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政略結婚のために嫁いだペンギン王女は、手違いでヘタレな第二王子に溺愛される  作者: 兎束作哉
第4章 獣の妻

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02 ヴィルフリート様に贈り物を


「男性用のアクセサリーのプレゼントで、おすすめはありますか?」

「男性用のアクセサリーですか。そうですね……ネクタイピンやカフス、後は時計やバッグなど、色々ありますが」

「なるほど……」



 リーリヤと城下町に出向き、そこで事前に調べていたお店へ入った。

 店内は、様々な小物が所狭しと並んでいる。厳かな音楽が流れ、きっちりと制服を着こなした店員が私たちに対応してくれていた。


 私は、わざわざ自分が獣人であることを明かし、そのうえでアクセサリーを選びたいのだがと店員に伝えた。

 店員は一瞬驚いたが、続いて「失礼ながら、何の獣人でしょうか?」と尋ねてきた。私が、ペンギンだと答えれば、店員はぎゅっと胸の前で手を握ると「かわいい……」と呟き、私の手を取った。どうやら、ペンギンのことを知っているらしく、獣人に対しても偏見がないようだった。

 自身を獣人だと紹介するのは気が引けたが、少しずつ獣人の存在を知ってもらおうとわざわざ口に出しているのだ。そうすることで、獣人と人間の間にできている壁が壊れていくような気がするからだ。



「アルヴィナ様。このカフス、素敵ですよ」



 リーリヤが指をさしたのは、ルビーが埋め込まれているカフスボタンだった。その宝石は、ヴィルフリート様の瞳を彷彿とさせた。確かに、シンプルだが良いデザインだ。



「お目が高いですね。それは、当店自慢の商品ですよ」

「そうなの? でも、こっちのネクタイピンもよさそう……」



 私が見ていたのは、ゴールドに縁どられたネクタイピン。そのネクタイピンに埋め込まれている宝石は、私の瞳に似た色をしていた。



「お客様!! とっても素敵だと思います。こちらは、恋人様に送られる予定ですか?」

「はい。恋人……夫に送ろうかと」

「でしたら、自分のものだと証明できるネクタイピンがよろしいかと。もちろん、相手の色のカフスボタンも素敵ですが、自分のものだとアピールするには、やはり自身のトレードカラーのアクセサリーを送るのがいいと思われます」



 店員は熱烈にそのネクタイピンの良さについて説明した。あまりの熱弁に私とリーリヤは圧倒され、結局カフスボタンとネクタイピンを購入することにした。

 それから店を出て、ホッと息を吐く。



「結局どちらも買ってしまったわ」

「ですが、きっと第二王子殿下も喜びますよ!! アルヴィナ様からのプレゼントですもの。妻から贈り物を貰って喜ばない夫はいませんよ」

「それならいいんだけど」



 この間の手当てのお礼でもあり、狩猟大会後に私にくれた髪飾りのお礼でもあった。

 夫婦となり、まだ贈り物を渡したことがなかったなと思い立ち、城下町に来て選んだのが、思った以上の出費だった。



「アルヴィナ様、その髪飾り、とても似合っていますね」

「そう? ヴィルフリート様が、あの狩猟大会後にくれた。何でも、狩猟大会前に渡したかったらしいのだけど、すっかりタイミングを逃していたらしくてね」



 というのはきっと彼のいいわけだ。


 あのかわいくて奥手な私の夫は、プレゼントを渡すのにも躊躇してしまう人だろうから。ただ、おかげでその髪飾りは傷つかずに済んだ。

 もし、狩猟大会前に貰っていたら、森で男たちに襲われたときに破損していたかもしれない。

 髪飾りは私の黒髪に生える銀色をベースに、白いリボンや羽、黒い真珠が着いた派手過ぎず、お淑やかなものだった。


 ヴィルフリート様は、詳しくは教えてくれなかったけど、私の黒髪に似合うものを頑張って選んだのだとか。その後、カスパーさんから三時間ほどは吟味し、選べなかった末にすべて購入したが一つ渡してくれたという情報を入手した。

 ヴィルフリート様は、元婚約者はいたものの、女性の扱いには慣れていないらしく、私と夫婦になった今も私にどう接すればいいのかわからないらしい。

 そんな話を聞くとますます頬が緩んでしまう。

 あんなに大きな人が、私のためにたじたじしている様子を想像するだけで、なんだかうれしくなってしまうのだ。



「リーリヤもありがとうね。この髪飾りに似合う髪型にしてくれて。ヴィルフリート様も褒めてくれたの」

「それはよかったです。それに! 私は、アルヴィナ様の侍女ですから。貴方様の魅力を最大限生かせる髪型に結うことができるのです」



 えっへん、と胸を張ってリーリヤは笑った。

 今日は、リーリヤ考案の肩の上でお団子にしツインテールになっている。歩くたび、ツインテールが揺れて楽しい。

 私たちはそんな話をしながら、この間ヴィルフリート様といったカフェに向かおうと歩道を歩いていた。すると、私たちの目の前で豪勢な馬車が止まる。

 リーリヤは危ないと私の手を引いて、身を挺して庇ってくれた。



「大丈夫ですか、アルヴィナ様」

「え、ええ……」



 突然のことで驚いていると、馬車から見知った女性が下りてきて、私たちの前に現れた。



「あらあら、小さくて轢いてしまうところだったわ」

「シュフティ嬢……」



 馬車から降りてきた金髪の女性は、狩猟大会以来あっていないシュフティ嬢だった。いつにもまして、ドレスが派手で、胸元が空いたデザインだった。道行く人が二度見するほどのロゼ色のドレスは、私が見てもあまり品がいいとは言えないものだった。

 リーリヤは、シュフティ嬢のことを覚えていたのか、丸い目を鋭くとがらせて威嚇していた。

 しかし、リーリヤに何勝手からでは遅いので、私が彼女の前に立ちシュフティ嬢と対峙する。



「それで、何の用ですか。シュフティ嬢」



 どうせ狙いは私だろう。また嫌がらせをしに来たに違いない。白昼堂々と私に絡むだけによくやるな、とは思う。

 リーリヤは私を心配して名前を呼んだが、私は彼女を安心させるために微笑んだ。

 彼女と対峙するのは三度目であるため、だいたい彼女の性格は把握している。ここで逃げることもできたが、そうすれば彼女はさらに調子に乗るだろう。

 それに、あの狩猟大会での一連の出来事について聞きたいことがあった。疑いたくないが、私が魔法を使うことも、そのうえで氷魔法を使うことも知っているのは彼女か、あのお茶会にいた人たちだけだろうから。



「何も用がなければ話しけてはいけないと? 王女様、それはお高くとまりすぎてはいませんの?」

「……別に、話しかけてはいけないと言っていないのです。こんな白昼堂々、いきなり馬車を止めて話しかけてきた用件を聞いているのです」



 私が強く出ると、シュフティ嬢の顔が歪む。けれど、次の瞬間パッと表情を変え、手を差し出した。それが何を意味しているのか分からず首を傾げていると、シュフティ嬢はわざとらしく微笑んだ。



「この間のお詫びをしたいと思っていたんです。ほら、狩猟大会の日に不快な思いをさせてしまったでしょう? あの件について謝りたいと思ったのよ」



 彼女からあの日の出来事に対し話題をふってくるとは思わなかった。これは、罠だと分かりつつも、探りを入れるチャンスかもしれない。



(彼女とは、分かり合えそうにないけれど……でも)



 彼女の家のことをヴィルフリート様から聞いているため、すぐに獣人への偏見は消えないだろう。それに、彼女からヴィルフリート様を奪っているため、一方的に逆恨みもされているわけだし。



「リーリヤ、王宮のほうに戻ってユーリ……ヴィルフリート様に伝えて頂戴」

「ですが……」

「私は大丈夫。大丈夫だから」



 第二王子の妻である私が護衛も侍女もつけずに、いきなり他の人の家に行くのは非常識だろう。危険だと言われても仕方がない。

 でも、私はリーリヤに強く言って先に戻ってもらうことにした。

 シュフティ嬢はその一連の会話を聞いてニッと口角を不気味にあげ、再度私に手を差し伸べてきた。その手を私は取って、彼女の乗ってきた馬車に乗り込んだ。



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