1973年8月23日 木曜日 10:21
「……リリ、もう20分も前から、通りの向こう側に飾り付けしたミニバスが停まってるわ」
……最悪ね。やだあ、ご近所の方々に、何事かと思われるじゃない。
「子どもたちが寄ってってる。多分アイスクリームの販売車だと思われてる」
あっはは、何それ? もう、何をやらせても締まらないわね、ジェイクは!
「まあ、そこが愛らしいって言えるんじゃない?」
まあ! エミーは善意の塊ね! ねえ、口紅の色、これで良かったかしら。もっと赤っぽい方がいい?
「どっちも可愛いけれど、今のオレンジが少し入ったピンク、最高に素敵で似合ってるわ、それで行きましょうよ!」
そうね。顔色も良く見えそうだし、いいわよね。……時間になった?
「まだよ! もうちょっと。うふふ、ちゃんと時間丁度にチャイムが鳴るから、見ていて」
そうね。……後何か、忘れ物はないかしら。
「モルヒネは飲んだ?」
飲んだわ、大丈夫。
「体調はどう? 眠気とかも」
大丈夫よ。ありがとう。――ねえ、やっぱり何か変じゃない? ドレス、似合わないかも?
「何言ってるのよ、ハルストンがあなたの為にデザインしたドレスじゃない! あなた以外に着こなせる人なんか存在しないわ!」
でも、あたし、痩せちゃったのよ。すごく。前はこんなんじゃなかった。前だったら、もっと綺麗に着られたのに。
「もう、リリったら、何だかジェイクみたいじゃない! 自信持って、あなた、今凄く綺麗よ」
やだあ、ジェイクみたい? あはは、あんな情けなくなりたくないわね!
「でしょう? よし、じゃあバスルームの大きい鏡でもう一度チェックしましょう。車椅子押すわよ!」
はあい! あらあ、ひとっ走りね!
「――ほら、ご覧なさいよ。凄く綺麗な子がいると思わない?」
――まあまあね。あたしの方が綺麗じゃないかしら?
「あっはは、その通りね! ……さあ、チャイムが鳴ったわ! 行くわよ!」
「ハイ、ジェイク。――あらー! 凄く決まってるじゃない、白のタキシード! 見違えたわ!」
「ハイ、エミー。ありがとう。……あの、リリは? どうかな?」
「お姫様に拝謁の準備はいい?」
「ああ、うん、もちろん」
「――リリ、いい?」
――……着たわよ。
「…………」
「……凄く綺麗でしょ? 言葉もない?」
……何とか言いなさいよ。
「……あの、あの、リリ。ありがとう、あの。着てくれて。……嬉しい」
……で? 感想は?
「あの、びっくりするくらい、綺麗だ。凄く似合っている。あの、綺麗だよ、リリ」
――まあ、ありがと。……もう、何だか変な感じ。
さあ、行きましょう。近所の子達が見てるじゃない!
「ああ、うん。うん。……ありがとう、リリ、ありがとう」
……やだ、何よ! 泣くことないじゃない!
「あら、ジェイクったら、感激屋さんねえ! 折角カッコよくしているんだからしゃんとしなきゃ!」
「うん、うん。ありがとう……ありがとう」
もう、しっかりしてよ!
「……ふふ、いい一日になるわね。きっとあなたらしい一日よ、リリ」




