう。……リリは、ずっとあたしの事信じてくれた。あたしが自分の事信じられなくても、信じてくれた。嬉しかった。ありがとう……」
――……運転は……信じてないわ……。
「――うふふ。でも助手席には乗ってくれるじゃない。……リリ、大好き。……ねえ、謝ってもいい?」
――……なに。
「……あたし、リリが死ぬとか考えたくなくて、シドニーに来てからずっと、そんな事ないって思い込もうとしてた」
――……うん。
「ジェイクにも、小父様にも、小母様にも、何度も諭された。それじゃいけないって。リリがあたしの事、心配したままにしちゃいけないって」
――……うん。
「リリ。……寂しいよ。……悲しいよ。リリが、居なくなるの、やだよ」
――……うん。
「ねえ、死なないで。リリ……死なないで」
――……うふ。……がんばる。




